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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と天使&悪魔 前篇

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 そんなこんなで、大悪魔はこれまで俺が振るっていた魔武具『アルカナ』改め『アーケイナム』を使う。

 大悪魔が宿ることで、魔武具自体の性能が上がっていた。
 凶悪さを増した魔武具を以って、大悪魔は模造天使ナシェクを傷つける。


「──『錯乱の鳴杖』」

「! こ、れは……」

「彼が使っていた時と違うって? 当然じゃないか。使うこと自体は許したけど、能力すべてを抑制していたんだから。あの程度の余裕で満足していたみたいだし、まあ仕方ないかもしれないけど」

「…………!」


 俺も知らされていなかった事実。
 そういう理由があったからこそ、何もせず暇だった大悪魔が魔法の行使をやってくれたのかもなぁと納得したりしたが。

 第二形態である『錯乱の鳴杖』は、引き起こす状態異常の性能と発生率が向上する。
 だが、『狂乱の錫杖』の状態の時からあまりに発動しないとは思っていたのだ。

 その裏には大悪魔の暗躍があったわけみたいで、本来なら通っていたのだろう。
 ……まあ、それだとこの流れにはなることは無かっただろうし、気にしないでおく。

 影響を受け、弱体化するナシェク。
 このままならピンチだった……だろうが、ここで『欲望の聖杯』の効果が切れる。


「これならば──」

「──『渇望の聖杯』、『もう一度』」

「っ……!」


 俺が使った『欲望の聖杯』と違い、より燃費が悪くなった魔力さえ払えればほとんどのデメリットが解消される『渇望の聖杯』。

 願い事によって、現在深刻なダメージを受けている俺の設けた縛りが再発動。
 無属性以外、すべての姿でも強さに制限が入るようになった。


「今、これなら勝てると思っただろう? でも残念、悪夢の時間はまだ続いていくよ。それが君の運命なんだろうね、だから君は今ここに居る」

「……まれ」

「たしかに君の担い手だった聖人は、驚異的存在だった。多くの悪魔たちが冥界へ落とされ、世界は混乱したよ……でも、それはほんの一時の間だけ。それ以降、いや聖人の死後そんな事態はすぐに無くなった」

「黙れ!」


 もちろん大悪魔は黙らない。
 強引に黙らせようと『天雷の槌使』で電光石火の速攻を行うが……弱体化しているその動きは、あっさりと見破られる。

 俺が展開した以上の硬貨が生まれ、攻撃の衝撃をすべて吸収。
 そして、ナシェクが纏う以上の雷を迸らせて、その体を遥か彼方まで吹き飛ばす。


「──『崩絡の硬貨』。静かに話し合いもできないとは、君という存在は物覚えが実に悪いようだ。そんなことだから、君の大好きなお友達も、君を使えるような人材を教え導けなかったのだろうね」

「っ……!」

「おーい、それってどういう意味ー?」

「曰く、後でその地の近くに現出できた悪魔の話だと、すでにその聖人が残した聖具を求めて愚かにも争いが起きたらしい。召喚者は悪魔の力を借りてでも、それを得ようとしたと……実にバカバカしい話さ」


 いろいろと頭の中で『クエスチョンマーク』が浮かびそうだが、とりあえず質問は無し。
 気にするのはナシェクの反応……人間味の強い模造天使は、自失といった表情だ。


「で、その後は?」

「突然聖具は紛失、象徴たるそれが失われたことで宗教も街も存在が消えた。聖人が守りたかったモノ、そのすべてを守られていた民や相棒に裏切られて無くなったわけさ」

「違う! 違う……違うのです……」

「……君の主張がどうあれ、悪魔は虚偽を交えても嘘は言わないさ。ボクの言ったことはただ起きた事実そのもの、君が人を失望した結果、君の好きだった人が大切にしていた物はもう存在していない」


 煽る、思いっきり煽っているよ大悪魔様。
 これで俺がナシェク側のヤツだったら、怒りに振るえて竦んでいた足が動く……みたいな展開があったかもしれない。

 現実はそんなこともなく、俺は大悪魔を呼び出した側だし体は一向に動かない。
 大悪魔がその隙を突かないのは、絶対眷属に邪魔されると分かっているからだな。

 もう飛ぶ意欲も失せたのか、そのまま地面に着地するナシェク。
 大悪魔はご満悦そうにニマニマ、その手に握るのは『時斬る大剣』。


「本物の天使で無い以上、どうせ堕天もしないのだろう? ならばこうして、殺してしまうのが一番手っ取り早い」

「…………」

「……つまらない、本当につまらないよ君。聖人も信仰深い連中も、崇拝者も……どいつもこいつもクソ食らえだ」


 笑顔から一転、吐き捨てるような口調でそう呟く大悪魔。
 そして、そのまま大剣を上に掲げ、振り下ろ──したところを武器で防がれる。

 ナシェクは呆然としたまま。
 そう、仕方なく限界突破スキルで体を無理に動かして俺が来ました。


「邪魔、しないでくれるかな? せっかく君が始めた戦いを、勝利で終わらせてあげようと思ったのに」

「……誰がそんなことを頼んだと? あと、別に戦闘じゃないから。対話(物理)なだけだから」

「いつも君はそうだね。我を通し、やりたい放題だ。悪魔よりも悪辣に……そう、ボクよりも悪魔に向いているよ」

「そんなに褒められてもな。というわけで、俺と少しやろうぜ大悪魔。情報料を払うの、忘れていたからな」


 距離を取った大悪魔の代わりに、ナシェクへ近づく。
 俺に戦う意思が無いと判断したのか、そのままただこちらを見てくる。


「……何ですか。私を、笑いますか?」

「いや、別に。それより、少しの間こっちに戻っていてくれ。使い方も完全には理解して無いから、アドバイスが欲しい」


 チラつかせるのは、ナシェクが宿っていた腕輪型の聖具。
 しばらくして、ナシェクはその姿を出現持同様に光の球体と化し──腕輪に戻る。


『使える武器、その属性は私が使っていたものと同じです。その名前は何となく理解しているはずです』

「ああ、その辺りは大丈夫だ」

「──準備はいいかな? まったく、さっさとこの茶番を終わらせたいんだから、その聖具を使ってくれよ」

「はいはい……うーん、これでいいかな? ──『灼炎の天剣』」


 名を呼ぶと、腕輪だった聖具が形を変えて目の前に浮かんでいた。
 形状は大剣、先ほどまでナシェクが振るっていた物と瓜二つな代物だ。


『……感じたと思いますが、その状態で使うには足りない物が多すぎます。先ほどまでのような使い方はできないと思ってください』

「敵が味方になると、そういう弱体化がされるのは定番だしな」

『…………本当に、同じ世界の出身なのですね。第二形態を使えるようになった時、同じことを言っていましたよ』


 自分で使わないときは、自分で使う以上に便利なんだからそんなことを言いたくもなるだろうな……さて、そろそろ本当に不意打ちしてきそうな大悪魔と戦わないと。


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