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偽善者と策略する日々 三十三月目

偽善者と橙色の謀略 その08

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 本来の人格を取り戻し、好青年といった振る舞いを見せる『魔王』。
 言っていることも至極真っ当、だからこそ実力主義の魔族社会を変えようとしたのか。

 なお、身に纏っていた『魔王[橙牢]』は解除されており、黒と橙が混じった衣装を着ているだけ……ずっと装備していたのは、憑依していた初代魔王の仕業だったのだろう。


「シュリュ殿、そしてメルス君。貴方がたが地上の遺跡から現れたとの話は聞いている。初代魔王の知識曰く、すでに竜という存在が淘汰されていることも……ならばなぜ、貴方がたはここに居る?」


 当然の質問だ。
 幸い、終盤に初代と語った異世界云々に関しては把握されていないようで。

 それならば、予め用意していた設定をシュリュに言ってもらうだけでいい。


「朕らはかつて、こことは違う場所に居た。そこで一度は天命を終えて、永い眠りに着いた……はずだった。だが、どういうわけか朕は今、ここに居る。過去の名残など無い、空に花の浮くこの世界に」

「…………遺跡に、過去の世界にそれほどまでの技術が? しかし、不思議なことではないか。問題は、何故貴方がたがこの時に目覚めたのかだね」

「それは簡単なことよ。朕の領域に、土足で踏み入った者の気配を掴んだからだ。死したはずの朕ではあるが、それでも王としての責務は果たさねばならぬのでな。動いた四肢を使い、永き眠りから覚めたのだ」

「大変申し訳ないことをした。これまで多くの遺跡を我々魔族で調査をしたが、先住者が確認されたことは無かったんだ。非礼を、偉大なる王になんと申し上げていいのか」


 不法侵入されたから起きた、過去のことはよく分からないと誤魔化してみました。
 矛盾は無いが、意味不明な点が多い説明ではある……しかし押し通す。

 これまた幸いにして、竜族の情報が極めて少ないみたいなので何とかなるだろう。
 ……この世界、門番にちゃんと守護獣を配置しているのかな?


「構わぬ。朕の主張は一つ、初代が申した通り食客としての待遇だけで良い。ある程度、自由に動ければそれで充分である」

「分かりました。では、そのように。メルス君は何かあるかな?」

「あっ、じゃあえっと……今の世界で使われている魔術が知りたいです。シュリュ様の従者として、役立てる魔術を知っておきたいですので」

「分かった。では、図書館への入室許可を発行しておく。禁書は難しいけど、それでも大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます!」


 まあ、禁書なら森人の華都にある、すべての本が(複製され)貯蔵された迷宮の中で調べればいいか。

 そういった希少度の高い本は、逆に数が少ないので最下層まで行けばだいたい読める。
 むしろ、そういった価値無しと判断されて上層にある本が探しづらいんだよ。

 本に貴賤など……まあ無いわけでもないのだが、それでも時折当たりは存在する。
 魔族がどういった魔術を用いているのか、調べておいて損は無いだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 細かいことはこれまで通り、眷属に任せてひたすら図書館に籠もっている。
 魔族は魔力量が森人とほぼ同量であることに加え、操作技術が先天的に高い。

 そのため、他の種族に比べると少々強引な術式で成立させられていた。
 失敗するリスクを気にせず、より高火力の術式を開発しているようだ。

 なお、周囲に“無言聴取ヒアリスニング”を使いながら本を漁っている現状。
 なのでどれだけ独り言を呟こうと、周囲からすれば無音なので気にされない。


「ん? これは……固有魔術?」


 そんな中、見つけた気になる単語。
 調べてみると、固有魔法のようにスキルとして成立しているものではなく、本人の性質に合わせて創るオンリーワンな術のようだ。

 ある意味、個有魔術と呼ぶべきか。
 ごくまれに、魔法では無いが『装華』を介さずに発動できる術式、その中で自分だけにしか使えない魔術を総称しているようだ。


「えっと何々……本人の属性、魔力性質、そして制御術式によって成り立つと。制御術式無しの場合、魔力の暴走で勝手に発動して死ぬことがあると……うわぁ、怖いな」


 自由世界の場合、魔法スキルがあるので基本的に習得すれば制御の方はシステムが勝手にやってくれるのでほとんどそういったケースには陥らない。

 だが、こちらの世界は花によって理が簒奪されたため、『装華』経由でしかそういったシステムが運用されていないのだ。


「固有魔術のリストは……無いのか。まあ、切り札みたいなものなんだし、公開する方がおかしいのかな? なあ、お前は何か知らないのか?」

『…………』

「──」

『やめろ! おい、無言で振り回すな!!』


 さて、そんな俺の独り言に応えてくれるのはゴー……ではなく宝珠に閉じ込められた残念な初代魔王様。

 いっそのこと、サクッと別世界の魔王と同じ目に遭ってもらおうかとも思ったが……それをやる意味もないかと止めておいた。

 代わりにこうして持ち歩き、いい情報を何か持っていないかと確認している。
 隠し持っていた『魔王[橙牢]』の管理権限も引き剝がし、今のコイツはただの霊体。

 ──過去の情報を持ち合わせただけの、便利な宝珠でしか無いのだ。


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