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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と模造天使 前篇

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 思えば俺が関わる意思を持つ武具とは、どうにも厄介な物ばかりだ。
 元拷問一家の魔剣、大悪魔を宿す魔武具、そして今回──元聖人の聖具と来た。

 ともあれ、それでも契約が決まった以上、やるべきことはただ一つ。
 後ろで笑顔を浮かべている商人Zへ、大量の金を『収納袋マジックバッグ』から取り出して渡す。


「これぐらいで足りるかな? 足りないならまだ追加があるけど」

「いえいえ、充分にございますよ。むしろ、多すぎるぐらいかと」

「……いろいろと、オプションとしてね。お互いのために、受け取っておいて」

「そうでしたか、ではそのように。お客様が話の分かるお方で何よりです」


 口止め料などではなく、他の……約二十五人は居ると思われる、優遇された顧客たちへのフォローを頼む分の手間賃だ。

 補填とかいろいろとあるだろうし、何より金が腐るほどある。
 うん、一番の理由はこれだな……ちゃんとした使い方が必要なこともあるのだ。


「さて、お買い上げありがとうございます。ノゾム様、他にも紹介した商品がございますがいかがなさいますか?」

「ええ、ぜひとも。余裕はまだたっぷりありますので」

「そうでしたか。ええ、さすがはお客様。これからもご贔屓にしてもらえるよう、鋭意励ませていただきます」

『…………』


 何やら不満そうな意思が腕輪から伝わってくるものの、それは完全にスル―。
 魔本や魔道具、有用な情報そのものを買い漁っていくのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


『──金、金、金と……嘆かわしい。それでも聖具の使い手ですか』


 商会から出ると、それまで溜まっていた不服を一気に解放するナシェク。
 まあ、金に執着すると業値が増える場合もあるからなー。

 大抵は聖堂や神殿にお布施をすれば減るのだが、綺麗さっぱりとはいかない。
 減らせる量に限度はあるし、減る数値にも限界があるからな。


「強制しない、強要しない、強行しない」

『うっ……で、ですが、貴方は聖人の影を追うのです。つまりは、貴方も聖人と同じように振る舞う必要が──』

「無いよね? 聞いたことないよ、誰かを追うためにその人と同じことをしなきゃいけないなんでルール。やりませんからね。僕は僕の……俺のやりたいようにやるわけだ」

『ッ! な、なんて禍々しい……!』


 変身魔法を解き、メルスの姿へ戻る。
 そして同時に、あるスキル・・・・・の能力を発動。
 その瞬間、聖具であるナシェクから送られてきたのは異様なまでの不快感。


『うっ、き、気持ち悪……』

「──いや、吐かないでくれよ。ほら、これでもう平気だろ」

『…………なんですか、それは。先ほど、貴方から尋常ではない業を感じ取りました』

「そういうスキルだ。俺は罪を背負うことも無く、徳を積むこともできない。だが、貯めることだけはできてな。さっきのは、その溜め込んだ業を少しだけ見せたんだ」


 溜め込んだ業はユウの【断罪者】にも引っ掛からず、数値だけが無尽蔵に増えていく。
 意図してその業値を参照にしたいとき、自由に使えるというある意味ヤバい能力だ。

 ──それぐらい、ヤバいスキル・・・・・・に付随している能力である。


『……ならば、徳は溜まっていますか?』

「…………ほい」

『な、なんですかこれは──全ッ然、感じ取れないではありませんか! どういうことですか、なぜここまで徳を得ることができていないのですか!!』


 耳、というか脳がキーンとするような意思が伝わってくる。
 なお、俺だって徳はそれなりに溜まっている……が、偽善者として隠しておいた。

 偽善とは意図して行う善行のこと。
 つまりは、徳を積むことを前提とした行いである……そういうのを堂々と誇るのって、人としてどうかと思うし(正論)。


「それが俺のやって来たことだよ。契約に従い、聖人様とやらの情報収集はしっかりとやるつもりだ。でも、それと俺が聖人っぽく振る舞うかはまた別の話だ。というか、いっさい干渉するな」

『なっ……!』

「俺はたとえどんな手を使っても、その契約だけは果たしてやる。だから、俺がどんなナシェクをどう使おうと、そこにいっさいケチなんてつけるなよ」

『……卑劣な』


 うーん、いいアクセントになったと思うんだけども。
 少々ノリが良すぎる気がするし、ちょっとやり過ぎた感もある。

 何かされる前に、とりあえず空間魔法を再度レンタルしておく。
 そして、瞬時に“空間転位リロケート”を使ってある場所へ移動する。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第二世界 旧修練場


 そこはかつて、さまざまなスキル上げをするために用いた亜空間。
 すでにそれらを{夢現空間}へ送ってあるため、ここには何も無い。

 だからこそ、それは起きた。
 天使の羽を模した腕輪型の聖具、それが突如として光り輝くと──中からナニカが上空へ飛び立つ。


「──貴方との契約で、強制、強要、強行をしないと誓いました。しかし、矯正、教養すること、また恭行させてはいけないとはありませんでしたね」

「……なんともまあ屁理屈を。誰が礼儀正しくなんてするものか」

「学はあるのですね。私の友あのこは初め、理解できていなかったので充分に素養はあります。この状態はそう長くは持ちませんし、早々に教え込みましょう」

「お友達にもやってたのかよ……嫌われるんじゃないか?」


 病的なほど真っ白な肌、そしてそれそのものが発光していると思えるほど眩い金髪。
 西洋系の美貌は、スッとした凛々しさと冷たさを……人とは思えないほど感じさせる

 現れたのは天使。
 だが、天使そのものではない。
 聖具によって、天使の造形を模ったエネルギーの塊──いわば模造天使と言えよう。

 天使とは神に仕える存在、かつてのレミルもそうして神に従属していた。
 だが、ナシェクと思われる模造天使からは神との繋がりが感じ取れないのだ。

 聖人に与えられたことで、繋がりが絶たれた……というのはおかしい。
 むしろ、神であれば聖具繋がりで聖人が得た信仰を得てもいいのだ。

 ──そう、この世界の神ならば。


「なるほど、少し読めた」

「……まずはその腑抜けた態度から、粗目させましょ──ッ!?」

「答えはNOだ。俺は聖人になんて、最初からなりたくない。さっきの続きだ……どんな手を使ってでも、俺は他者の願いを叶えるつもりだ──悪魔の力を使おうともな」

「なっ!?」


 手に仕込んだ即席召喚陣、あとはノリで演出してのご登場。
 バッと手を横に伸ばせば、どこからともなく現れる。

 闇よりも昏い力の波動と共に、禍々しくも美しい黒さを放つ大剣がその手に収まった。
 ナシェクはジッとそれを見て、いったいそれが何なのかに気づいた。


「魔武具!? なぜ、そのような代物が……それにこれは、悪魔!? しかも、大悪魔級の……貴方はいったい」

「改めまして、契約者さん。俺はメルス、善にも悪にも染まらぬ偽善者にして、天使も悪魔も平等に利用する元【天魔】。そして──お前さんの探す聖人様同様、異世界からやって来たヤツだよ!」

「──ッ!!??」


 今までで一番驚いた様子を見せるナシェクへ、そのまま大剣──『天斬る大剣』を全力で振るう。

 いろいろと確かめたいこともあるし、調べるついでにちょっと付き合ってもらおうか。


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