上 下
2,127 / 2,519
偽善者と崩壊する陣営 三十四月目

偽善者と対立予告 前篇

しおりを挟む


 都市トレモロ


 芸術都市と称されるその地に、あるクランの拠点が存在していた。
 そこの関係者に呼び出され、俺はそこを訪問することに。


「……えっと、ここで合ってるよな?」


 かつて攻城戦イベントにおいて、丸々複製されたこの場所をそれなりに使っていた。
 だからこそ、思う…………前にここにあった施設より、大きくなっているんだよな。


「というか、ここって元はちょっとした資産家の屋敷って記憶していたんだが……どこからどう見ても、これ劇場だよな?」


 まあ、彼女に貢ぐためにクラン一同頑張った証拠なのだろう。
 姫プレイとは少し違うが、今の彼女たちの関係性なら素直に受け取ってくれたはずだ。

 入り口に立っている兵士──の姿をした祈念者に声を掛け、連絡を取ってもらう。
 非常に訝しまれたが、最後には入場が許された。


「ったく、失礼な。あとで上司にクレームを付けてやる」

「──そのような格好で、この神聖な場所に訪れる方がおかしいのだ」

「どこからどう見ても、祈念者としての正装だと思うんだがな。みんな一度は着ているはずだろ?」

「……服のデザイン固定は初期勢のみだ。二期以降は、複数の選択肢があったぞ」


 今まで知らなかった衝撃の事実に、驚かなくもない。
 まあ、ティンスやオブリもそういえば違っていたような……全然覚えてないけど。

 クレームを言おうと思っていた兵士たちの上司は、面倒臭そうに溜め息を吐く。
 部下と違って、呼ばれた理由を分かっているからこそだろう。


「お嬢様がお待ちだ、速く行くぞ」

「なあ、なんでここにクランハウスを用意したんだ? 他の街でも、それこそ港町でも良かっただろうに」

「……この街は芸術に関することであれば、かなり寛容だからな。こうして劇場を立てても、どこからも反論は無かった。むしろ、その支援をしてくれるほどだ」

「まあ、たしかにそんな気がする」


 どうやら使わない日は一般開放して、いろいろと稼いでいるようだ。
 そういう金も全部、彼女に貢ぐために使われているんだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 クランハウス 聖女様親衛隊


「待っていたわ、お兄さん。それじゃあさっそく、話を聞いてほしいの」

「それは別にいいんだが、えっと……どういう状況だ、これ?」


 机を挟んで向かい合わせで座る彼女──水の『選ばれし者』であるオーと俺。
 それ自体は問題ないのだが……俺たちを囲むように立つ、他の祈念者たちが気になる。

 誰も彼もが、俺を憎悪や敵意で睨んでいる気がするんだよな。
 唯一それが他より薄い上司こと隊長も、一遍死んで詫びろと言わんばかりの視線だし。


「さぁ。どうしてもお兄さんとの話し合いに付き添いたいというから、こうして同席させたのだけれど……邪魔なら外させるわよ」

「うーん、外すと恨まれる上に、結局何らかの手段で盗聴してくると思うからいいや」

「そう、ならいいわ。ワタシの常識として、こういうときは誰かが傍に居るのが当たり前だったのだけれど……本当は違うのね」

「話せない、補助役が欲しい、居ると便利とかそういう理由があるなら構わないと思う。俺個人にしか話せないわけじゃないんだし、オー嬢さんの自由にすればいいさ」


 命の危機があるわけでも……無い、とは言い切れないが、少なくともオー嬢さんの前でそんなことをすれば、自分の地位が危ういと理解しているだろう。

 親衛隊がどういう制度で運用されているのか知らないが、間違いなく制度云々よりオー嬢さんの意思が優先されるはず。

 というわけで、招かれた客人として堂々と振る舞ってやるつもりだ。
 具体的には、自分で持ち込んだ菓子を勝手に並べるくらいに。


「あら、これは?」

「見ての通り、クッキーと緑茶。ちゃんと合うように味付けしてあるから…………毒見を済ませたあとにでも」

「──別に不要よ。ほら、美味しいわ」


 うん、周りの反応が恐ろしい。
 こっそりと口元を緩ませている辺り、わざとやっているんだろうなぁとも思うが。

 オー嬢さん本人が毒見をしてしまったが、念のためこの場の者たちにも提供する。
 悔しそうにする者、忌々し気に睨む者、何かに気づいた者などたくさんだ。

 最後の奴には、ひょいっと今回出した物のレシピを渡しておいた。
 複雑そうな表情ではあったが、ちゃんとお辞儀ができていたので良しとしよう。


「……ねぇ、そろそろいいかしら?」

「おっと、悪い悪い。オーケーオーケー、俺が呼ばれた理由を教えてくれ」

「ワタシは勇者になるべきなのかしら。それとも、魔王の方がいいのかしら?」

「………………全然分からん」


 周囲を見渡すが、全員がバッと俺から目を背ける。
 まあ、仕える主に意見を物申すなんて言語道断、みたいな感じがあった。


「勇者と魔王、まあ王道な対立だけど。それがどうかしたのか?」

「? もしかしてお兄さん、まだ知らなかったの? 今度、またイベントがあるのよ」

「つまり、そこでどちらかに所属する……みたいな流れになるのか」

「他の人たちはもっと後になるそうなのだけど、条件を満たした人には事前に連絡が入るらしいわ。それで、どっちか好きな方を選んで欲しいということになったの」


 なるほど、だいたいの事情は把握できた。
 だがしかし、俺から言えるのは一つだけ。


「──知らん。オー嬢さんがどっちがいいのか、それを決めるのは自分自身だ。それこそ自由に、誰が相手になろうともやりたいことがあるなら、それをやるのに相応しい方を選べばいいさ」

「……そうね、そうするわ。わざわざ呼んで悪かったわ」

「いいや、呼ばれれば応えるよ。それが……俺たちの関係ってことで」

「ふふっ、イベントで敵対しても、手は緩めてあげないわよ」


 ああ、それに関しては問題ない。
 ──すでにこれまでの百倍ぐらい、濃密な殺気がここには存在しているからな。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

処理中です...