上 下
2,102 / 2,519
偽善者と策略する日々 三十三月目

偽善者と弟子特訓 その15

しおりを挟む


 怪盗には予告状を送っておいた。
 逆じゃないか、と言われそうだけどやはりノリとは恐ろしい。

 やりたかったのでやった、後悔はしていないと胸の内は充実感に溢れている。
 ……もちろん、軽い反省ぐらいはしてやってもいいけど。


「アン……俺にとっての弟子って誰だ?」

《はて、これまで顔を合わせていたのは、弟子で無ければ誰だったので?》

「真の意味で、俺が誰かに何かを教えている覚えって全然無いし。ユウは弟子を名乗っているけど、実際には俺から教授したことは皆無だろ」

《その通りですね。そもそも、メルス様のように放任主義の方には、弟子など向いていないのでは? いっそのこと、考えを改めてみてはいかがでしょうか?》


 ……この場合、心機一転とかではなく、反省しろとアンは言っている。
 何をか、と言われると正直心当たりなんて無いが……間違いなく、そういう旨だ。


《そもそも、メルス様は弟子を作ってどうされるおつもりなのですか?》

「いや、弟子ができたら育てないか? というか、弟子ってそれ以外の目的で必要とするものなのか?」

《当然ではありませんか。弟子とは、教えることを職としていない者に、教授を願った者が対象です。何かを求め、それを与えられようとしている時点で弟子となるのです》

「……ずいぶんと強引な考えだな。まあ、でも言いたいことはなんとなく分かった。つまり、教師として教えた子供たちは弟子じゃないってことだな」


 嘆息が念話なのに伝わってくる。
 おそらく、そういうことを話したいわけではないとでも言いたいのだろう。


「はいはい、こっちの世界じゃスキルとか流派系の武技を伝授する相手が弟子でもあるからな。それで、話を戻すんだが……俺に弟子は居るのか?」

《…………メルス様は、弟子に何を求められますか? それによって、回答が異なりますのでお答えください》

「ん? まあそうだな、俺を楽しませてくれるならそれでいい」

《でしたらいますよ──アルカ様です》


 ……アルカが、俺の弟子?
 脳みそをフル回転させて考えてみるが、そのようなイメージはまったくできない。

 まあたしかに、彼女に魔法のヒントとなる魔導を見せつけたりしているが、アルカ自身ですべてをやっていることに違いは無いし、本人は殺意満々でやっている。

 弟子は師を殺す存在、という定義であれば間違いなく弟子だろう。
 だが、そうではないと習ったばかり……どういうことだ?


《互いに競い合い、育む関係……それを世間一般では『強敵手ライバル』と言います》

「主に創作物だとな。あとそれ、師匠と弟子じゃ絶対に成立しないし」

《メルス様とアルカ様の関係がとても歪なため、師であり弟子であり、『強敵手』としての関係が成立しているのです》

「…………全然そういう風には思えないんだけどな」


 百歩、いや億万歩譲って仮に『敵』と書いて『友』と呼ぶような関係だったとしよう。
 それでもアルカが、俺を師として見ているかと聞かれれば……否だと即答できる。

 俺とアルカを繫ぐのは、眷属としての関係ではなく殺意に塗れた赤い(血の)糸だ。


《果たして、本当にそうなのでしょうか?》

「……何が言いたい」

《いえ、ただアルカ様も殺意だけでそのようなことを続けていられるのか、という客観的な視点からの問いです。メルス様は、本当にそこまで固執できるとお思いですか?》

「? いや、普通にできるだろ。もしお前らに手を出されたら、俺は誰が何と言おうと贖うなんて生温いことも言わせず、どんなことでもして永劫に苦しませるし」


 ……ここで無言になられるのはちょっと。
 異世界物だと、倫理観が異世界にどっぷり染まるか地球のままで困るかだが、俺の場合はかなり特殊だ。

 第一に、AFOをゲームとしてやっていた頃にだいぶ殺している点。
 第二に、{感情}の影響で精神崩壊するレベルで想いを発露させることができない点。

 ──そして第三に、ここがゲームではないと認識して以降も、割り切って粛清を行っている点。

 要するにもう慣れていた。
 そのうえで、眷属たちを優先すると決めた意志が成り立っている……だからこそ、手を出す輩に容赦はしない。


《…………》

「……アン?」

《──録画終了。ご安心を、何も問題ございません》

「……そのわざとらしい言い草、どうせもう伝わっているだろうから何も言わないけど。ただ、なんとなくお説教されそうだし、その護衛だけは頼む」


 真面目な大人組、本気で俺を心配するであろう子供組とかが。
 武具っ娘が抑えてくれるにしても、それでも防ぎきれないだろうからなぁ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 夢現空間 礼拝堂


「…………」

『…………』

「……俺は無罪だ」

「判決を──無罪:1、有罪:4。有罪とします」

「俺は無罪だ!」


 翌日行われた裁判において、俺はあっさりと有罪となってしまった。
 惜しむらくは、陪審員に武具っ娘が一人しか居なかったことか……。

 裁判長であるアンは、他の眷属たちの意を受けてあっさりと俺を罪人に仕立て上げた。


「最後に、何か一言ありますか? あっ、無罪だと言うのはもういいです」

「…………えっと、一言というか質問というか。有罪なのはイイとして、具体的な罪状は何なんだ?」

「──有罪は有罪です。これにて閉幕」

「ちょ、ちゃんと言えよ! やだ、せめてどういうことをされるかぐらい言ってくださいお願いします!」


 被告人の哀れな叫びは、あっさりと棄却されてしまう。
 ……こうしてしばらく、俺の奉仕活動が決まるのだった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...