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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と橙色の謀略 その17
しおりを挟む待ち受ける魔花は牛鬼人の姿をしていた。
魔花は過去存在した魔物の記録を利用し、その姿を模った一部に自身を埋め込むことで存在する。
当然、魔物としての性能は据え置き。
そのうえで、花の持つ厄介さを兼ね揃えた面倒な存在だ……魔族たちは咆哮を上げた魔花に、怯えてしまっていた。
「──気を張れ!」
『ッ……!』
「朕が居る。ここはまだ二部屋目、先は長いのだぞ。斯様な場所で躓いていては、朕無しでは進めぬぞ」
『!!』
戦闘にシュリュはほとんど参加しない。
そりゃあ独りで何でもできるのだから、やるなら最初から単独で来ている。
魔族の問題は魔族で解決すべき、あくまでも自分たちの遺跡を利用されたからこそ、その原因を討つため……そういう体を取り、彼らに任せていた。
「……これ以上、朕が何も言わずとも。すでにやるべきことは分かっているはず。案ずることは無い、後ろには朕が居る。威を示せ、魔王軍の精鋭たちよ!」
『はっ!』
そんなこんなで戦闘が開始する。
攻守、そして支援系も充実しているので俺やシュリュが手を出す必要はない。
魔族たちはシュリュに鍛え上げられているので、レベルに頼らない戦術的な面でもしっかりと戦えている。
同時に、俺の施した魔術“集団合結”も上手く利用していた。
仲間同士で情報をやり取り、俯瞰的な視点から戦況を把握しながらの作戦構築。
魔花がいかに強かろうと、魔物を模っている以上は決して無敵ではない。
対策を整えてじっくりと挑めば、かつてと同様いずれは打ち倒せるだろう。
「…………」
「どうかしましたか?」
「単に招き入れるのであれば、より奥深くで配置すべきだろう。また、妨害したいのであれば強い個体を。だが、あの程度では突破されることは承知のはず……ふむ」
シュリュ的には楽勝な牛鬼人も、割と苦戦する相手だけどな。
現に鍛えられたという魔族たちも、激しい攻防を繰り広げているし。
「……あとで再訓練が必要だな」
「ほ、ほどほどに」
「それは良い。だが、何か意図あってのことなのだろう……ハカられているわけだな」
測り、計り、図り、そして謀る。
シュリュが告げたたった三文字が、花たちによるどれだけの考えを読み取っての言動なのか……俺にはさっぱりだった。
ただまあ、彼女が魔族に告げた以上に気を張っているのはよく分かる。
俺にできるのは、従者役として可能な限り支援していくことだけだ。
◆ □ ◆ □ ◆
牛鬼人を討伐した後も、魔族たちの戦いは続いていく。
むしろ、始まりでしか無かった……以降に繰り広げられるのは更なる死闘だった。
戦いを終えるたび、俺が他の回復魔術士たちと共に治療を行うほどに。
通常の魔術より、俺は科学的なアプローチがある分効果があるからな。
やり方はそれぞれ行った華都で伝えているが、まだまだ使い手は現れない。
既存の概念を覆すというのは、なかなか受け入れ難いものだからな。
「十部屋中、七部屋でこうとは……やはり、何かあるな」
「ですが、花たちは何を企んでいるのでしょうか?」
「最初は誘い込み、誘き寄せるためのものであろう。仮に引き返そうとするのであれば、相応の怪物も出てきたであろう。そして、難度を疲労度合いに合わせて高めていき……確実に仕留める」
『────』
魔族たちから声は上がらない。
もうすでに、そんな体力もさして残されていないからだ。
ポーションもすでに大量に摂取しており、瞬間的な回復は見込めない。
回復魔術も、俺のモノ以外は効果が微弱になる程度に使い尽くしている。
ジリ貧、逆に声が出なかったのは幸いだったのだろう。
言葉を漏らせば、それは確実に弱音……伝染し、空気は最悪になっていたはずだ。
──すでに状況は、最悪一歩手前に陥ってはいるが。
「……だが、これは魔花たちが強大だから、といった理由ではない。ここまで来れば、明確だ。花どもは、遺跡に眠る力を吸い取っているのだろう」
「はい、おそらくは」
「つまりこれは、朕らの不始末……相違あるまい?」
「…………はい」
なお、これはここに来るまでに取り決めておいた芝居だ。
さすがに魔族たちがピンチになってきたので、介入できる理由立てをしている。
事実、遺跡(仮)にはある程度怪しまれないようにさまざまな仕掛けが施してあった。
その一つは地脈を借りたエネルギー供給、それを利用された結果が現状とも思える。
尽きないエネルギーによって、強大な魔物でも好きなように配置できる。
初期の方は気にしていなかったが、強くなる魔物の難度からその考えに至った。
というより、奥に行けば行くほど俺でもできる解析内容が増えているからな。
この遺跡(仮)を迷宮として成立させているのは、完全に俺たちが原因だった。
「で、あればだ。朕が動こうと問題はあるまい。これは魔族ではなく、竜族の背負いし咎と言える。相違あるか?」
「……無茶は、しないでくださいね」
「ふっ、誰に斯様なことを問うておる。朕の前に並び立つあらゆる障害、覇導を受けぬモノすべてを討ち滅びしてみせよう」
そう言って、シュリュは前へ進み出る。
魔族たちが向ける期待の眼差し、それに応えるべき魔花たちに武器を振るうのだった。
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