上 下
2,119 / 2,518
偽善者と策略する日々 三十三月目

偽善者と橙色の謀略 その14

しおりを挟む


 魔王を剣にしてのテストは、それなりに良好だった。
 割と自由性が高く、ある意味解釈がしやすい能力なのだ。

 空気を閉じ込めれば射程が延び、地面を閉じ込めれば瞬間的に落とし穴が作れる。
 他にも剣身へ当てれば、どんな攻撃も擬似的に無効化可能だった。

 そんな便利な[橙牢]だからこそ、魔王を目指した者もいるのかな……なんて思ったからこそ、気になったことが一つ。


「なあ、魔王。気になることがあるんだが」

『なんだ? 言っておくが、貴様専用の武器になるつもりは無いぞ』

「もう複製は済んでるから要らん。で、これまでの魔王って……『魔王[橙牢]』を使えるようになったとき、それまでに使っていた自分自身の『装華』ってどうなるんだ?」

『……いろいろと苦言を申し立てたいが、先に答えよう。結論から言えば使える。元より継承される前提だった『魔王』だからこそ、新たな継承者の能力を『魔王』の『装華』として加えていく仕様のようだ』


 つまりアレだ、次代に行けば行くほど強くなるはずだったのが『魔王』だと。
 なお、さらに聞くと全能力を引き継ぐわけではなく、特徴的な部分だけらしい。


『封じていたこれまでの魔王を、一時的に使役状態で開放していたのも、そうした能力に恵まれた魔王の影響だ』

「……凄い悪役とか支配者みたいな感じのする能力だな」

『実際にそのようなものだ。当代の魔王が異例であっただけで、魔王を目指す者など大抵が支配欲に溺れていた者だからな。悪いとは欠片も思わんが、当代だけはなかなかに面白い魔王だと思ったものだ』

「はいはい、そりゃあよぉござんしたね。しかしまあ、なるほど……部分的な継承なら無駄なリソースを使わんで済む、かぁ。容量の方をどうにかするんじゃなくて、そっちをどうにかするのもアリだな


 俺には最高峰のリソース量を有する素材、神鉄鉱オリハルコンがあったからな。
 お陰で節約という言葉を忘れて、望むままに付けたい性能をアイテムに付与していた。

 しかし、それらができないモノもあるのだから、ちゃんと考え直した方が良い。
 すでに複製済みの『魔王[橙牢]』から、参考になるデータが取れればいいけど。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 剣に関しては宝珠を外し、代わりに危険なときに自動装着されるシステムを組み込んだ後、魔王へシュリュ経由で届けてもらう。

 なんかこう、本当に必要になったら力を発揮するというのが定番だと思ったし。
 そういうピンチを共に乗り越えれば、ある程度関係も和解できるという打算もある。

 受肉云々に関しては……まあ、当代の魔王と和解が済んでからだな。
 後腐れなくなってから、俺もその関係構築に対するプレゼントを……ってことで。


「こうなると、もうやることが無いな……そろそろ終わりでいいかな」

《うむ、同朋が活躍することも特段無かったからな!》

「……あの、ゴーさん。もしかして、怒ってますか?」

《いいや別に! われは別に! 出番がまったく無かったことなど! これっっっっぽちも気にしていないが!?》


 あー……うん、ゴーの出番は無かった。
 なんせ攻撃の無効化やら断罪やら、特定のシチュエーションやらイキりプレイでもしない限り、使う要素が無かったからである。

 今回は従者を演じていた以上、そういった事案になることは少ない。
 むしろ、支援系の武具っ娘でもないと出番は無いだろう。


「……じゃあ、最後にやってみるか?」

《…………》

「ゴーが不満げなのは俺も嫌だしさ。大義名分も欲しいし……シュリュと一度、地上の遺跡に戻ってみるとかそんな感じで」

《…………うむ》


 それからすぐに再度連絡を済ませる。
 幸い、ちょうど剣を届けてくれていたところだったので、流れでゴーに語ったことをそのまま説明して許可を貰ってきてくれた。

 護衛が付きそうだったが、そこは実力云々でごり押し。
 どうにか二人(+一武具っ娘)での地上行きが騒動無しで通った。


《ふっふっふ、この覚醒した我の新たなる力に恐れおののくが良い》

「キャー、チョーコワーイ」

《ふははははは! そうだろうそうだろう、刮目して見るのだな!》


 ゴーの楽しそうな声に俺もほっこり。
 しかし、問題が一つ……断罪系の特殊攻撃以外、ゴーこと『虚絶の円套』には攻撃技が存在しないのだ。

 他の武具っ娘がそれぞれ特定の分野で特化しているように、ゴーは裁定特化型。
 上位者として、下の存在に正しき裁定を下す……俺にできないことを求めた存在。

 その能力に必要とされるリソースは非常に多く、だからこそそれに特化している。
 もちろん、普通にゴー自身が受肉体で攻撃するのは可能なんだけどな。


「──其方、ここに居たのか」

「シュリュ様……何かありましたか?」

「理解が速くて助かる。どうやら、すぐにでも行く必要ができたようだな」


 そんなこんなでシュリュを待っていると、突然彼女がやってくる──ただし、背後に多くの兵士たちを連れて。

 いったいどうしたのか、不思議に思っていると念話での意思の伝達が行われてきた。


《すまぬな、念話をする暇もなかった》

《おいおい、そりゃあかなりの一大事だな。いや、俺への連絡よりも他の眷属たちに伝えたかったんだろう? それはいいから、何があったか教えてくれ》


 隠し事をされるのは好まないが、理由があるならそこまで固執しない。
 シュリュなりに、問題解決に眷属の力が必要だと思うなら……それは受け入れる。

 だからこそ、いったい何があったのかと余計に気になる。
 地上の話だとは思うんだが……さて、どういった案件なんだか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...