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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と対立予告 後篇
しおりを挟むナックルも暇じゃない。
というか、俺が頼りにしているヤツは基本的に地位を持つ者たちばかりだ。
相応に忙しいため、こういった質問をするのに向いていないんだよな。
イベントに関する相談はお開きとなり、俺は街を徘徊する不審者と化していた。
「かといって、偶然知り合いに会えるほど運がいいわけでもないし……さて、それを知れそうな場所はどこだろうか?」
オーと同じく『選ばれし者』であるカナ、そして同様に他の『選ばれし者』であれば確実に先行的に役割を選べているだろう。
彼ら彼女らに声を掛けることはできない。
俺との関係性がほぼ無い、もしくはやっていることの邪魔をしたくはないからだ……いやまあ、ナックルは別だったということで。
「それなら別の方法で、情報を……と言いたいところだが、どうせ先行期間が過ぎれば普通に公開されるだろうしな。うん、気にしなくていいとしよう」
それよりかは、縛りプレイ中でも使えるスキルでも増やしておいた方がいいだろう。
幸いにして、人探しよりもそちらであれば簡単にやることができる。
「最低限の熟練度さえ稼げれば、レベルをポイントに還元してスキルへ変換できるし。だいぶスキルも溜まってきたんだよな……それでも独りで無双できない辺りは、さすがのモブスペックだと思うけど」
スキルの方はどうにかできているものの、俺は邪縛の影響もあって就職ができない。
……何だろう、仕事が無いのを他者のせいにするダメ人間みたいな響きだ。
ともあれ、人族がかなりの割合で恩恵にあやかっている職業システム。
それにいっさい使えていないというのは、かなりのデメリットである。
職業補正として得られる能力値が無いのだから、同レベルのモノたちと比べれば祈念者にも自由民にも劣ってしまう。
擬似的に、制限している高レベルとしての能力値を解放すればどうとでもなるだろう。
でもそれって、そういう縛りならともかくつまらないからな。
「でも、レベルを上げて物理で殴れって名言というか迷言もあるからなー。うん、一度はやってみるとしますか」
話は逸れたが思考はまだまだ巡っている。
スキルの中には能力値の底上げをしてくれるものもあるので、決して集めて損は無いんだよな。
デメリットがあったり、上がる分だけ他の能力値を下げるスキルもある。
そういうスキルでも使いよう、必要な時だけ起動すればいいだけのこと。
「というわけだし、さっそくスキルの習得を始めようか…………って、うん?」
取り出すのは、Z商会が生み出した便利な魔本『誰でもできる簡単スキル習得本(完全版)』。
読めばタイトル通り、誰でも簡単にZ商会が知り得たスキルの習得方法を知ることができるという代物……なのだが、今回は読む前に気になることが。
本自体が明滅し、何やら知らせている。
とりあえずページを捲ると、そこには今まで記述の無かったZ商会からの連絡事項が掲載されていた。
「えっと、何々……オススメの紹介?」
この本、あまりに高すぎて売れなかったのだが、それは便利な機能を搭載させ過ぎたがための弊害。
使用者に合わせ、最適なスキルを教えてくれるなんて機能もあったし。
どうやらこのお知らせも、そうした機能として予め載っていたようだ。
それによると、新たに入荷した俺好みの品があるとのこと。
……今までそういう連絡が無かったということは、本当にオススメなのかもしれない。
言うのもあれだが、この世界でなら無限の富でも築けそうなのが『俺』なのだ。
一国以上の王であり、亜空世界の創造者、そして迷宮の主なんてのも兼任している。
そう、金なら使っても使い切れないほどに余りまくっていた。
はっきり言ってしまえば、【強欲】無双で世界を滅ぼせてしまうぐらいには。
「まあ、やる意味無いし、意味があっても面倒そうだからしないけど。それより、俺好みの品とやらがどんなものが気になるな」
俺担当のZさんも、俺が求める品は用意するのが難しいと言っていた。
だからこそ、そんな品が用意されたのであれば行ってみたいと思うのはおかしくない。
「とりあえず移動だな。始まりの街にはまだ出店していないから、どこか知っている支店に顔を出さないと」
帝国やリゾート地にまで出店しているZ商会も、さすがにボスが仕切っているこの街にはまだ出店できていない。
他の場所にも出しているだろうが、俺が知らないので向かうならばどちらかだ。
縛り状態の俺は、まだ空間魔法を心得ていないからな……何かあっただろうか。
「金はあるし、転移門でも使うか? あっ、でも身分証明とかされるのは不味いよな」
祈念者は[メニュー]でも出せばいいが、今の俺に地位的なものは存在しない。
となると、これまた別の方法を選ぶしか無いのだが……うん、アレだな。
「全スキルを一時的に封印して、空間魔法をレンタルっと…………無駄に高いな、これ。便利さから納得ではあるけども」
なんとか空間魔法は使えるようになったのだが、帝国行きが可能なようにオプションを付ける羽目に。
お陰で武術も魔法もさっぱり、しばらくは逃げ隠れする必要がありそうだ。
まあ、行ってすぐに揉めるようなことは無いと思うけどさ。
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