2,127 / 2,518
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目
偽善者と対立予告 前篇
しおりを挟む都市トレモロ
芸術都市と称されるその地に、あるクランの拠点が存在していた。
そこの関係者に呼び出され、俺はそこを訪問することに。
「……えっと、ここで合ってるよな?」
かつて攻城戦イベントにおいて、丸々複製されたこの場所をそれなりに使っていた。
だからこそ、思う…………前にここにあった施設より、大きくなっているんだよな。
「というか、ここって元はちょっとした資産家の屋敷って記憶していたんだが……どこからどう見ても、これ劇場だよな?」
まあ、彼女に貢ぐためにクラン一同頑張った証拠なのだろう。
姫プレイとは少し違うが、今の彼女たちの関係性なら素直に受け取ってくれたはずだ。
入り口に立っている兵士──の姿をした祈念者に声を掛け、連絡を取ってもらう。
非常に訝しまれたが、最後には入場が許された。
「ったく、失礼な。あとで上司にクレームを付けてやる」
「──そのような格好で、この神聖な場所に訪れる方がおかしいのだ」
「どこからどう見ても、祈念者としての正装だと思うんだがな。みんな一度は着ているはずだろ?」
「……服のデザイン固定は初期勢のみだ。二期以降は、複数の選択肢があったぞ」
今まで知らなかった衝撃の事実に、驚かなくもない。
まあ、ティンスやオブリもそういえば違っていたような……全然覚えてないけど。
クレームを言おうと思っていた兵士たちの上司は、面倒臭そうに溜め息を吐く。
部下と違って、呼ばれた理由を分かっているからこそだろう。
「お嬢様がお待ちだ、速く行くぞ」
「なあ、なんでここにクランハウスを用意したんだ? 他の街でも、それこそ港町でも良かっただろうに」
「……この街は芸術に関することであれば、かなり寛容だからな。こうして劇場を立てても、どこからも反論は無かった。むしろ、その支援をしてくれるほどだ」
「まあ、たしかにそんな気がする」
どうやら使わない日は一般開放して、いろいろと稼いでいるようだ。
そういう金も全部、彼女に貢ぐために使われているんだろうな。
◆ □ ◆ □ ◆
クランハウス 聖女様親衛隊
「待っていたわ、お兄さん。それじゃあさっそく、話を聞いてほしいの」
「それは別にいいんだが、えっと……どういう状況だ、これ?」
机を挟んで向かい合わせで座る彼女──水の『選ばれし者』であるオーと俺。
それ自体は問題ないのだが……俺たちを囲むように立つ、他の祈念者たちが気になる。
誰も彼もが、俺を憎悪や敵意で睨んでいる気がするんだよな。
唯一それが他より薄い上司こと隊長も、一遍死んで詫びろと言わんばかりの視線だし。
「さぁ。どうしてもお兄さんとの話し合いに付き添いたいというから、こうして同席させたのだけれど……邪魔なら外させるわよ」
「うーん、外すと恨まれる上に、結局何らかの手段で盗聴してくると思うからいいや」
「そう、ならいいわ。ワタシの常識として、こういうときは誰かが傍に居るのが当たり前だったのだけれど……本当は違うのね」
「話せない、補助役が欲しい、居ると便利とかそういう理由があるなら構わないと思う。俺個人にしか話せないわけじゃないんだし、オー嬢さんの自由にすればいいさ」
命の危機があるわけでも……無い、とは言い切れないが、少なくともオー嬢さんの前でそんなことをすれば、自分の地位が危ういと理解しているだろう。
親衛隊がどういう制度で運用されているのか知らないが、間違いなく制度云々よりオー嬢さんの意思が優先されるはず。
というわけで、招かれた客人として堂々と振る舞ってやるつもりだ。
具体的には、自分で持ち込んだ菓子を勝手に並べるくらいに。
「あら、これは?」
「見ての通り、クッキーと緑茶。ちゃんと合うように味付けしてあるから…………毒見を済ませたあとにでも」
「──別に不要よ。ほら、美味しいわ」
うん、周りの反応が恐ろしい。
こっそりと口元を緩ませている辺り、わざとやっているんだろうなぁとも思うが。
オー嬢さん本人が毒見をしてしまったが、念のためこの場の者たちにも提供する。
悔しそうにする者、忌々し気に睨む者、何かに気づいた者などたくさんだ。
最後の奴には、ひょいっと今回出した物のレシピを渡しておいた。
複雑そうな表情ではあったが、ちゃんとお辞儀ができていたので良しとしよう。
「……ねぇ、そろそろいいかしら?」
「おっと、悪い悪い。オーケーオーケー、俺が呼ばれた理由を教えてくれ」
「ワタシは勇者になるべきなのかしら。それとも、魔王の方がいいのかしら?」
「………………全然分からん」
周囲を見渡すが、全員がバッと俺から目を背ける。
まあ、仕える主に意見を物申すなんて言語道断、みたいな感じがあった。
「勇者と魔王、まあ王道な対立だけど。それがどうかしたのか?」
「? もしかしてお兄さん、まだ知らなかったの? 今度、またイベントがあるのよ」
「つまり、そこでどちらかに所属する……みたいな流れになるのか」
「他の人たちはもっと後になるそうなのだけど、条件を満たした人には事前に連絡が入るらしいわ。それで、どっちか好きな方を選んで欲しいということになったの」
なるほど、だいたいの事情は把握できた。
だがしかし、俺から言えるのは一つだけ。
「──知らん。オー嬢さんがどっちがいいのか、それを決めるのは自分自身だ。それこそ自由に、誰が相手になろうともやりたいことがあるなら、それをやるのに相応しい方を選べばいいさ」
「……そうね、そうするわ。わざわざ呼んで悪かったわ」
「いいや、呼ばれれば応えるよ。それが……俺たちの関係ってことで」
「ふふっ、イベントで敵対しても、手は緩めてあげないわよ」
ああ、それに関しては問題ない。
──すでにこれまでの百倍ぐらい、濃密な殺気がここには存在しているからな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる