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偽善者と策略する日々 三十三月目

偽善者と橙色の謀略 その05

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 改めて、『魔王』を解析してみる。
 するとどうだろう、中身がチグハグというか……端的に言ってしまえば、乗っ取られているという表現が一番正しい。

 念のため、霊視スキルを発動すれば、その身には怨念が憑りついている様子もはっきり捉えられた。


《あれは……『魔王』の『装華』そのものに纏わりついていますね》

《! な、何か分かるのか!?》

《えっ? あ、はい。あの人を包み込むように、『装華』から怨念が蝕んでいます。アレが『魔王』の能力なんでしょうか?》

《いや、『装華』の名は『魔王[橙牢]』。伝承によると、空間を自在に操る能力だと聞いている》


 現実で見せる粗暴な振る舞いとは違い、念話内での『毅斧』はなんとも知的だ。
 ピンポイントで欲しい情報を教えてくれる彼に、例として考察を伝えよう。


《……間違いありません。その能力は、真の能力の一部に過ぎません。おそらく、本当の能力は──────》

《っ……! そうか、そういうことならば合点がいく。くそっ、今まで俺たちは……なんということを!》

《でも、これで目的が分かりました。おそらく今の狙いは──》

《君の主人であるシュリュ様か》


 俺たちが戦っている間、わざわざ近づいて話しているのはそれが原因だったと。
 聞いた能力から考察するに、より強い存在が依り代として欲しかったのだろう。

 ──なんとまあ、悪手に出たことか。

 俺がここまで平然としているのは、手を出した際に起き得ることを知っているから。
 いや、知っているというか、俺自身がするというか……まあ、それはいいや。


《──すぐに対策を考えよう。君にとっても彼女は、かけがえのない存在のはずだ》

《あ、ありがとうございます……でも、その心配は無いですので》

《どういう…………っ!?》

《『魔王』は触れてはいけない逆鱗に、触れてしまいましたので》


 シュリュの威圧がこの場すべて(俺以外)に降り注ぐ。
 物理的干渉までしているのか、結界まで壊して『毅斧』もその影響下に。

 そうすると、これまで聞こえていなかった会話が耳に入るようになる。
 忌々し気に睨む『魔王』に相対する、ただただ無表情なシュリュ。


「──貴様、何のつもりだ!」

「何のつもり? はっ、斯様な台詞はその薄汚い干渉を消してからにするのだな」

「……まさか、見えているのか」

「愚かな魔族に一つ、教えてやろう。竜族の中でも優れた者の瞳は、万物すらも見通すことができると」


 シュリュの劉眼は、それこそ『物』なら何でも見通すことができる。
 さすがに神気とかは難しいけど、戦闘経験と組み合わせた擬似未来視とかは可能だ。

 本人曰く、筋肉とか魔力の流れから推測すれば容易いんだとか。
 ……そういう一流の武人的な発言、凡人には遠い話だよな。


「平伏せ、死人。貴様のような悪霊が、いつまでも現世に蔓延るでない」

「~~~~!」


 声にならない叫びが『魔王』から上がる。
 周囲の者はシュリュの圧と『魔王』の禍々しいオーラに気をやられ、全員が気絶してしまっていた。

 俺だけがシュリュに守られ、その光景を見る羽目に。


「……どうしてこうなったんだろう」


 四天王ポジションの方々も、『毅斧』を除いて全員素の状態だったし。
 仮に強かったとしても、この世界の人々は大抵が『装華』ありでの強者だからなー。


「嗚呼……思い出した、やっぱり縛りプレイと実力主義は相容れないのかな?」


 これが二つ目の問題点だった。
 俺が弱く見せなければ、『魔王』もこんな茶番を考える必要は無かっただろうし。

 まあ、向こうも向こうで俺を心配させて集中力を欠いたシュリュに、何か細工をしようとしていたはずだ。

 ──そういう意味では、俺も『魔王』も自業自得なんだよな。
 ……ただし、『毅斧』は理不尽に晒されたとも言える。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そんなこんなで、シュリュは『魔王』との戦闘を強要された。
 たぶん……というか間違いなく、眷属の誰かが口出しをしたな。


「ゴー、心当たりは?」

《…………》

「……おい、正直に言いなさい」

《わ、われは何も……ただ、『魔王』とのバトルシーンともなれば、同朋は大興奮と伝えただけだ》


 真実はいつも一つだった。
 犯人は意外な場所に、灯台下暗し、探し物は見つけにくいところに……まあいろいろと比喩はあるが、物凄く近い犯人である。


「いやまあ、たしかに……興奮するけどさ。カッコいい技とか、シュリュの場合だと大量の武器の展開とかマジ憧れるけども」

《むぅ……》

「ゴーの王の能力とか、無効化とかも超カッコいいって!」

《! そうであろう、そうであろう! 早くわれも使ってくれよ、同朋!!》


 魅力的な要求だったが、ここはグッと我慢して否定しておいた。
 せっかくシュリュが戦うというのに、俺が出て行ってどうするのさ。


「──『開花』」


 予め伝えておいた通り、シュリュは普段使いの武器ではなく『装華』を使用。
 花が開いてシュリュを包み、やがてそれらは絢爛な衣装となる。

 かつては竜族の帝王であった彼女に相応しい、細部まで拘られた逸品。
 羽衣と着物……じゃない、呉服みたいなデザインの意匠が混ざっている。

 ──名を『■帝[天竺牡丹]』、彼女の特異性が存在そのものから顕れる『装華』だ。


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