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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と天使&悪魔 後篇

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 聖水の魔力銃を使い、大悪魔に向けて次々と射出していく。
 あれから工夫を凝らし、いろんな使い方を閃いていた。

 弾丸の形を弄るだけでなく、水そのものの性質の方を変えたりもしている。
 温度、粘度、内包物……思いのほか、変えられる物が多くて楽しめた。


「……それで、もう飽きたかな?」

「うーん、銃は飽きたな。でも、まだまだ種類はたっぷりだぞ。そっちこそ、四種類でもう飽きてこないか?」

「種類で悩んだことは無いね。元は君に使わせた四種類だけだったし、そもそもボクはこれだけに頼っているわけじゃないからね──“上位悪魔召喚サモン・グレーター・デーモン”」

「悪魔の軍勢か……まあ、全部使うならちょうどいい──『冥闇の天鎌』」


 大量の悪魔に対して、形態を変化させて構えるのは闇属性の鎌。
 聖なる闇という矛盾した力を持つそれは、刈り取った魂を浄化できるという代物。

 その性能はナシェクが使っているのを見て知っているが……残念ながら俺の適性だと、そこまではできない。

 せいぜい触れた瞬間に、冥界へ送り返すのが関の山。
 だが、それで充分……しばらくは呼ばれても出てこないだろう。


「──『無吸』」
《怪力、剛筋、身体強化、体幹、魔眼、握力強化、軽業、歩行、身力操作、体勢、脚力強化、脱力、指力強化、並列思考、高速思考、魔力体・聖、電導体、血管強化、内臓強化、呼吸、俊足、豪力、健脚、感覚強化、空歩》


 行うのは精霊術、独特の呼吸法で通常よりも大気中のエネルギーを取り込める。
 また、多くのスキルを起動することで低スペックな肉体を補っていく。

 上級悪魔の中には、さらに位の低い悪魔を呼び出す個体が居た。
 そうして現れた悪魔たちから、どんどん攻撃していく。


「──『吸生』」
《拡視、拡聴、見切、行動予測、視界確保、精密操作、立体機動、思考強化、聴力強化、活魔、瞑想、冥想、再生強化、細胞活性、耐久走、持久走、駆足、駈足、並速思考、魔力付与・純、逃走、隠蔽、隠密、隠匿、暗躍》


 もう一つ、大悪魔が使い続けたことで周囲に漂う瘴気を利用した瘴気の運用法──死霊術で行う、触れた物からドレインを行うことができる『吸生』を使用。

 また、それによってさらに余裕ができた身力で使うスキルを増やす。
 息をするだけで増えていた身力を、相手に触れたり姿勢を意識して回復できるように。

 鎌で傷つけた相手は、そうして俺の糧となり始めた。
 途中から気づいて召喚が停まるが、その間に集めた分で上級悪魔にも攻撃可能となる。


「あとは──『遊歩ノ靴フリーウォーク』」
《危機感知、盗聴、並列行動、身力制御、身力探知、模倣、集中、再現、挑発、妨害、悪知恵、加虐、被虐、潜伏、気配遮断、逃足、隠身、警戒、解体、作業、識別、切断強化、報復、悪戯、強者殺、悪逆非道、直感》


 仕上げに魔術デバイスから、自由自在に歩ける魔術を起動。
 上下左右、天地逆転の状態だろうとも、スキルと組み合わせれば動けるようになった。

 武器や魔法、その身を使った突撃などで俺の動きを止めようとしてくるが、気配を断ったうえで、身力制御で偽りの気配を生み出すとそちらを本物だと誤認してくれる。

 当然、そんな隙を見逃すわけもなく、鎌でどんどん冥界送りにしていく。
 大悪魔が上位悪魔を呼び続ける限り、こちらもスキルを大量に使い続けられる。

 思考の大半は次々と仕掛けられる攻撃に。
 だが常に一部分を、ナシェクとの繋がりを確かめるために残している……そこへ、向こうからの思念が届いた。


『貴方は……本当に人族なのですか?』

「凄い質問だな、それ。けどまあ、人の皮を被った化け物……かもしれないぞ」

『自分の口からそうした言葉を言う者は、実は違うか……あるいは、それを自覚している者です』

「で、俺はどっちに見える?」

『後者よりの前者ですね。少なくとも、自制心はあるように思えます。戦闘中に、このようなやり取りをする余裕があるのは、些かおかしく思いますが』


 自分から聞いておいて、そんな結論を出すナシェク。
 俺は苦笑しつつ、ついに召喚を止めた大悪魔の下へ向かう。

 最後の抵抗とばかりに、『時斬る長剣』を振るってくるが──俺に届くよりも先に、構えた鎌が首を狙っていた。


「どうした、もう終わりでいいのか?」

「……君を傷つけたら殺される。そうでなくとも、このまま泥仕合を続けていたら同じことになるじゃないか。そもそも、君はボクに命じれば良かったんだ、止めろと三文字で」

「契約はしたが、自由を奪うとまで言った覚えはないぞ。眷属を害さない限り、俺はお前に命令をしない。ただ愚痴を言うだけ、そういう話じゃなかったか?」


 命令も指令も、指示もお願いも頼みもしない……俺が伝えるのはただの愚痴だ。
 絶対に叶えなくたっていい、向こうも暇潰し程度でやってくれているだけ。

 そんな関係でやっていたからこそ、俺は今回も命令はしなかった。
 そして、そんな関係だからこそ、大悪魔はようやく飽きを見せてくる。


「……聞こえているだろう、模造の天使。君は選択を間違えた。大悪魔であり、魔武具に宿らされたこのボクが保証するよ。彼は、悪魔以上に悪辣な異常者だとね」

「おい、さらっと酷いことを言って──ってそのまま行くんじゃねぇよ!」

「だから忠告するよ、君の願いは最終的には叶うはずだ。だけど、間違いなく君の望む形ではないとね。そのとき、ぜひとも悪感情を出してくれると、悪魔として嬉しいね」


 そう言い残し、魔武具へと自身を封じ込めてから消えていく大悪魔。
 担い手を失ったソレを掴み、俺は何も言わなくなった鎌を腕輪に戻す。


『…………』

「まあ、その……アレだ。アイツの言うこと全部が本当ってことじゃないぞ」

『……一部は、本当なのですね?』

「ああ、否定しない。だけど、俺に改めて願いを言ってくれ。俺は俺のため、お前……いやナシェクに協力したい」


 しばらくして、長ーーーーい沈黙の後、深い嘆息をしてからナシェクは願いを告げる。
 そしてそれを、当然ながら引き受ける俺なのだった。


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