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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と模造天使 後篇
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神眼であるその瞳があれば、その名を確信と共に暴いていただろう。
聖武具ナシェケエル。
自らの意思を持って戦うようになった、模造天使の在り様を示した天使名。
異世界人へ与えられた特典。
つまり、神からの授け物……『神』の名が付くことに、何ら違和感は無いのではなかろうか。
「火の剣、風の弓、土の盾……そして、氷の槍に雷の槌、そして光の杖と闇の鎌と。これまた多岐に渡る武器種だよな。お友達、使いこなせていたのか?」
「……私から何も言うことはありません」
「またか、その禁則事項。まあでも、なんとなく分かるからいいや。今は──とりあえず後回しだ!」
複数の属性と武器、それらを切り替えてナシェケエルは戦っている。
ただし、属性と武器は紐づいており固定されているのがポイント。
有利な武器と有利な属性が別の場合、どちらかを選ばなければならない。
俺の魔武具『アルカナ/アーケイナム』の場合、使える武器種は三種類。
杖、大剣、そして盾。
他にも聖杯が存在するものの、こちらはあくまで非常時用で、そう何度も連発するようなことはできない切り札なので除外する。
それらに自分の使える属性を乗せれば、その種類だけはとりあえず多くなった。
がしかし、向こうは特化させている分、それぞれが強い……本当に厄介だ。
「というわけで『欲望の聖杯』。一つ目の願いは──『属性適性度の同期』」
「っ……!」
「チッ、手伝ってくれないから結構な魔力を喰ったな。まあいいや、後が怖いけどその前に終わらせる!」
今は『天熱の剣使』の状態だったナシェケエルもといナシェクだが、俺が聖杯に欲望を注いだことでその熱量が一気に低下。
属性適性度が大して高くない俺。
それに付き合わされた影響で、今やすべての状態で出力が低下していることだろう。
当然、俺への影響は絶無。
聖杯を使うために用いた魔力以外、失うものなど無いのだから。
「──『狂乱の錫杖』、『追尾魔弾』」
「──『煌光の杖使』」
魔力伝導率がもっとも高い杖に形状を変えて、魔術デバイスから杖へ魔術を流す。
放たれた弾丸を、ナシェクも魔力を球体にして飛ばすことで防いでいる。
こちらは杖を振るう度に弾丸と共に音を鳴らし、状態異常を引き起こそうとしているのだが……聖(武)具かつ模造天使でもあるからか、いっさい効いていない。
すでに試していたが、そこは属性の適性度などは関係なかったようだ。
あくまでも、各姿での属性攻撃の影響にしか変化は無かったのか。
「──『純薄色彩』」
だからこそ、それに気づいた。
現状、属性の適性度を弄ることでその攻撃力を弄れる。
ならば、高速で切り替えられれば──
「くっ、『天冥の──」
「じゃあ光っと……そして“光槍”!」
「ああもう、忌々しい魔武具です!」
思考を強化し、ゆっくりと流れる時間の中でナシェクをジッと観察する。
無数のスキルがこれまでの傾向を覚え、次に取るであろう姿を予測していく。
その属性、あるいは武器種が不利となる属性を一際特化させる。
すると相手が対応するまでのほんの一瞬、俺が有利な状態で攻撃を行えるのだ。
闇属性に特化したその瞬間、光属性を際立たせて放つ輝く槍。
天使でありながら模造であり、闇にすら染まれるナシェクだからこその刹那の弱点。
速度に長けた光の槍を放つ。
これまでの戦闘から、少なくとも純粋な魔法を飛ばすことはできないだろうと踏んでいる……そして今も、魔法は使っていない。
「火──“火迸”。風──“竜巻”」
「この──『天源の鎧使』!」
「む? 初めて見るな……まあ、言わずもがなな能力だけども」
これまで見せた八つの姿、それらがすべて属性を持っていたからこそ気づいていた。
属性を持たない、すなわち無属性の姿もあるのではないかと。
その姿は武器を持たず、鎧に身を固めた重厚な戦士のようにも見える。
その防御力は無手でありながら、その体躯そのものが凶悪な武器に思えるほどに。
「これならば、属性も関係ありません」
「無属性だけは適性関係なく、魔力と技巧の問題だからなー。しかもそれ、絶対に武器が無くても戦えるタイプだろ」
「……ええ、不服ではありますが認めましょう。この姿を使うことになるとは、思っていませんでした。ですが、これでおしまいにしましょう」
属性に割いていた分のエネルギーは、すべて鎧の性能にでも注がれているのだろう。
明らかに増大したナシェクの力強さに、どうしたものかと冷や汗を掻く。
どうしたものかと悩んでいると……突如、魔武具が胎動を始める。
『──直接手を貸すつもりは無かったけど、さすがに天使が勝つという結果には異を唱えたいね』
「大悪魔……!」
魔武具から現れる、これまた人の美を超越した存在。
真っ白な肌に輝く銀髪、いかにもイケメンな容姿だが……目が澱んでいる。
深淵を見通すほどに昏いその眼は、他者すらもその領域に引きずり込もうとしていた。
大悪魔、今なお俺にすべてを明かさない彼がこの状況で姿を現す。
「ああ、そうだとも。君のことは、冥界で少し聞いたことがあるよ。当時のボクには興味の無い話だったけど……そうか、これほどまでに哀れな存在だったんだね」
「っ……訂正しなさい! 私は──!」
「知らないよ、ボクが語るのは伝聞だけだからね。でも、君は見ていてとてもつまらないのも事実。だから何度でも言おう──担い手が死に、誰にも心を許せない自我を持った武具なんて……哀れそのものだとね」
「──ッ!!」
……俺には分かる、大悪魔にはさして思うところが無いことを。
ただただ、相手の心傷を抉るような言葉をチョイスして言っているだけだと。
しかしまあ、何らかの問題でナシェク自身が情報を出してこない以上、真偽はともかくある程度知っている大悪魔を頼らなければいけないこともまた事実。
決して、俺が先ほどまで痛めつけられていた恨みを晴らしているわけじゃないのだ。
というわけで大悪魔さんや、ちと懲らしめてやりなさい。
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