2,112 / 2,519
偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と橙色の謀略 その07
しおりを挟む──『魔王[橙牢]』。
この世界において、数少ない花に由来を持たない『装華』。
それは本来、世界が必要とする要素として新たな『理』に組み込まれた。
だが、そんな事情を人々は知らない。
赤色の世界において、『赤王』が妄執の果てに迷宮へ権利を封じ込めたように、橙色の『魔王』もまた、似たことを行っていた。
「というわけで、[橙牢]の能力を応用して意識を収容していたみたいだな。要するに、新しい候補者をアバターに見立てて奪い取っていたって感じだ」
「なるほど、其方の世界で言うところのアカウントの権限を奪っている、ということか」
「うーん、ちょっと違うな。でも、ちょうどいい表現だ。そのたとえで繋げるなら、アカウントの方をどうこうするんじゃなくて、そのアカウントを使おうとするヤツを、強引に拉致監禁して成り代わっているんだ」
自分の中でも能力に理解が行く。
先んじて『毅斧』に語った通り、根本的な能力は指定した概念への干渉だ。
偽装用の空間操作の場合、空間を指定してその周囲ごと[橙牢]発動領域へ……あとは望むままに弄繰り回せば、立派な空間操作に見えるようになる。
そして、乗っ取りも似たような感じだ。
そもそも、血で遺伝するという『勇者』と違って、実力があれば誰でも引き継げる……なんていうのがそもそもおかしいけど。
あえて誰にでも使える『装華』として見せかけ、使用したら最後、直接本人を対象として[橙牢]の力を施すことで、意志を根こそぎ封じているのが絡繰りだ。
「なんとも惨いな……真に王を目指す者も、斯様な愚王にすべてを奪われるとは思ってもいなかっただろう」
『──ッ!』
「あんまりからかってやるなよ。とりあえず分離には成功、『魔王[橙牢]』もこうして使えるようになった」
ギーの本体たる『模宝玉』の力で、完全模倣を終えた『装華』を身に纏う。
代々魔王を捕らえていたからか、彼らのサイズに調整する機能が付いていた。
そんな『魔王[橙牢]』に初めて目覚めた初代魔王だが、現在は俺の掌で(物理的に)転がっている。
オーブの中に封じているのだが、外部に意思表示ができないようにしておいた。
だが、怒りの波動だけは漏れてくる……それも仕様だ。
「其方よ、あれらはどうする? いっそのこと、其方が王として君臨するか?」
「……俺はやらないし、シュリュにやらせるのも無しだ。ずっと管理できるわけでもないし、赤色の世界と同じ仕様なら、正式に転移していない俺たちに最後の試練へ挑む資格は無い。貴重な戦力を減らすのは控えたいな」
「ふむ、それが其方の主張であるならば、受け入れるとしよう。であるならば、あ奴らをどのように扱うのか?」
それは今なお気絶している人々。
シュリュの力でそうなったのだが、保護されていた俺以外には容赦なく叩き込まれた。
竜、そしてその上位種である龍や辰よりも膨大な竜気を浴びたのだ。
たとえそれがシュリュにとっての手加減がされていても、その威力は尋常じゃない。
回復魔法や魔術でも掛ければ、それなりに解消するかもしれない。
だが今は明確なプランが出来上がっていなかったので、あえてそのまま放置していた。
ちなみにだが、暇だったので四天王の分の『装華』もバッチリ模倣してある。
使いどころは特に見つからないが、まあ情報収集の足しにでもしよう。
「とりあえず、そろそろ起こしておいた方がいいのかもな。俺は従者だけど回復魔術が使える設定だし、全員を一つの場所に集めて治している状況を作っておこう」
「ふむ……ではそうしよう」
すでに『装華』を解除しているシュリュだが、さも当然のように竜気を具現化して魔族たちの運搬を行わせている。
魔王も四天王も、その他の兵士たちも纏めて絨毯の上に並べていく。
俺は彼らにひたすら“癒療”を施し、治していくだけの簡単なお仕事。
「なあシュリュ、どっちから先に治そうか。末端か、それとも頂点か」
「身分や権威から考えれば、まずは頂点……と言いたいところだが、実績に乏しい今の其方が、初めからそのように振る舞うのはおかしいようにも思える。まずは探索隊の者を一人、癒してからの方が良いな」
「了解っと。まあ、ソイツに全部の説明を押し付ければいいか」
「……それは朕の役割か。やってみよう」
そんなこんなで、打算ありきのマッチポンプ活動が始まった。
言われた通り、知り合いを治してからそれらしい理由を説明。
あとは偉い人を起こしながら、事情の説明全部をやらせていく。
ソイツの提案で先に四天王から癒し、それから魔王という順番になったくらいだ。
……奪われた物の返還などは、模倣したとき先に済ませておいて正解だったよ。
◆ □ ◆ □ ◆
「改めて名乗ろう──僕はアンフォーン・スカビオサ。貴方がたには、なんとお礼を言っていいのやら……本当に、感謝する」
「構わぬ。朕らはただ、降りかかってきた火の粉を払っただけのこと。しかし、その不始末程度はしてもらわねばな」
「重々承知している。この『装華』は危険な代物だった……それは中に閉じ込められ、初代魔王の怨念を聞き続けた僕が一番知っている。この出来事は語り継ぎ、戒めとしよう」
「朕らのことは、ただの旅人とでもしておくのだな。あまり目立つことは好んでおらぬ」
初代曰く、竜人はだいぶ前に滅んでいるみたいだからな。
恩だからと言ってその存在を知られては、切り札を一つ無くしてしまうのだ。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる