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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と弟子特訓 その15
しおりを挟む怪盗には予告状を送っておいた。
逆じゃないか、と言われそうだけどやはりノリとは恐ろしい。
やりたかったのでやった、後悔はしていないと胸の内は充実感に溢れている。
……もちろん、軽い反省ぐらいはしてやってもいいけど。
「アン……俺にとっての弟子って誰だ?」
《はて、これまで顔を合わせていたのは、弟子で無ければ誰だったので?》
「真の意味で、俺が誰かに何かを教えている覚えって全然無いし。ユウは弟子を名乗っているけど、実際には俺から教授したことは皆無だろ」
《その通りですね。そもそも、メルス様のように放任主義の方には、弟子など向いていないのでは? いっそのこと、考えを改めてみてはいかがでしょうか?》
……この場合、心機一転とかではなく、反省しろとアンは言っている。
何をか、と言われると正直心当たりなんて無いが……間違いなく、そういう旨だ。
《そもそも、メルス様は弟子を作ってどうされるおつもりなのですか?》
「いや、弟子ができたら育てないか? というか、弟子ってそれ以外の目的で必要とするものなのか?」
《当然ではありませんか。弟子とは、教えることを職としていない者に、教授を願った者が対象です。何かを求め、それを与えられようとしている時点で弟子となるのです》
「……ずいぶんと強引な考えだな。まあ、でも言いたいことはなんとなく分かった。つまり、教師として教えた子供たちは弟子じゃないってことだな」
嘆息が念話なのに伝わってくる。
おそらく、そういうことを話したいわけではないとでも言いたいのだろう。
「はいはい、こっちの世界じゃスキルとか流派系の武技を伝授する相手が弟子でもあるからな。それで、話を戻すんだが……俺に弟子は居るのか?」
《…………メルス様は、弟子に何を求められますか? それによって、回答が異なりますのでお答えください》
「ん? まあそうだな、俺を楽しませてくれるならそれでいい」
《でしたらいますよ──アルカ様です》
……アルカが、俺の弟子?
脳みそをフル回転させて考えてみるが、そのようなイメージはまったくできない。
まあたしかに、彼女に魔法のヒントとなる魔導を見せつけたりしているが、アルカ自身ですべてをやっていることに違いは無いし、本人は殺意満々でやっている。
弟子は師を殺す存在、という定義であれば間違いなく弟子だろう。
だが、そうではないと習ったばかり……どういうことだ?
《互いに競い合い、育む関係……それを世間一般では『強敵手』と言います》
「主に創作物だとな。あとそれ、師匠と弟子じゃ絶対に成立しないし」
《メルス様とアルカ様の関係がとても歪なため、師であり弟子であり、『強敵手』としての関係が成立しているのです》
「…………全然そういう風には思えないんだけどな」
百歩、いや億万歩譲って仮に『敵』と書いて『友』と呼ぶような関係だったとしよう。
それでもアルカが、俺を師として見ているかと聞かれれば……否だと即答できる。
俺とアルカを繫ぐのは、眷属としての関係ではなく殺意に塗れた赤い(血の)糸だ。
《果たして、本当にそうなのでしょうか?》
「……何が言いたい」
《いえ、ただアルカ様も殺意だけでそのようなことを続けていられるのか、という客観的な視点からの問いです。メルス様は、本当にそこまで固執できるとお思いですか?》
「? いや、普通にできるだろ。もしお前らに手を出されたら、俺は誰が何と言おうと贖うなんて生温いことも言わせず、どんなことでもして永劫に苦しませるし」
……ここで無言になられるのはちょっと。
異世界物だと、倫理観が異世界にどっぷり染まるか地球のままで困るかだが、俺の場合はかなり特殊だ。
第一に、AFOをゲームとしてやっていた頃にだいぶ殺している点。
第二に、{感情}の影響で精神崩壊するレベルで想いを発露させることができない点。
──そして第三に、ここがゲームではないと認識して以降も、割り切って粛清を行っている点。
要するにもう慣れていた。
そのうえで、眷属たちを優先すると決めた意志が成り立っている……だからこそ、手を出す輩に容赦はしない。
《…………》
「……アン?」
《──録画終了。ご安心を、何も問題ございません》
「……そのわざとらしい言い草、どうせもう伝わっているだろうから何も言わないけど。ただ、なんとなくお説教されそうだし、その護衛だけは頼む」
真面目な大人組、本気で俺を心配するであろう子供組とかが。
武具っ娘が抑えてくれるにしても、それでも防ぎきれないだろうからなぁ。
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 礼拝堂
「…………」
『…………』
「……俺は無罪だ」
「判決を──無罪:1、有罪:4。有罪とします」
「俺は無罪だ!」
翌日行われた裁判において、俺はあっさりと有罪となってしまった。
惜しむらくは、陪審員に武具っ娘が一人しか居なかったことか……。
裁判長であるアンは、他の眷属たちの意を受けてあっさりと俺を罪人に仕立て上げた。
「最後に、何か一言ありますか? あっ、無罪だと言うのはもういいです」
「…………えっと、一言というか質問というか。有罪なのはイイとして、具体的な罪状は何なんだ?」
「──有罪は有罪です。これにて閉幕」
「ちょ、ちゃんと言えよ! やだ、せめてどういうことをされるかぐらい言ってくださいお願いします!」
被告人の哀れな叫びは、あっさりと棄却されてしまう。
……こうしてしばらく、俺の奉仕活動が決まるのだった。
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