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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と橙色の謀略 その15
しおりを挟む「……行方不明?」
「それも、朕らの遺跡でだ。さすがにこの案件は、他の者にも尋ねておくべきだろう」
なるほど、遺跡は俺の力だけで生み出したものではない。
監修はほぼ眷属が手掛けているので、むしろ確認するならそちらの方が正しいだろう。
……というか、俺に聞かれても何も分からない。
やるにしても、直接行くぐらいしかできないのだから、現状と変わらなかった。
「分かりました、シュリュ様。お役に立てるのでしたら、俺も精一杯頑張ります」
「うむ。其方の力、必ずや役立つだろう。では行くぞ──目的地は地上、竜人族の遺跡。必ず一人も欠けず、見つけて戻るぞ!」
『はっ!』
盛り上がる魔族の皆さん。
しかし俺は、遺跡に何が起こったのかを気にすることで必死。
今の状態では、やはり先ほど考えた通り実地での判断が必須となる。
そして何より──この展開、ゴーの出番ができるのだろうか?
うん、一番心配である。
◆ □ ◆ □ ◆
地上 遺跡(笑)
行方不明になったのは、当然ながら探索部隊の魔族の皆さんだ。
特に罠などは設定していなかったはずなのだが、失踪地点は間違いなく遺跡らしい。
そういった情報を把握できる『装華』の持ち主が、シュリュに報告していた。
予め登録した『装華』の持ち主がどこにいるのか、調べることができるんだとか。
そして、もう一つ気になる情報が──
「迷宮化、だと?」
「は、はい。ここに居ることは分かっているのですが、具体的にどこに居るのかが判明していません。わ、私の能力でそうなるのは、迷宮の中ぐらいしか……」
「ふむ……良い情報だ、感謝する」
「はひっ! あ、ありがとうございます!」
遺跡に外から見て大きな変化はない。
だが報告者の言が正しいのであれば、そうなった原因があるはず。
あまり外には洩らせない内容だ。
故に念話を繋ぎ、秘匿した状態で情報をやり取りする。
《其方よ、これは……》
《迷宮にできるような存在は、この世界そのものかもしくは──》
《花どもの仕業か》
《だろうな。厄介だな……》
地上の方は完全掌握されているし、今は解放済みだがそれまでに神から奪った力も充分に持っている。
俺も俺で、奴らの『理』の一部を保管しているあるが、こうして活発的に動いている以上、完全には消滅させられなかったか。
つい先日自由世界で暴れたキメラ種同様、何らかの形でバックアップがあったのかもしれないな。
閑話休題
迷宮化した遺跡に挑むということで、兵士たちもだいぶ緊張している。
決死の覚悟、そんな顔になっていた……さて、本当に死なないようアシストしないと。
「では、頼むぞ」
「分かりました──『擬似職業・探索者』」
既存の術式を用いない、俺が開発した新しい魔術。
それは一時的に、設定した職業の恩恵にあやかれるというもの。
なお、本当に職業スキルが使えるというわけではなく、それっぽい効果のある魔術を複合しているだけ……それゆえに『擬似』、しかし後付けと変更ができる便利な魔術だ。
「本来の探索者と同様に、迷宮の攻略度に応じて補正が強まると思います。攻略は主に、マッピングの完成で行えますので、どなたかの『装華』でそれができませんか?」
「あ、ああ……魔力動物を創り出す能力なら可能だが」
「それで大丈夫です。入り口から周囲を見てくれるだけでも構いません、お願いします」
そう挙手してくれた魔族に頼むと、すぐに魔力を練って動物の形にしてくれた。
ネズミ型の魔力動物たちは、遺跡の中へ進み──すぐに消えたようだ。
「……ダメでした。で、ですが、二部屋目までは行けました!」
「今はそんなに実感できないと思うけど、効果は出ているから。それじゃあ、支援魔術をもう少し──『集団合結』」
『!』
「純粋な強化魔術より、こっちの方がいいと思いまして。シュリュ様の指示を“念絡”の要領で誰でも聞けるようになりました。意識すれば、他の方々とも連絡が可能ですよ」
魔法にもある複数人による念話だが、その魔術版である。
軍など用いられる戦略級魔術、という仰々しい扱いになっていた。
そんな魔術に改良を加え、燃費などを良くしたのがこの魔術だ。
本来の魔術よりもすぐに連絡できるし、複数人の報告を同時に聞き取ることもできる。
シュリュには少々迷惑だったか……そう気になり彼女の方を見ようとすると、その前に頭を撫でられた。
「よくぞやった、さすがは朕の従者だ」
「シュリュ様……」
「何物にも代えがたい朕の宝である。これからも、朕のために励むが良い」
「は、はい!」
先ほど迷宮化を報告し、シュリュに褒められていた魔族の気持ちがよく分かる。
うん、俺もどうせならこういう上司の下で働きたいものだ。
周囲の魔族の皆さんは……うっ、なんだこのほっこりムードは。
ここ数日の間に、シュリュに飼いならされてしまったようだ。
「ふむ、ではそろそろ進もう。朕の遺跡を汚す輩には、相応の罰を受けてもらおうか」
『はっ!』
シュリュの号令に合わせ、武器を掲げる魔族たち。
そうして、俺たちは迷宮と化した偽りの遺跡へと向かうのだった。
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