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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と橙色の謀略 その11
しおりを挟むシュリュ提案による戦挙。
まあ、俺の創作物知識に似たような案件があったので、もしかしたらそちらを思い出してくれたのかもしれないが。
実力主義の魔族華都『アスタリペ』だが、敗者は死というのはあくまで初代魔王の信念でしかない。
自由世界にも存在する闘技場、それに似たものがこの世界にも在った。
ただし、ここの闘技場は一日一回しか蘇生機能が対応してくれないらしいが。
「──聞け、アスタリペの民たちよ! 我らが魔王様の御言葉を!」
初代魔王としての暴虐っぷりから、代々の魔王は基本的に好かれていない。
実力主義が成り立っているからこそ、ギリギリどうにかなっていただけだ。
……時折あえて善政を敷いていたこともあると、初代魔王本人から聞いている。
ギャップ萌え、ではないが、実例があるからこそ多少の間は期待するんだとか。
当代は最初に会った時から分かるように、圧政タイプの時期だった。
なので、全然期待されていない……それでも、『毅斧』の声で魔王は壇上へ向かう。
「──親愛なる民よ。私はアンフォーン・スカビオサ、魔王として王制を敷いてきた者である。僕……いや、我が声を聴いてほしい」
『…………』
その一言で、魔王に対する印象は変わる。
これまでの冷酷な声ではなく、彼自身の好青年的爽やかな声……チッ、これだからイケメンは嫌なんだよ。
ここから長い演説が始まり、少しずつ魔族の信頼を得ていく。
だが、それだけでは終わらない……これまでとのギャップがマイナスになることも。
「──だからこそ、我はそれを証明する。この国は実力主義によって成り立ってきた。それを大きく覆すつもりは無い、ただこれまで力無き者と見られた者たちに、異なる強さもあることを証明したい!」
その宣言と共に、舞台上に降り立つ誰か。
城勤めの者たちは、それがすぐに食客として居座る竜人族だと理解する。
「彼女は魔族ではない。だが、我らと同等かそれ以上に強い。これは四天王も認めていることであり、我も同意見である」
ざわつく会場。
シュリュは力を極限まで抑え込んでいるので、それに気づけないレベルの奴らがいろいろと囃し立てている。
腹は立つがあくまでも台本通り。
俺もグッと堪えて、こっそり移動を開始。
シュリュと合流後、舞台でのサポートを行う予定だ。
「ここに宣言しよう! この日を機に、この国は生まれ変わると! 異論がある者は前に進み出ろ、そして彼女を……四天王を、そして我を倒せ! 力だけですべてが決まる、この悪しき法を終わらせる!」
聞く人が聞けば、本末転倒とも取れるようなやり方だ。
だってそうだろう、止めたいことがあるのに止めるためにそれをやっているのだから。
しかし、話し合いの結果これ以外にいい方法が無いのも事実だった。
河原の決闘然り、後腐れが無い方が不満を残しにくいからな。
◆ □ ◆ □ ◆
そんなこんなで始まった大乱闘。
魔王たちは結界に守られ、シュリュを倒さないと解除されないと宣言。
そうなったら容赦なく武闘派が攻める。
大義名分を以って、女を嬲れる……そんな都合のいい夢を、まあ三秒ぐらいは抱けたことだろう。
「ば、化け物……」
「とうの昔に聞き飽きた言葉だ。戦意が無いのであれば、疾う失せろ」
「ひ、ひぃいいい!!」
敗北者は即座に舞台から降ろされ、恐怖に歪んだ顔を浮かばせ逃げていく。
シュリュが見せる圧倒的な武の力が、それほどまでに恐ろしいからだろう。
「ふざけるな! どうして──『装華』を使わずにそこまで戦える!」
「貴様らこそ、何ゆえそこまで『装華』に依存しているのだ。本来持ち合わせている己が体を信じれば、このようなこと他愛もない」
飛んできた魔法を指で弾き、空気を指弾で飛ばして宙に居る参加者を墜とす。
そう、シュリュはあえて何も装備せずにただの衣装だけで参加者を屠っていた。
……まあ、この世界だとまだ『装華』経由じゃないとシステム周りを運用できないし、しょうがないと言えばしょうがないけどな。
それでもレベルに関わらない『技量』という経験は、システムが無くともちゃんと積むことができるはずだ。
「大丈夫ですか? ──『癒療』」
「た、助かった……ったく、生きた心地がしなかったぜ」
「シュリュ様はお強いですから。皆さん、支援魔術が切れた方は並んでくださいね! きちんと掛けますから──『宣戦強競』!」
「おおっ! 凄い、これなら行ける! ありがとよ、坊主!」
俺も俺で、やることをやっている。
それはシュリュにやられた人たちの治療、そして不足している能力値を補うためのバフ魔術行使だ。
シュリュには加減してもらっているが、それでもそれなりに差がある。
それを補うべく、つい先日学んだばかりの魔術(改良版)を使っていた。
複数人にやればやるほど、効率よく強化できるというこの魔術。
ちょうどたくさんいるし、支援系のスキルの経験値稼ぎついでに施していた。
「まあそれでも、シュリュに勝つには足りてないんだけどね。そもそも、能力値が上回れば勝てるっていう話なら、うちの眷属でももう少し勝てる人が増えるだろうし」
シュリュの強みは圧倒的な戦闘経験。
そこから裏付けされた戦術によって、相手に何もさせないまま勝つことすらできる。
なので彼らが勝つためには、一致団結が必須なのだが……これに気づく頃には、魔王の意見も通りやすくなっているかな。
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