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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と弟子特訓 その13
しおりを挟む彼女には『眼』を与えた。
本来あるべきだった強い憎悪を、世界への怨嗟を抉り取って埋め込んだ──『波浄』の瞳が今、俺をたしかに捉えている。
「波浄眼──“破場”!」
「いきなりエグッ!? シヤン、もう少し優しくできないのか!?」
「へっ、兄ちゃんにそんな生温いこと言ってられっかよ! それよりどうだよ、前より凄くなってるんじゃねぇか?」
「……ああ、凄いな。いつの間にやら成長してくれていて、お兄さんは嬉しいです」
出会った当初は少年と見間違えたが、今の彼女はしっかりと栄養を摂取して女性らしい体つきに……体、つきに……。
まあ、一部を除いてとても女の子といった感じになっている。
なんてことを思った瞬間、俺はいきなり強くなった重力に襲われていた。
「──“覇盛”!」
「ゲフッ……! な、なんだよ急に!」
「……兄ちゃん、俺の胸の辺りを見て哀れんだ目をしただろ。孤児だったから分かんだよそういうの!」
「だ、だからって、いきなりそんな究極必殺技、みたいなもの出すなよ……」
すぐに解析したところ、波浄眼の派生技である“覇盛”は敵対する存在に超重力とデバフを施したうえで、味方となる存在すべてにデバフを反転させたぐらいのバフを盛る。
つまり、相手が弱くなればなるほど、味方への強化を施すことができる魔眼だ。
理屈はどうか分からんが、彼女にとっての『覇』はそういうイメージなのだろう。
「けどまあ、これぐらいじゃまだ俺を止めるには足りねぇな──“剣器創造・祓呪剣”」
「っ……!?」
「とまあ、こんな風にな。せっかくだ、ちょいと拝借するぞ──“一剣密封”」
剣の中に何らかの事象を封じる魔法。
強制的に打ち消した波浄眼の効果を、その中に押し込んで封印した。
性能は……やはり魔眼である以上、視覚が無いとさして使えないみたいだ。
それでも一瞬、施されていたデバフを押し付ける程度は可能だな。
「とりあえず、全員やったか……ウィーはどうする?」
「遠慮しておこう。介護する者が必要となるだろう?」
「……了解。終わった後の準備をしておいてくれ──“百剣戦場”」
『!?』
突然生えてきた大量の剣に驚く一同。
ライアなどは果敢に引き抜こうとするが、それは妹であるルミンに止められていた。
「触れてもいいが、それは俺の物だ。さっきみたいなことになってもいいか……ちゃんと覚悟の上で掴むんだな」
「……チッ」
「そろそろお開きにするぞ。全力じゃないのは謝るが、今できる本気を以って相手をしてやる。さぁ、掛かってこい!」
そう伝えると、俺自身も行動を開始。
すぐに“二剣入替”を繰り返し発動し、自分の居場所を特定させない。
隙を見せたらすぐに攻撃を行い、危険になればまた別の場所へ移動。
力を合わせて場所を特定しようとするが、なかなか俺の場所は見つからない。
ウィーなら気づいているだろうが、彼女は観戦モードだ。
さて、彼らはどう対応してくるか……楽しみである。
◆ □ ◆ □ ◆
結論から言おう──無理だった。
『酷なことを……』
「いや、そうは言ってもだぞ? お前を召喚することも、ましてや特別な魔剣とかは使わない配慮もしたんだからな。最近、いろんな場所に居る弟子に言ってるんだが、身力操作が大事なんだよ。ウィーはできるだろう?」
「それはそうだが、貴公のハードルが高いことも間違いないだろう。常に五感を張り巡らせろ、そう言われてすぐに実践できる者はごく少数だ」
「ウィーまでそう言うか……まったく、最後の辺り、ルミンとシヤンとサラン辺りはどうにか追い縋ってきたんだがな。まあ、神気を使っていればオウシュもあるいはってところか? まあ、なんにせよ、精進あるのみだ」
せっかくなのでゲストの聖雷炎龍のブリッドも招き、模擬戦の感想を求める。
いやまあ、頑張ってはいたんだが、転移と“二剣入替”のコンボはややズルかったな。
転移剣で飛んだと見せかけ、剣と座標を入れ替えたりその逆をしたり。
百本もある剣を途中で爆発させたり、いろいろとやってみたからな。
「──それで、これからどうするつもりなんだ? まだ何か、やることがあるのだろう」
「……正直、弟子と言われて思いつくのがここに居る連中で最後なんだよな。橙色の世界はまだ全員集め終わってないし、だいぶ前にやるって言われた会議もまだらしいし……どうすればいいんだ?」
「私に聞かれても分かるはずがないだろう。貴公自信が決めろ」
「そう言われてもな……」
ウィーの厳しい言葉に、これまたどうすればいいのかさっぱりである。
まあ、少なくとも新規で弟子を取るのは止めておこう……これ以上はちょっとキツい。
「──帰るか。ただまあ、せっかくだから課題を出しておこう。それを弟子全員が達成出来たら、ご褒美ってことで」
「……相変わらず、とんでもないことを考えるのが好きだな」
「偽善者たるもの、そういう突発的なやり方の方がいいんだよ。というわけで、ウィー。これから伝える課題内容を、アイツらに伝えてやってくれ…………そうだな、主としての命令だ」
「! そうか……了解した、ご主人様」
昔の出来事を懐かしみながら、俺たちは語り合い、笑い合う。
まあ、課題を押し付けられる彼らには悪いとは思うが……もっと強くなってくれよ。
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