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偽善者と策略する日々 三十三月目

偽善者と橙色の謀略 その03

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 魔王城 謁見の間


「……どうしてこうなったんだろう」


 その光景を目にしていられるのは、当の本人たちと俺だけ。
 この空間に居た他の人たちは全員、意識を失っている。

 視線の先ではシュリュ、そして『魔王』の継承者が睨み合っていた。
 その圧がさながらバトル漫画のように、周囲を威圧するほどの魔力を放っているのだ。

 お陰で四天王ポジションの人たちも……って、あの人たちは先んじて気絶してたわ。
 その理由を生み出したのはシュリュ、そして俺なのだ。


「嗚呼……思い出した、やっぱり縛りプレイと実力主義は相容れないのかな?」


 そう、根本的な部分から言えば、悪いのはすべて俺。
 だからこそ、あんな振る舞いをしなければシュリュも平然としていただろうに……。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──よくぞ来た、竜人とその従者よ」

「ほう、朕が竜人であると知っておったか」

「『魔王』に代々伝わる知識、とでも呼んでおこう。その中には、竜と呼ばれる存在と交わった人族のことがあっただけだ」


 謁見の間で俺たちを待っていたのは、昏めの橙色に染まった鎧やマントを羽織った青年だった。

 その側頭部には二本の角が生えており、魔族の王であると実感させる。
 案内を務めていた探索部隊も、入ってきて所定の位置に就いた瞬間から跪いていた。

 しかし、竜人か……うんまあ、こっちの世界だとそれが限界だよな。
 シュリュは上位種な龍人と純粋な辰、その間に生まれた特異的な存在『劉』である。

 だからこそ、自由世界にしか確認されていないんだけども。
 それでも『魔王』の知識……うん、いろいろと気になることばかりだ。


「しかし、竜人がまだ地上には居るのか」

「そうではない。朕だけが残り、こうしている。強きは残り、弱きは廃る……それは竜の種そのものも同様よ」

「苛烈な種であるな。だが、それでこその竜である。どうだ、我が下でその威を揮うというのは?」

「断る。劉は孤高であり高貴な存在、誰かに傅くなどありえぬわ」
《……ただ独りを除いてな》


 台詞を言い終えるのと同時、念話でこっそりメッセージを送ってくるシュリュ。
 う、嬉しいんだが、今はちゃんと『魔王』の方に集中してやってほしい。


「では、食客として招きたいのだが? 擦り合わせは後ほどするにして、滞在するかを決めておいてほしい」

「食客、か……条件がある」

「──貴様! 我らが王の言に意を唱えるとは……もう我慢ならん!」

「よせ、『毅斧』」


 挙げられた提案に交渉を加えようとしていたら、『魔王』の近くに居た四人のうち一人が叫びだした。


《同朋よ、奴こそ『魔王』に泥を塗るような振る舞いをしているのではないか?》

「……そうかもしれないけど。まさに、言わぬが『華』ってヤツだよ」

《うむ、上手いな同朋》

「…………ちょっと複雑な気分」


 またシュリュを中心として話が進んでいるので、俺はゴーと話をして時間を潰す。
 先ほどのヤツと周りの三人、まあおそらく四天王なんだろうな。


《同朋、前……前》

「前? ……あっ」

「──おい、俺様を前にいい度胸をしているじゃないか」


 いつの前にか、目の前には先ほど異議を申し立てていた四天王──『ゴウフ』。
 なんでこうなったのか、意識を向けていなかった俺にはさっぱりだ。


《同朋の才が従事や回復にあり、目の前の漢がバカにした。そこからは劉なる帝の売り文句に買い文句、見事殺されることなく同朋の前に立つ許可を得られたところだ》

《……えっ、何がどうなったらそういう展開になるの? というか、見事じゃなかったらシュリュに殺されてたのか》

《正直、われも王としての力を揮いたくなるぐらいの言だったぞ。アレは同朋にはまだ劣るが、なかなかの台詞である》


 なんだろう、この虚しい気持ち。
 遠回しに俺の言うことは、目の前の男よりも人を腹立たせると言っているみたいだ。


「従事だ? 回復だ? そんなことで竜人様の機嫌取りができて良かったな、ガキ。しかしまあ、アレだな。俺様が相手で良かったと思うぞ」

「……あ、え……へ?」

「おいおい、お得意の従事に脳みそまで持ってかれてるのか? なるほどな、そこまで特化してるなら納得だ。いいか、バカなお前にも分かりやすく説明してやる──今から、お前は、俺様と、戦う……分かるか?」


 わざと区切って話す『ゴウフ』。
 しかしまあ、不思議だ……よくシュリュも俺の前に通したもんだな。

 念話が届くかと思いきや、それも来ず。
 ……あっ、なんとなくだが理由も分かってきたな。


「わ、分かります」

「そうかそうか、バカでも懇切丁寧に教えてやればいいのか。いやー、俺様もまた一つ賢くなっちまったよ、ありがとな、クソガキ」

「あ、あははは……」

「はははっ! ……ヘラヘラ笑うなよ、誰が許したんだよ」

「ご、ごめんなさい!」


 急なテンションの変化に驚きつつも、処世術として染み込んだ謝罪を行う。
 なお、『魔王』や他の四天王は表情筋も動かさずただジッと視ている。


《噛ませ犬、のようなものか? 同朋、いっそのこと殺ってしまうのもアリだぞ》

《これが演技って線もある。実力主義なんだから、これも許容されるのか? まあでも、シュリュが黙っている以上、俺もある程度このままやっていこう。さすがに殺すようなことはしてこないだろうからさ》


 ──そんなこんなで、謁見の間でなぜか戦うことになる俺。
 これが一つ目のやらかしポイント、人の話はちゃんと聞こうという反省を得た。


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