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偽善者と策略する日々 三十三月目
偽善者と弟子特訓 その02
しおりを挟む浮島 クランハウス『月の乙女』
「はーい、それじゃあ注目!」
「「「…………」」」
「「「「「「…………」」」」」」
「えー、せっかくメルスとして乗り込んだのに、師匠としての尊厳も何もかも台無しにしやがってこん畜生、と言いたいのはやまやまだけど。とりあえず、お互いに顔見せだね。こっちは『月の乙女』で、こっちは新弟子」
唖然とする三人組、そして正座をする六人の少女たち。
いや、三人を隠していた俺も悪いけど、だからって問答無用で霊呪を使うなよ。
クラーレにそんな仕打ちを受けた結果、俺の姿は即座にメルへ。
……いきなり先生が幼女になったら、さすがに混乱するだろう。
「突然のことだけど、まあもともと予定していなかったからね……この姿は、必要に駆られて創ったもう一つのアバターみたいなものだよ。ここまでで、何か質問は?」
「──変態」
「実際、そう言われることに目を瞑れば、悪いことばかりじゃないんだよ? 女性限定の場所にも(倫理観はともかく)入れるし、限定職業にも就ける。装備だって、こういうのが着れるからね」
そう言って身に纏うのは、『還魂』の試練で得た修道服セット。
ついでに、その装備効果を伝えると……凄すぎてドン引き、といった感じだった。
光と闇、そして身・能力値補正が極限まで高められるうえ、壊されても耐久度が無限に回復するという代物である。
「こんなこともできるし──“神祈息吹”」
持っている祝福の分だけ、他者への能力値補正を施せる神聖魔法。
そして俺は、大量の加護や祝福を持っている……そう、補正が尋常じゃないのだ。
そんな補正値を確認したからか、何とも言い難い空気になる三人組。
たしかに有用だ、有用だが……そこまでするか、と言った感じだろうか?
逆に六人の方は、もう今さらなので特に気にしていない。
隠していたその補正値に、これまたどう反応していいか、という感じではあるが。
「ついでに言うと、ここは女性限定のクランだからね。男として居ても、なんとも落ち着かないし……」
「……殿方は、そういった状態を好むのではなくて?」
「そんなのフィクションだよ。お嬢、逆を考えてみてよ……男の人がたくさん居て、落ち着けるかな?」
「…………無理ですわね」
まあ、男性と女性ではその状態の受け入れ方が違うかもしれないので、実際はどうなるのか不明だけども。
少なくとも、数人ならともかく異性の比率が高くなればなるほど、居心地が悪くなるのは間違いない……主義主張、それは性別が違うだけでかなり変わるからな。
「──はい、この話はここで終わり! いい加減、ここに来た目的を説明します!」
「……口調、そのままなんだ」
「この姿で男口調をやっても、全然締まりが無いからね。まあ、どっちでもいいけど、この方が普通に話せるでしょ」
メルのときはメルの口調で、ノゾムのときはノゾムの口調で……とスイッチを切り替えるようにやっていかないと、俺の方で混乱するというのが一番の理由だけども。
「こっちの三人とそっちの六人で、まずは特訓をします。もちろん、レベル差とかもあるから戦闘をするわけじゃないよ? 三人を育てて、自分たちも学ぶ……きっとそんなこともあるからね」
「……分かり、ました」
「花子たちもそれでいいね? 私はその間、生産班の六人の方を見てくるから。だいたいのやることは決めておくよ、だからそれを通していろいろと考えてみてね」
そんなわけで、俺は『月の乙女』生産班の面々と課題について話し合う。
……彼女たちも技術の向上はしたいとのことなので、そこは俺も協力する所存だ。
「レシピだけ渡すでもいいけど……うん、そうだね。いい職業にも就いているようだし、少し難しいことに挑戦しようかな?」
『はい!』
「前に教えたけど、基本的にマニュアルで作るのが一番品質を上げるのにいいけど……そうしてアレンジを加えれば、もっといいアイテムになるよね? けど、今回はもっと基本的なことを──身力操作を習おうか」
『はい!』
ちなみにだが、向こうも同じことをやらせている。
どんなことをするにも、身力操作はかなりの割合で役立つからな。
「身力は大きく分けて三つ、生命力・魔力・精気力。他にもあるけど……とりあえずは、この三つを上手に操れることが大事だよ。心がけるのは二つ、感知と制御。まずは感知から始めよう。えっと、質問かなアルミ―?」
「イエース! 感知はアンダースタンド。でも、コントロールはどういうことですか?」
「うん、いい質問だね。分かりやすい魔力操作でたとえると、感じ取るのが魔力感知。これは知っての通り、操るためにどこに魔力があるか感じ取るもの。そしてそこから先、魔力を動かすことを魔力制御と言うんだよ」
感じ取り、制することで操作を行う。
スキルとしては魔力操作一つで完結しているが、それら二つを行えばコスパも性能も上げられる。
問題は三つの感じ取り方、操り方がまったく違うこと……一つならともかく、三つとなると時間が掛かるのだ。
──さて、みんなできるかな?
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