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偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と対立予告 前篇

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 都市トレモロ


 芸術都市と称されるその地に、あるクランの拠点が存在していた。
 そこの関係者に呼び出され、俺はそこを訪問することに。


「……えっと、ここで合ってるよな?」


 かつて攻城戦イベントにおいて、丸々複製されたこの場所をそれなりに使っていた。
 だからこそ、思う…………前にここにあった施設より、大きくなっているんだよな。


「というか、ここって元はちょっとした資産家の屋敷って記憶していたんだが……どこからどう見ても、これ劇場だよな?」


 まあ、彼女に貢ぐためにクラン一同頑張った証拠なのだろう。
 姫プレイとは少し違うが、今の彼女たちの関係性なら素直に受け取ってくれたはずだ。

 入り口に立っている兵士──の姿をした祈念者に声を掛け、連絡を取ってもらう。
 非常に訝しまれたが、最後には入場が許された。


「ったく、失礼な。あとで上司にクレームを付けてやる」

「──そのような格好で、この神聖な場所に訪れる方がおかしいのだ」

「どこからどう見ても、祈念者としての正装だと思うんだがな。みんな一度は着ているはずだろ?」

「……服のデザイン固定は初期勢のみだ。二期以降は、複数の選択肢があったぞ」


 今まで知らなかった衝撃の事実に、驚かなくもない。
 まあ、ティンスやオブリもそういえば違っていたような……全然覚えてないけど。

 クレームを言おうと思っていた兵士たちの上司は、面倒臭そうに溜め息を吐く。
 部下と違って、呼ばれた理由を分かっているからこそだろう。


「お嬢様がお待ちだ、速く行くぞ」

「なあ、なんでここにクランハウスを用意したんだ? 他の街でも、それこそ港町でも良かっただろうに」

「……この街は芸術に関することであれば、かなり寛容だからな。こうして劇場を立てても、どこからも反論は無かった。むしろ、その支援をしてくれるほどだ」

「まあ、たしかにそんな気がする」


 どうやら使わない日は一般開放して、いろいろと稼いでいるようだ。
 そういう金も全部、彼女に貢ぐために使われているんだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 クランハウス 聖女様親衛隊


「待っていたわ、お兄さん。それじゃあさっそく、話を聞いてほしいの」

「それは別にいいんだが、えっと……どういう状況だ、これ?」


 机を挟んで向かい合わせで座る彼女──水の『選ばれし者』であるオーと俺。
 それ自体は問題ないのだが……俺たちを囲むように立つ、他の祈念者たちが気になる。

 誰も彼もが、俺を憎悪や敵意で睨んでいる気がするんだよな。
 唯一それが他より薄い上司こと隊長も、一遍死んで詫びろと言わんばかりの視線だし。


「さぁ。どうしてもお兄さんとの話し合いに付き添いたいというから、こうして同席させたのだけれど……邪魔なら外させるわよ」

「うーん、外すと恨まれる上に、結局何らかの手段で盗聴してくると思うからいいや」

「そう、ならいいわ。ワタシの常識として、こういうときは誰かが傍に居るのが当たり前だったのだけれど……本当は違うのね」

「話せない、補助役が欲しい、居ると便利とかそういう理由があるなら構わないと思う。俺個人にしか話せないわけじゃないんだし、オー嬢さんの自由にすればいいさ」


 命の危機があるわけでも……無い、とは言い切れないが、少なくともオー嬢さんの前でそんなことをすれば、自分の地位が危ういと理解しているだろう。

 親衛隊がどういう制度で運用されているのか知らないが、間違いなく制度云々よりオー嬢さんの意思が優先されるはず。

 というわけで、招かれた客人として堂々と振る舞ってやるつもりだ。
 具体的には、自分で持ち込んだ菓子を勝手に並べるくらいに。


「あら、これは?」

「見ての通り、クッキーと緑茶。ちゃんと合うように味付けしてあるから…………毒見を済ませたあとにでも」

「──別に不要よ。ほら、美味しいわ」


 うん、周りの反応が恐ろしい。
 こっそりと口元を緩ませている辺り、わざとやっているんだろうなぁとも思うが。

 オー嬢さん本人が毒見をしてしまったが、念のためこの場の者たちにも提供する。
 悔しそうにする者、忌々し気に睨む者、何かに気づいた者などたくさんだ。

 最後の奴には、ひょいっと今回出した物のレシピを渡しておいた。
 複雑そうな表情ではあったが、ちゃんとお辞儀ができていたので良しとしよう。


「……ねぇ、そろそろいいかしら?」

「おっと、悪い悪い。オーケーオーケー、俺が呼ばれた理由を教えてくれ」

「ワタシは勇者になるべきなのかしら。それとも、魔王の方がいいのかしら?」

「………………全然分からん」


 周囲を見渡すが、全員がバッと俺から目を背ける。
 まあ、仕える主に意見を物申すなんて言語道断、みたいな感じがあった。


「勇者と魔王、まあ王道な対立だけど。それがどうかしたのか?」

「? もしかしてお兄さん、まだ知らなかったの? 今度、またイベントがあるのよ」

「つまり、そこでどちらかに所属する……みたいな流れになるのか」

「他の人たちはもっと後になるそうなのだけど、条件を満たした人には事前に連絡が入るらしいわ。それで、どっちか好きな方を選んで欲しいということになったの」


 なるほど、だいたいの事情は把握できた。
 だがしかし、俺から言えるのは一つだけ。


「──知らん。オー嬢さんがどっちがいいのか、それを決めるのは自分自身だ。それこそ自由に、誰が相手になろうともやりたいことがあるなら、それをやるのに相応しい方を選べばいいさ」

「……そうね、そうするわ。わざわざ呼んで悪かったわ」

「いいや、呼ばれれば応えるよ。それが……俺たちの関係ってことで」

「ふふっ、イベントで敵対しても、手は緩めてあげないわよ」


 ああ、それに関しては問題ない。
 ──すでにこれまでの百倍ぐらい、濃密な殺気がここには存在しているからな。


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