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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と天使の軌跡 後篇

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 ──ミコト。

 地球より聖女召喚の儀により呼び出され、不適格として追放された少女。
 しかし彼女の善性は決して裏切らず、共に呼び出されていた聖女以上の聖人となった。

 腐っていた教会を正し、同志たちと新たな解釈を用いて宗教を発足。
 彼女の威光と聖具ナシェクの名は、大陸全土に轟いた…………とのこと。


『それでですね、彼女は言ったのです。『たとえカースト最下位の私でも、そして誰だって。善いことをすれば、それに見合うだけの結果が返ってくると』。つまりはですね、それはミコトが──』

「…………長い」

『長い、とは何ですか長いとは! まだあの子の良さの、幾億分の一も語れていないというのに!』

「たしかに話してくれとは言ったが、お前のそれはのろけが強いんだよ……」


 先ほどまとめた情報を聞き出すだけでも、約一時間ぐらい要しました。
 異世界召喚でハズレ認定、仲間と共に後でざまぁ……みたいな感じだろう。

 もちろん、口に出して言ったらロクなことにならないので言わないが。
 当たっていても間違っていても、必ずトークタイムは延長されるだろうし。


「とりあえず、この大陸の出来事じゃないのはよく分かった。ナシェクと会ったあそこが仕入れているのは、この大陸だけじゃないらしいからな。向こうに訊けば、まあそれも分かるかもしれないが」

『! ぜひともお願いします。せめて、亡骸だけでも回収したいのです』

「亡骸ねぇ……ちなみにそのミコトさんが死後、遺体はどうしたんだ?」

『結晶の中に保存していました。解除するためには私の力が必要になりますので、少なくとも亡骸に手を付けられているということは無いでしょう』


 ふと、魂魄大好きな死霊術師(骨)が脳裏に浮かぶが、そんな奴だからこそ持っていれば俺に自慢してくるはず……むしろ、話したらナシェク以上に欲しがるかもしれない。

 だが、世の中に絶対は無いので、本当にそのままとは限らない。
 ……いずれにせよ、早めに見つけ出すのが先決だろう。


「とりあえず、別大陸で仕事をしてくれている連中に探してもらうつもりだ。すぐには見つからないだろうが、時間の問題だ」

『それで構いません。これまで、永い時間を無為に過ごしてきましたので。確実に訪れるのであれば、いくらでも待ちましょう』

「……そんなに退屈はさせないぞ。第一形態なら、俺も使わせてもらうわけだしな」

『! そういう話でしたね。ええ、あの娘ミコトには遠く及びませんが、足元には届く程度には育てて差し上げましょう』


 武器なら耐久度∞のチュートリアル武器に変形できる『初心の武丸』があるものの、アレでは攻撃力が極端に低いため、必要な時に火力を用意できない。

 だが、ナシェクであれば形状に制限はあるが、聖具としての火力が見込める。
 そもそも、九つの形態になれる時点で立派なチート武具だ。

 しかも使わせてもらえないが、第二形態になれば勝手に戦ってくれる。
 一人で二人分の戦闘ができるというのは、攻め手と守り手を用意できるということ。

 ……何度も言うが、使えないけど・・・・・・も非常に便利な能力だ。
 ミコトさんとやらも、重用していたのかもしれないな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 それから数日後、俺はZ商会を訪れて例の質問をしていた。
 ナシェクがあった場所、つまりどの大陸にミコトさんが居たのかという情報だ。


「……まさか、会頭しか知らないと言われるとは思っても居なかった。しかも、当人はまた出張とか言って消えたらしいし」

『…………』

「悪いな。眷属にも頼んで探してもらってはいるが、確実な情報は少なかったし」

『……いえ。ですが、あのお方から大切なことを聞くことができましたので。本当に、感謝しています』


 あのお方、聖具であるナシェクが崇めるような存在。
 眷属の中でもかなり特殊、『超越種』として魂を導いてきた『還魂』のアイのことだ。

 だいぶ前のことだろうが、すでに死んでいるのであれば彼女の管轄。
 そんなわけで聞いてみれば、まさかの覚えているという衝撃展開だった。


「どこの大陸かは分からなかったけど、輪廻の輪に入ったらしいからな。ナシェクは楽しい時間を、ミコトさんにあげられたんだな」


 異世界から来た魂だからか、そのときのことはアイも覚えていたようで。
 充実した人生だった、こちらでの生活は幸福に包まれて終えられたとのこと。


『……ええ。あとは、ちゃんと体を見つけてあげなければなりません』

「…………そうだな」

『? どうかしたのですか』

「いや、何でもないさ……誰もが幸福な結末が、やっぱりいいなって思っただけだ」


 なお、ナシェクには教えていないが、例のミコトさんの残留思念が存在するらしい。
 彼女なりにナシェクのことを心配し、どうにかしてほしいとアイに頼んだそうだ。

 魂魄そのものは輪廻の流れに入ったが、生きた軌跡は残留思念として残したらしい。
 秘密ですよ、と唇に指を当てるアイがとても可愛かったです。

 そういうことなので、ミコトさんの残滓はまだこの世界に残っている。
 場所はアイにも分からなかったが、それでも存在はしているはず。

 体の方に宿っているらしいので、再会させてやらないとな。


「──まあ、その前にまずはイベントを乗り越えないとな」

『イベント? ミコトがよく言っていましたね、『特殊イベント』や『不可避イベント』などと』

「それとはちょっと違うんだがな……まあ、何かあれば頼るかもしれないし、そうなったら力を貸してくれ」

『分かりました。ぜひとも、今の世界にミコトの武術を見せつけましょう!』


 やる気満々なナシェク……には悪いが、たぶん無理かもしれない。
 今回のイベント、一筋縄ではいかないだろうしな。


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