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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者とオススメ紹介 後篇

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 両者共に膠着し、沈黙が場を支配する。
 唯一冷静な商人のZは、ただ何も言わず商人スマイルを決めているだけ。

 俺、そして聖具『ナシェク』は互いの反応が理解できずに沈黙してしまう。
 かつて聖人が使ったという聖具、それが今俺の腕にある。

 えっと、勝手に装備された、天使の羽のデザインが施された輪っか。
 強制装備だったくせに、力を与えるとか言い何かをやらせようとしていた。

 だからこそきっぱり断ったのだが……どうやら、その反応を想定してなかったらしい。
 時間が経ち、現状を理解したのか、激しく明滅し出す『ナシェク』。

 腕を介して繋がっているため、念話よりもより強い意志を伝えてくる。
 念話なら拒絶できるが……今の俺では防ぎ切れないな。


『なっ……な、何故ですか?』

「いや、だって面倒そうですし」

『め、面倒!?』

「それに……僕は力が欲しいわけじゃありませんので。そうだとしても、貴方みたいに条件付きなら要りません」


 おそらく、俺を仮でも強制装備の対象にしたのは、聖魔法や聖耐性、そして聖属性の適性を高めるスキルを所持していたから。

 そして何より、<正義>スキルによって業と徳はいっさい変動しなくなっている。
 それでも業が絶無ということで、聖具の判定的に良好だったのだろう。


『何故です! 貴方のような穢れの無い人物であれば、必ずやこの願いを──』

「僕は悪人になる気は無いけど、善人にもなる気は無いんだ。ただ、家族を守って、そのついでに誰かを救えるだけでいいんだ。貴方の力は、すべてを救うためのものだ……だから、僕には不要です」


 原因も分かったことだし、まずはレンタルしていたスキルを返却。
 そして、一時的に持っていた聖魔法や新たに習得した聖耐性スキルを封印する。


『! これは、貴方の適性が……!』

「今の時代、僕みたいに借り物の力を持っている人がいっぱいいます。こうして、貴方を騙せるような人だって。でも、聖人みたいな人も居ますから、頑張って探してください」

『ま、待ちなさい! すでに貴方は、私を手にしました。借り物であっても、適正があることも確認しています。ですから、この私を使うことができるのですよ!?』

「できるからやるのと、したいからやるのは違うと思います。少なくとも僕は、貴方のために何かをしたいとは思いません」


 ──すでに解析は済ませた。
 聖具ナシェク、その真の力までは使うことができないだろうが、普通に武器として使うぐらいなら複製版でも可能だ。

 ナシェクが俺に何をさせたいのか、それは最初に聞いているから分かる。
 だが、力をくれてやるからやり遂げろ、それはいくら何でも【傲慢】が過ぎるだろう。

 先ほど伝えた通り、聖属性適正さえあれば誰でも使えるのだから、祈念者に必要なスキルさえ習得させれば、誰でも使えるようになるはずだ。

 その中で、彼女の目的を真摯にやってくれる者を探せばいい。
 少なくとも、偽善で回り道ばかりする俺よりはすぐにやってくれるはずだ。


「お客様、少しよろしいでしょうか? 実はですね、こちらのナシェクさんの意思はもう間もなく誰にも届かなくなるのです」

「……と、言いますと?」

「仕える担い手を失い、会頭が見つけ出すまで永き時間が経っております。そのため、自我を維持するだけのエネルギーがすでに尽き欠けているようです」

「じゃ、じゃあ補充はできないんですか?」


 自分で聞いておいてアレだが、その答えがNOであることを俺は知っている。
 自我のあるアイテムに多く触れており、そういうことには詳しいのだ。

 少なくとも、新しい主を受け入れようとする気が相手側に無い限り、創り手が補充する機構を組み込んでいなければ、最終的には自我を発現できなくなる。

 その後、勝手に使われている間に力を蓄えることも可能ではあるが……意に反する力の行使ばかりさせられていると、いろんな意味で自我が狂うからなぁ。


「──お客様の御考えしている通り、会頭ですらそれを成し得ることはできません」

「……あの、読心術でも心得ていますか?」

「商人ですので。ともあれ、お客様との契約が成されなかった場合、ナシェクさんには自我を自身で回復できるまで眠ってもらうことになるでしょう……何百年、いえ何千年掛かるかは分かりませんが」

「…………」


 嗚呼、物凄く誘導されている。
 しかし、俺は偽善者であれば……多少の妥協と割り切りを経て、自分のやりたいようにする生き方を心掛けているわけで。


「……ナシェクさん、取引です。僕に使命を強制しない、生き方を強要しない、やり方を強行しない。これらを守れるのであれば、僕なりのやり方で貴方の目的、お友達探しを手伝います」

『! ……ですが──』

「貴方が不安になる気持ちも分かります。そうなる理由もあるのでしょう。でも、僕は貴方が友だと言った、そのことには興味があります。僕にも、ナシェクさんを友と呼ぶ聖人様の何かを探すお手伝いをさせてください」

『…………分かり、ました。ですが、指示に従っていただけないのであれば、私の力をすべて貸すことはありません。そのことは、忘れないでいただきたい』


 苦渋の末、妥協点を見出したようだ。
 俺もそういう考え方は、割とありだと思うので了承する。

 本来、受け入れてもらう立場でここまでの主張をするのは愚策とも言えよう。
 だが、それを通すだけの信念がある……それを貫いた先を、見たいわけだしな。


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