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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と弟子特訓 その06
しおりを挟む──“崩壊之光”。
かつて赤色の世界で遭遇した魔王が、俺に向けて放ってきた魔法だ。
まあ、すぐに対処したのだが、そのときに魔法の構成術式は視させてもらっている。
眷属が魔法陣として保存してくれたそれを取り出し、今回は起動した。
魔の煌きは当時よりも残虐に、鏡で屈折しながら三人の少女たちを襲う。
「──“操進人形”!」
「──“忍法:影狼”!」
「──“闇操作”」
対抗するように、彼女たちは人形を出す。
その影からは狼が飛び出し、漆黒の光を自らの体で防いでいく。
このとき、花子(仮)はこっそりと闇魔法で影の濃さと広さを増やしている。
その分、ござる(仮)の忍法が強化され、“崩壊之光”の放出時間を削っていった。
「もっと魔力を、精気力を、生命力を! 限界まで力を注いで!」
『っ……!』
「そう、その調子──まっ、だから勝たせるとも言ってないけどね」
『きゃぁあああああ!』
魔力を過剰に籠め、火力を上げる。
どうせ使い潰す予定だった魔法陣だ、そのままお嬢(仮)とござる(仮)を呑み込む。
「残ったのは一人。花子ちゃんは、まだ戦えるかな?」
「…………」
無言で構えるのは石……武器じゃない、だが俺の顔は引き攣る。
石は石でも、それは魔石──なんちゅう戦い方を編み出しやがった。
「アレから考えてみた。武器にするなら、何がいいか」
「その結果が……それ、なの?」
「暫定的に。実際、嫌なのはよく分かった。やっぱり演技は下手みたい」
先のイベントで魔石は大量に手に入ったことだろう。
魔石は魔力を過剰に注ぐと、一気に爆発する性質を持つ……つまりそういうことだ。
花子(仮)が投擲する魔石は、次々と内部の魔力を暴走させる。
それは彼女の魔力操作の技術からか、タイミングはすべてバラバラ……面倒過ぎ!
「これが今できる答え。貴方なら何をしても死なないし、試させてもらう」
「……そっちがその気なら、こっちもやらせてもらうよ──“闇槍”」
魔石を投げる彼女に対し、闇の槍を何本も射出していく。
が、まるで攻撃が来るのが分かっているかのように、最小限の動きで躱される。
逆にこちらへの攻撃は、光速で動いているにも関わらずほぼ正確に届く。
そのうえで回避をしてはいるが、だんだんと被弾率が上がっていた。
「面白いなぁ……ちゃんと強くなっていて、そのうえ嵌め技も効かないように鍛えるなんて滅多にできないよ。ちょっと才能任せな部分もあるけど、今は仕方ないかな? だからこそ、今やるべきでもあるんだけど」
「……何をする気?」
「こうするんだよ──“死体告訴”」
「っ……何、これ」
彼女の眼前には今、髑髏マークと減っていく数字が浮かび上がっただろう。
邪悪魔法“死体告訴”、その効果は成功時における対象の強制的な死亡判定。
アイのくれた修道服は、光だけでなく闇にも補正を掛ける……邪属性もまた、同様に。
神聖魔法と対を成す、使い手と知られれば即座に殺されるレベルのヤバい魔法だ。
そんな魔法に補正が入り、花子(仮)が磨いた耐性効果を強引に突破。
思い知っただろう、まだまだ自分の抵抗は遠く及ばないと。
「さぁ、制限時間はなんと一分! それまでに解呪をするか術者……つまり私の意識を削がないと自動的に死んじゃいます! それはつまり、花子ちゃんの自由があっけなくも失われるということです!」
「っ……!!」
「うんうん、分かるよ。ちなみに、抗えない理不尽をもう一つ。カウントは、周りの結界が壊れると強制的にゼロになる。あー、もうなんて理不尽! みんなが頑張ると、その分だけ花子ちゃんは死に近づく……周りの努力が貴女を苦しめる。うん、超最高!」
「…………性格が悪、い!」
もう話をするのも無駄だと判断したのか、魔石に光を灯らせて投擲してくる。
言ったことはすべて本当、“神域”内部でのルールはある意味自由自在だ。
なのですぐに動くこと自体は、決して間違いではない。
だがまだ甘いな……壊れないなら、方法はいくらでもあったのに。
だが、彼女は独りでいることに固執する。
まあ、それでもやっているなら、別に構わないけどな。
「ふんふんふーん♪ カウントダウンはーあと三十秒~♪」
「──ッ!」
「無詠唱で武技……“投榴”かな? 爆発する魔石とはいい相性だと思うよ。うん、相手に当たればだけど」
「くっ、この……!」
耐性系のスキルで、そもそも勝負にならないこと自体はどうにかした花子(仮)。
だが、まだ足りない……まさに【初心者】なんだよな。
投擲を続けているし、いつの間にか身力操作で消費エネルギーを抑えていたりとかなり優秀だが……彼女が望む結果だけは、手に入ることが無い。
「花子ちゃんにアドバイスー。この世界、割と無理ゲーがたくさんあるよ。けど、選択肢で即バッドエンドってわけじゃない。だから明確に強くなりたいなら──」
「……。……っ!」
何を言うのか投げるのを止めてまで待った花子(仮)だったが……えっと、ごめん。
どうやら『月の乙女』たちも頑張ったようで、時間が経つ前に結界を壊してしまった。
「メル! …………?」
「蘇生が効かなくなる魔法だしな……仕方ない、あとで謝らないと」
「ど、どういう状況なんですか? どうしてあの娘、わたしを睨んだまま死に戻りしたんですか!?」
「まあまあまあまあ。それはあとでなんとかするからいいよ。そ・れ・よ・り、よくぞ頑張ったね! うん、じゃあそろそろ終わりにするからね!」
だいぶ戦いも長引いちゃったし、サクッと終わりにしよう。
……ガーも使ってほしいって主張してくるし、ちゃんと使いますか。
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