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偽善者と策略する日々 三十三月目

偽善者と橙色の謀略 その07

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 ──『魔王[橙牢]』。

 この世界において、数少ない花に由来を持たない『装華』。
 それは本来、世界が必要とする要素として新たな『理』に組み込まれた。

 だが、そんな事情を人々は知らない。
 赤色の世界において、『赤王』が妄執の果てに迷宮へ権利を封じ込めたように、橙色の『魔王』もまた、似たことを行っていた。


「というわけで、[橙牢]の能力を応用して意識を収容していたみたいだな。要するに、新しい候補者をアバターに見立てて奪い取っていたって感じだ」

「なるほど、其方の世界で言うところのアカウントの権限を奪っている、ということか」

「うーん、ちょっと違うな。でも、ちょうどいい表現だ。そのたとえで繋げるなら、アカウントの方をどうこうするんじゃなくて、そのアカウントを使おうとするヤツを、強引に拉致監禁して成り代わっているんだ」


 自分の中でも能力に理解が行く。
 先んじて『毅斧』に語った通り、根本的な能力は指定した概念への干渉だ。

 偽装用の空間操作の場合、空間を指定してその周囲ごと[橙牢]発動領域へ……あとは望むままに弄繰り回せば、立派な空間操作に見えるようになる。

 そして、乗っ取りも似たような感じだ。
 そもそも、血で遺伝するという『勇者』と違って、実力があれば誰でも引き継げる……なんていうのがそもそもおかしいけど。

 あえて誰にでも使える『装華』として見せかけ、使用したら最後、直接本人を対象として[橙牢]の力を施すことで、意志を根こそぎ封じているのが絡繰りだ。


「なんとも惨いな……真に王を目指す者も、斯様な愚王にすべてを奪われるとは思ってもいなかっただろう」

『──ッ!』

「あんまりからかってやるなよ。とりあえず分離には成功、『魔王[橙牢]』もこうして使えるようになった」


 ギーの本体たる『模宝玉』の力で、完全模倣を終えた『装華』を身に纏う。
 代々魔王を捕らえていたからか、彼らのサイズに調整する機能が付いていた。

 そんな『魔王[橙牢]』に初めて目覚めた初代魔王だが、現在は俺の掌で(物理的に)転がっている。

 オーブの中に封じているのだが、外部に意思表示ができないようにしておいた。
 だが、怒りの波動だけは漏れてくる……それも仕様だ。


「其方よ、あれらはどうする? いっそのこと、其方が王として君臨するか?」

「……俺はやらないし、シュリュにやらせるのも無しだ。ずっと管理できるわけでもないし、赤色の世界と同じ仕様なら、正式に転移していない俺たちに最後の試練へ挑む資格は無い。貴重な戦力を減らすのは控えたいな」

「ふむ、それが其方の主張であるならば、受け入れるとしよう。であるならば、あ奴らをどのように扱うのか?」


 それは今なお気絶している人々。
 シュリュの力でそうなったのだが、保護されていた俺以外には容赦なく叩き込まれた。

 竜、そしてその上位種である龍や辰よりも膨大な竜気を浴びたのだ。
 たとえそれがシュリュにとっての手加減がされていても、その威力は尋常じゃない。

 回復魔法や魔術でも掛ければ、それなりに解消するかもしれない。
 だが今は明確なプランが出来上がっていなかったので、あえてそのまま放置していた。

 ちなみにだが、暇だったので四天王の分の『装華』もバッチリ模倣してある。
 使いどころは特に見つからないが、まあ情報収集の足しにでもしよう。


「とりあえず、そろそろ起こしておいた方がいいのかもな。俺は従者だけど回復魔術が使える設定だし、全員を一つの場所に集めて治している状況を作っておこう」

「ふむ……ではそうしよう」


 すでに『装華』を解除しているシュリュだが、さも当然のように竜気を具現化して魔族たちの運搬を行わせている。

 魔王も四天王も、その他の兵士たちも纏めて絨毯の上に並べていく。
 俺は彼らにひたすら“癒療ユリョウ”を施し、治していくだけの簡単なお仕事。


「なあシュリュ、どっちから先に治そうか。末端か、それとも頂点か」

「身分や権威から考えれば、まずは頂点……と言いたいところだが、実績に乏しい今の其方が、初めからそのように振る舞うのはおかしいようにも思える。まずは探索隊の者を一人、癒してからの方が良いな」

「了解っと。まあ、ソイツに全部の説明を押し付ければいいか」

「……それは朕の役割か。やってみよう」


 そんなこんなで、打算ありきのマッチポンプ活動が始まった。
 言われた通り、知り合いを治してからそれらしい理由を説明。

 あとは偉い人を起こしながら、事情の説明全部をやらせていく。
 ソイツの提案で先に四天王から癒し、それから魔王という順番になったくらいだ。

 ……奪われた物の返還などは、模倣したとき先に済ませておいて正解だったよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「改めて名乗ろう──僕はアンフォーン・スカビオサ。貴方がたには、なんとお礼を言っていいのやら……本当に、感謝する」

「構わぬ。朕らはただ、降りかかってきた火の粉を払っただけのこと。しかし、その不始末程度はしてもらわねばな」

「重々承知している。この『装華』は危険な代物だった……それは中に閉じ込められ、初代魔王の怨念を聞き続けた僕が一番知っている。この出来事は語り継ぎ、戒めとしよう」

「朕らのことは、ただの旅人とでもしておくのだな。あまり目立つことは好んでおらぬ」


 初代曰く、竜人はだいぶ前に滅んでいるみたいだからな。
 恩だからと言ってその存在を知られては、切り札を一つ無くしてしまうのだ。


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