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偽善者と策略する日々 三十三月目

偽善者とデート撮影 その01

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 第一世界 天空フィールド


 主に魔小鬼デミゴブリンたちが暮らす、俺の魔力で拡張された亜空間の世界。
 迷宮核ダンジョンコアを利用し、空まで再現を果たしたこの世界には空飛ぶ城が存在する。

 とある迷宮を突破した者のみが、足を踏み入れることの許された聖域。
 俺のロマンを注ぎ込んだ、まさに夢の城に今──堂々と昼寝をする少女が居た。


「Zzz……」

「なあ、本当にこんな感じでいいのか?」

「? メルスは、いや?」

「全然。ずいぶんと楽しそうに寝てくれるからなぁ、スーは」


 敷き詰められた満開の花々が、彼女を歓迎する柔らかな絨毯の役割を果たす。
 ……先日、橙の世界に行ったばかりで、少し複雑な心境ではあるが。

 担うは【怠惰】、本質は堕落を誘うモノ。
 受肉して得た白熊の耳をピコピコと動かしながら、そんな彼女──スーは眠たげな眼を軽くパチパチとさせる。

 訳アリの一部の眷属を除き、とりあえず自己紹介の撮影は終わった。
 すでに五十回もやった企画なので、これに次ぐ第二作を考えた結果がこれ。


「一日デート……俺がみんなの考えた理想のデートを実行して、映像として記録するんだが。スーは『寝たい』としか書いてなかったからな。うん、でも可愛いから良しだ」

「…………」

「おーい、さすがにこのタイミングで寝られると恥ずかしいんだが?」

「…………恥ずかしいのは、同じ」


 枕までバッチリ持ち込み、寝る準備万端で睡眠に移行したスー。
 今は顔を少しだけ枕に埋めている……頬が若干、いつもよりも紅潮していた。


「わ、悪い」

「……うん」

「…………」

「…………」


 気恥ずかしさから、何も言えない状況に。
 撮影機材が動いていることも頭から消え、スーの方へ意識が完全に向かっている。


「……メルス」

「うん、どうした?」

「メルス、休めてる?」

「どう、だろうな。意識は交代制で休んでいるし、体も定期的に寝ている。全部を同時には……できていないけど、それなりに休めていると思うぞ」


 便利なスキルを持ってから、睡眠をしなくても良くなった。
 魔術でも不眠不休になったり、そもそも身体スペック的に長時間活動できたり……。

 スーに聞かれて、思えば自信を持って寝ていると言えないなぁと考えてしまう。
 眷属といっしょに寝るというときも、似たような感じで休んでいたな。


「じゃあ、寝よ?」

「……いや、いっしょに寝るのはいいんだけど。ほら、警戒とか意識の端でやっておかないと落ち着かないから──」

「めっ。メルス、働きすぎ。お姉ちゃんからみんなに、代わりにやってもらえるよう頼んでおく。だからメルスは、私と寝て?」

「っ……うぅむ」


 純粋な善意なのだろう。
 とても心配そうでありながら、『めっ』と言ったスーは怒っていた…………可愛すぎて一瞬意識が飛ぶぐらいには。

 全武具っ娘の統括者として、スーは君臨している。
 姉キャラなトーなども、スーのことは姉として慕っているからな。

 そんなスーが掛け合うと、物凄い勢いで俺がやっていた監視網が奪われていく。
 ……アンめ、権限を共有しているからと全部渡しやがったな。


「これで良し。さぁ、寝よう?」

「…………ハァ、お手上げだよ。ここで寝転がればいいのか?」

「ううん、これの上に」

「『堕落の寝具』……いいのか?」


 それは【怠惰】の魔武具であり、スーの自我を育んだ代物。
 受肉するまで共にあった、半身とも呼ぶべき存在。

 実際、聖・魔武具っ娘たちのスキルは主に自我を創った武具のものだし。
 まあ、何度か回復のために使ってはいるのだが……改めてここまで言われるとな。

 むくむくと勃つ……じゃなくて、湧き立つのは気恥ずかしさと──後悔。
 ここまでスーにやらせてしまった、そのことが俺の中で重くのしかかる。

 なんてことを考えていると、体が何かの力に押された。
 向かう先は『堕落の寝具』、スーが両手を広げて俺を迎え入れる。


「スー、アレ・・を使っただろ」

「……なんのこと?」

「いや、いいけどな。寝るって決めたんだ、こうなったらとことん寝てやるよ」

「! うん、たっぷり寝よ?」


 言われるがままに、誘われるがままに。
 小さな体を使ってスーは、俺を布団と化した寝具へと誘う。

 身に纏う俺謹製のパジャマが、ふわふわもこもこの感触を擦りつけてくる。
 そして、ベストな感触な枕と布団が、さらに俺を夢心地へ──


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……もう、夕方か?」

「おそよう、メルス」

「スー……おそようさん」


 俺より先に起きていたのか、スーの顔が目覚めた俺の眼前にあった。
 どうせなら寝顔が見たかった……俺の寝顔とか、いったい誰得なのだろう?

 なんというか、かなりリフレッシュできているなぁと実感できる。
 それは何故かって? 改めて自分の選んだチョイスがバカバカしいと思えるからだ。


「ごめんな、スー。そして、ありがとな。全部……はまだ不安だから難しいけど、もう少し任せられるところは任せるよ」

「うん、そうして。みんな、もっともっとメルスの役に立ちたいんだから」

「……そう、思ってくれているなら、俺はどこまでだって頑張れるさ。だから──ちゃんとお礼をしないとな」


 スーの顔をジッと見る。
 ぷにぷにの肌に手を伸ばすと、彼女はただ手に頬擦りをしてゆっくりと目を閉じた。

 元から近かった距離は、さらに近づく。
 そして、そのまま──撮影機材を停止させるのだった。


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