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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と自己紹介 その52

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 夢現空間 居間


 絶対安静と伝えられた俺だが、自室を出て居間に来ている。
 新たな武具っ娘も加わったのだから、やるべきことは一つしか無いだろう。

 あれから受肉を行うべく人形に核を入れると、すぐにそれは成った。
 そんな彼女を連れてここに来て、まずは雑談を行っている。


「ふむ……委細理解した。いいだろう、俺もまた眷属としての責務を果たそう」

「ははー、ありがとうごぜぇやす」

「なんだ、その口調は。俺の主である貴様がそのような振る舞いでは、眷属たる俺の価値も下げる。改めよ」

「……厳しいな。まあでも、ごもっとも。そうだな、恥じない行動を示そうって思ったばかりだったよ」


 どこぞの厨二王とは違う、賢王の資質を持つであろう彼女の言葉は、どこかしっくりとくるげんだった。

 そう、それは【希望】を担う者だからこその重み。
 他者にそれを分け与えることのできる存在ゆえの、圧倒的自信なのだろう。


「うむ、それでこそ俺を従える者。では、始めるがよい」

「はっ……っとと。分かった、それじゃあ始めよう──第五十二回目の質問タイム!」


 その声と共に、映像装置は自動的に録画を開始する。
 映るのは当然、俺と彼女……なんというか画面映えの差が酷い。


「今回のゲストはこのお方! ありとあらゆる【希望】の収束体、その身に叶えられぬ願いは無し──ホー様です!」

「むっ、なぜ様付けをする」

「王様みたいな音の響きが気に入ったんだ。ダメなら……仕方ない、諦めよう」

「……いや、構わん。ただの遜りではなく、そこに愛着があるのであればそのように呼ぶことを許そう」


 そう、腕組みをしながら答えるホー。
 ……武具っ娘って、少女か美女になることが多いんだが──うん、美女の場合は盛り上がることが多いな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「問01:あなたの名前は?」

「ホーである」


「問02:性別、出身地、生年月日は?」

「この身は女、生まれは洞窟であり夢現空間であったな。生年月日はつい先日、とでも言おうか」


「問03:自分の身体特徴を描写してください」

「黒髪金目、そして熾天使の羽。だが、その程度は些細なことだ」

「……なら、一番の特徴って?」

「決まっていよう。この整った顔、黄金比とも呼べる姿態。これらを至上の特徴と呼ばずして、何を以って特徴を呼ぶか!」

「……種族的特徴とかじゃないか?」


「問04:あなたの職業は?」

「【英雄王】、とは言っても観ている者たちの求めるものではないがな。【英雄】の素質がある者が、王になれば就くだけの職業よ」

「充分に理想の【英雄王】だぞ」

「そうではあるまい。【希望】にそぐわないだろうが、武器を飛ばすような力は備わっていないからな」


「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」

「不遜であろう? だが、【希望】とは最後まで諦めぬ者の前に現れるもの。つまりだ、俺のように振る舞うことこそが、真の体現者と呼べるだろう」

「……そう、なのか?」

「そうだ。己が信念を貫き通すこの姿こそ、【希望】の象徴たる俺そのものだ!」


「問06:あなたの趣味、特技は?」

「観察だ」

「観察……具体的には何を?」

「【希望】を抱くか否か、だ。子は宝と言うが、俺にとっては【希望】そのものが宝だ。他の者が抱く【希望】がどういったものであるのか、またそれを叶えるのかどうか……面白かろう?」


「問07:座右の銘は?」

「【希望】たれ! 象徴である俺が、それを忘れてはいかんからな」


「問08:自分の長所・短所は?」

「ふむ……短所か。特に無いな」

「では、長所は?」

「何を言っておるか。俺の長所など、あり過ぎて言い切れぬわ」


「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」

「好きなものは宝だ。嫌いなものは宝を狙う不届き者である」


「問10:ストレスの解消法は?」

「まだ感じたことはないが……そうだな、そのときにはを見よう」


「問11:尊敬している人は?」

「不屈の成功者だ。失敗を重ねようと、それでも【希望】を胸にひたむきに努力を重ね、その結果成功を得た者たち……俺はそういった人種に敬意を表そう」


「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」

「まだ生まれたばかりだろうに……改めて己が言動を見直してみれば、やはり【希望】にはこだわっているのだろう」


「問13:この世で一番大切なものは?」

だ。それは【希望】を抱く者であり、メルスを基盤とする集団である」


「問14:あなたの信念は?」

「強き意志には【希望】を。足掻く者には祝福を授けよう」


「問15:癖があったら教えてください」

「まだ生まれたてだ、認識しておらぬ」


「問16:ボケですか? ツッコミですか?」

「ツッコミだ!」

「……ここは決まってるんだな」


「問17:一番嬉しかったことは?」

「ようやく俺の出番が来たことだ」


「問18:一番困ったことは?」

「それまでいったい……俺がどれだけそのときを待ち望んでいきぼうしたことやら」

「……すんませんした」


「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」

「酒か……そのうち飲ませてもらおうか」


「問20:自分を動物に例えると?」

「気高きドラゴンである」

「……ここ、質問内容変えた方がいいかも」


「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」

「まだ特にない」


「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」

「? そんなもの、あるはずが無かろう」


「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」

「【希望】に満ち溢れた人生としよう!」


「問24:自分の人生、どう思いますか?」

「先に同じく!」


「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」

「そのような過去無い」


「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」

「皆が【希望】を抱くのであれば、俺が成すべき事は一つしかあるまい」


「問27:何か悩み事はありますか?」

「何も無い。ただ進むのみだ」


「問28:死にたいと思ったことはありますか?」

「そんなこと、あるはずが無かろう」


「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」

「俺は俺以外の何物にもならぬわ」


「問30:理想の死に方があればどうぞ」

「不要だ。【希望】がある限り、俺は決して死なん!」


「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」

「【希望】を抱く者よ。前向け、諦めぬ限り【希望】は訪れる!」


「問32:最後に何か一言」

「その願いがメルスと相容れぬ限り、俺はそれを肯定しよう!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はい、カット! なあ、なんで最後はああ言ったんだ? てっきり、どんな願いでも肯定するとか言うと思ったんだが」

「当然なことを聞くな。俺が【希望】の象徴たるのは、他でもない貴様の願い。始まりの願い無くして、先も終わりも無いだろう。つまりだ、貴様の願いこそが俺にとって最優先の【希望】ということだ」

「……ホー様」

「ああ、俺を讃えろ。相応の見返りはくれてやる。俺を生み、俺の形作り、俺が俺である証明者──望め、それが俺を……俺たちを突き動かす【希望】足り得るのだ」


 要するに、頼りたいときはしっかりと頼れと言うことだろう。
 ……本当、うちの眷属はどいつもこいつも好いヤツばっかりだな。


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