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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と弟子特訓 その14
しおりを挟む浮島 クランハウス『月の乙女』
帰るとウィーには伝えたが、まだやっておいたいと思ったことがあった。
意図的に、彼女だけに分かるように魔法を使うと……クランハウスの外に現れる。
「おっ、本当に来たか。やっぱり予兆を感知する力にでも目覚めたか?」
「……異常検知スキルならね」
「結構便利らしいな、それ。けど、微弱に送り込んだものまでとなると、かなりのレベルが必要なはず……」
「…………」
つまりアレか、そこまでして『異常』を忌避していると。
このスキルは状態異常の発生だけでなく、文字通りの異常を検知することもできる。
彼女──花子(仮)は俺が発動した邪魔法に反応して、この場に来た。
気づいても、来ない可能性もあったが……まあいいとしよう。
「魔導解放──“神出づり鬼没する”」
「なに、それ」
「魔導、[ステータス]システムの外にある魔力運用方法で、基本的に何でもありだ。どれだけ状態異常の耐性を付けても、強制的に即死させる……とかも可能だぞ」
「……クソゲーだよね、それ」
まあ、基本的に魔導の内容は、そのときの強い想いやパーソナリティで決まるはずなので、そんなピーキーな魔導にはならないはずだけどな。
彼女を育てるためには、もう一工夫ぐらいした方がいいだろう。
だからこそ、誰にも感知できない状態で話しておきたいことがあった。
「──なあ、俺の眷属になるか?」
「……新手の勧誘詐欺?」
「別に、魂奪って魔法少女にするわけじゃないから安心しろって。面白そうな奴には声を掛けているんだけど、望めば何でもできるように──」
「──要らない、お断り」
きっぱりと、花子(仮)は俺の行う勧誘を断ち切る。
そこはかとなく、彼女から漏れ出す{感情}は……【憤怒】だな。
「まあ、分かってたけどな。チート能力なんてクソくらえ、そういうタイプの人間だし。だから次はこんな提案」
「……もういい加減にして」
「最後まで聞けよ。実力差、理解しているんだからさ」
「…………じゃあ、早く終わらせて」
逃亡しようにもできない、ついでに言うと一時的に[ログアウト]もできなくなっているだろうから諦めた花子(仮)。
何でも自由なこの世界、誰かの自由は誰かの不自由だと忘れないでもらいたい。
彼女のこれまでの反応から、そうして誰かの自由に巻き込んだ方が面白いと思った。
「ここに、一つの結晶がある。スキル結晶と言って、使うとSP無しでスキルを獲得できる代物だ……これそのものは、自由民でも手に入るから、別にチートじゃないぞ」
「…………」
「お察しの通り、製造方法はかなりチートだけどな。で、この中身なんだが──【強欲】が入っている」
「いかにもチートそうな名前」
使えば自動的に眷属になる、俺お手製の眷属結晶であることは言わなくてもいいか。
そんな結晶を──俺は彼女に放り投げて渡した。
「……要らないんだけど。というかこれ、急に金色に光って──」
「この結晶を、ある怪盗が狙っている。どんな手段でもいいから、それを防いでくれ。ちなみに、光っているのは適性者の証だ。つまり花子には、【強欲】を手にする資格があるわけだな……おめでとさん」
「こんなもの──!」
「表向きどう否定しても、お前自身は間違いなく資質を持ち合わせている。何かを欲しているんだろう? それが強ければ強いほど、【強欲】はその資質を認めるからな」
「っ……!?」
彼女は言った、『負けたくない。少なくとも、勝ち目だけは見いだせるように』と。
その言葉は、彼女の本質的な──否、深層心理から漏れ出た願いの一部でしかない。
なんとなく、眷属との経験がそれを思わせたからこそ、こんな提案をしていた。
そして、【強欲】は彼女を求めた……哀れ怪盗。
「持っているだけでいい。奪われるな、とまでは言わないさ。ただ、捨てるとか譲渡するとかつまらない選択肢は無しで。向こうも向こうで、ちゃんと奪う能力が揃っている怪盗だから気にしなくていい」
「……で、それをやる意味があるの?」
「うーん、そうだな。常識的な範疇で、花子が習得できないスキルの結晶をやる。結構な量のスキルに適性があったけど、それでも全部じゃなかった……なら、それも得られた方が何でもできるだろう?」
「…………分かった」
彼女なりにリスクとリターンを見極めて、考えたのだろう。
正直、彼女のリスクはほとんどない……奪われても別に、困るわけじゃないしな。
やるだけでスキルが手に入る、しかも自分では得ることのできないとまで言われた。
そうなってくると天秤はやはり、肯定に傾くのが自明の理だ。
「よし、交渉成立。何度も言うが、守る手段はすべてを許容する。相手を殺して防いだとしても、それは奪おうとしている時点で向こうが悪いからな。期間はそうだな、一ヶ月。それ以上延期するなら、報酬も増やす」
「何でも、本当に何でもいいの?」
「そりゃあもちろん。その選択が、俺を楽しませてくれるものなら、もっと嬉しいんだがな。そしたら、報酬なんてこと言わないで、好きなものを一つやるぐらいのノリでも良くなるんだが」
「…………そんなことしないから」
ちゃんと細工はしてあるので、無理やりというのはほぼありえない。
あとはこのことを、怪盗の方にも伝えれば完璧だ……うん、面白くなるぞ。
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