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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者とオススメ紹介 前篇

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 ヴァナキシュ帝国


 ──滅多に襲われることは無い、そんなことを思っている時期もありました。


「……大丈夫?」

「うん、ありがとう」

「…………なんで?」


 魔術で姿を隠す前に、俺は不良系の祈念者に絡まれてしまう。
 やはり邪縛は今なお健在で、妙に腹が立つからカツアゲをしたかったらしい。

 残念なことにここは帝国、祈念者でも上位の実力者が集まる地。
 いかにもなプレイをしている彼らですら、レベルは200に近い。

 かくいう俺は、レベルを糧にスキルを交換していた関係で、現在のレベルは130。
 そりゃあ舐められて当然だろう、ネギを背負ってきた鴨扱いである。


「──というわけで、メィに助けてもらったわけなんだよ」

「…………」

「あっ、今バカとか間抜けとかって思ったでしょ。否定はできないけど、そういうのってすぐに分かるんだからね」

「……そう」


 ピンチな俺を救ったのは、半吸血鬼で半人魚な吸血鬼狩りの少女メィことメィルド。
 腰に下げるのは俺が渡した聖剣、それを使いサクッと祈念者を追い払ってくれたのだ。

 何度かいっしょに活動した経験から、俺がどんな姿でも観察すれば見分けてくれる。
 彼女が視れば、体内に血を保有していない俺はすぐにおかしいと分かるからだ。


「ところでメィって、暇なの?」

「違う……と言いたいけど、暇」

「なら良かった、せっかくだし僕の護衛をしてくれないかな? 報酬は……うん、お金といつものポーションで」

「…………分かった、でも狡い」


 狡いと言われてしまったが、縛り中の俺に出せる物はそう多くないからな。
 時折味を変えている血のブラッドポーション、今回は属性に偏りを付けてみました。


「依頼はZ商会に入るまで。中の方は大丈夫だから、短期で終わる簡単なお仕事」

「大丈夫?」

「うん、帰りは転移で戻るから大丈夫。行きも何も無ければいいんだけど……うん、反応があるからね」

「……分かった。じゃあ、掴まって」


 メィが俺のショタボディに触れると、その身は共に影の中へ消えていく。
 するとすぐに、先ほどのチンピラとその仲間たちがこの場に集まってくる。

 成長し、影渡りなどもできるようになっていたメィ。
 奴らがその顔にそぐわぬ光魔法を使おうとする前に、この場から退散するのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 Z商会 帝国支店


「これはこれは、ノゾム様ですね。ようこそいらっしゃいました」

「お久しぶりです、Zさん。例のお知らせを読んできました」

「ご利用いただきありがとうございます。あちらの本は、お気に召されましたか?」

「はい、とっても。同じシリーズが出ましたら、ぜひとも購入させていただきます!」


 俺の発言にちょっと驚き、苦笑される。
 まあ俺が買うまでいっさい売れず、会頭とやらもいろいろ言われていた代物だ……俺のポケットマネーでもかなり危うかったし。


「それで、今回は……本でしょうか?」

「申し訳ございません。いくつか魔本を仕入れてはおりますが、お客様の御望みの品はまだ見つかっておらず……」

「そうですか、仕方ありません。もともと、ダメ元で言っている自覚はありますので。それなら、今回はどういった品を見せていただけるのでしょうか?」

「はい。では、ご案内いたします」


 Z商会の扉は各支店やら本店の倉庫と接続されていて、どこからでも目的の品がある場所へ向かうことができる。

 俺もかつて、そうして従魔を探したり相棒であるディーと出会ったりしたものだ。
 なんてことを考えていると、やがて何やら厳重な封印が施された部屋に辿り着く。


「あ、あの……これは?」

「こちらにある品物は、会頭自ら向かい、仕入れてきた物です。しかし、どうにも他の者が触れることを拒み……こうして封印することになりました」

「そ、そうなんですか。でも、どうしてそんな貴重(?)な物を見せてもらえるのでしょうか?」

「もちろん、ノゾム様だけでなく他のお客様にもご紹介しております。二十数人居る各スタッフが、それぞれこの中にある商品をお一人にお見せしております。そして、最後にノゾム様の番が回ってきたのです」


 ……まあ、俺が特別待遇されていないというのも、会員番号的に納得ではある。
 しかし、Zさん的には中に見せる人が俺で良かったのだろうか。


「もちろんですよ、お客様。私はノゾム様ほど、大変興味深く思えるお客様をこれまで見たことがございません!」

「ありがとう、ございます? というか、心でも読みました?」

「いえ、勘です。Z商会販売スタッフ、その末席に座らせてもらっている私ではありますが、ノゾム様へのご支援を欠かすことは無いとここに誓いましょう……その方が、とても面白そうですので」

「それなら理解できます。はい、そのご期待に沿えるよう、頑張っていきます」


 具体的に何をどうするのか、そんなことはまだ分からない。
 だがまあ、偽善者として応えられることがあるならばやってやろうと思っただけ。

 ……会頭とやらには、やはり嫌な予感がするので会いたくは無いけども。
 とりあえず、そのお披露目したい商品とやらを見てみるとしますか。


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