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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド直後 その12

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 改めて、新しいペルソナのアバターを眺めてみる。
 彼女も俺がそれを求めていることが分かるのか、こちらをジッと見ていた。

 目立っていた二色の双眸は共に、黒色に染め上げられている。
 そして、髪なのだが……もともと栄えていた金色は失われ、黒──そして白色に。

 俺は乱雑に混ざった白黒なのだが、彼女の場合は髪の途中までが黒で、以降先端までが白という分けられた配色だ。


「うーん、俺から言うことは一つだな」

「…………」

「うん、最高! 超可愛いぜ!」

「~~!」


 美少女はどんなデザインでも美少女。
 二次元厨な俺なので、この世界の少女たちの容姿は大変好ましく思える。

 リアルの顔をスキャンしちゃったペルソナでも、必要最低限こちらの世界に合わせた補正はされている(ただし、知人が見ればすぐに顔が割れるけど)。

 西洋系の顔立ちでありながら、黒髪というギャップもまた良し。
 そこに俺の衣装──ワンピースが相まって清楚なお嬢様感が出ている。


「まあ、俺の感想はこれぐらいにしておくとして……[メール]なら行けるか?」

「…………」

「まあ、気にしなくても時間が経てばそのうち念話も使えるようになるから、それからでも遅くは──」

「……の、あの!」


 小さいながらも張り上げられた声に、俺の言葉は遮られた。
 声の主は当然目の前の少女、意を決したように前へ進み出る。

 ……ただ、これ以上は無理だったのかこっちに来てくれと手招き。
 スッと向かおうとすると、ビクッとした彼女が遠ざかるので……やり方を変える。


「──“伝風ウィスパー”。これで声が届くはずだ……どうだ?」


 離れたはずなのに耳元から聞こえる声。
 再び驚くペルソナだが、首をブンブン振ってパクパクと口を動かし始める。


「ぁ、あの、ありがとう、ございました」

「ん? おう、いつもお世話になっているペルソナのことだからな。俺も真剣にやらせてもらったぞ」

「そ、んな。お世話だ、なんて……」

「気遣ってくれているだろう、みんなを? 最近のことで言えば、今とかオー嬢さんのこととかな。うちは気遣いのできる奴と、そうじゃない奴が両極端だからな……トップの俺がダメ過ぎるからかな?」


 その点、ペルソナは誰とでも仲良くできているし、打ち解けているからな。
 リアル割れというかなりの問題があるというのに、人を気遣えるとはまさに善人だ。

 そんな彼女の悩みを解消するためなら、俺だって一肌ぐらい脱いでしまう。
 彼女対応のアバターのコストはそれなりに高かったが、まあ安い物だ。

 その分、通常の祈念者が用いるアバターよりも性能に差が生じている。
 本人が気づいて確認してきたら、そのことについて話すつもりだ。

 そんなことを考えていると、街の外に簡易で建てられたライブ会場から声が上がる。
 時間的にも、もうだいぶ経っているし……そうだな。


「──そろそろオー嬢さんの曲も終わりか。なあ、ペルソナ」

「はい?」

「せっかくだから、最後だけでも聞きに行ってみないか?」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺とペルソナは、渡されていたチケットを使……わずに会場へ向かった。
 すでに念話機能も復活した彼女は、不安そうに尋ねてくる。


《あの、本当にいいんでしょうか?》

「お嬢さんは歌の反響で居場所とか分かっているから、隠しても意味無いし。あくまで、他の人たちに分からなきゃいいんだよ」


 共に翼で空を飛べる俺たち。
 なので俺が全力で隠蔽を施したうえで、上からお嬢さんの歌を見ていた。

 だが、やはりというかさすがというか……すぐにこちらに気づいたらしく、こちらを一瞥したあと、ほんの少しだけ楽しそうに微笑むお嬢さん。

 それを見たファンが大盛り上がり、また特等席で観ていたツンドラ娘が移動しようとして、周りの迷惑だからと黒髪少女に止められる……なんてことも起きていた。

 まあ、俺の周囲に特に変化は無い。
 警備員として混ざっている親衛隊も、結界に触れただろうがそれでも見逃してくれたようだし。


『それじゃあ、次が最後の曲よ』


 舞台上のお嬢さんがそう告げると、残念そうな声が。
 それでも音楽が流れ始めれば、それを塗り潰すような歓声が上がった。

 会場中が一体化するような、すべてを包み込む彼女の歌。
 それは『水唱の聖女』であり、ただひたむきに歌へ向き合った彼女が得た努力の結果。

 なお、彼女の歌は歌詞から音まで全部が彼女によって作られている。
 すなわち、届けたい想いは全部、彼女の中から生みだされたものなのだ。


「……いい曲だな、さすがオー嬢さんだ」

《はい……自然と涙が出てきます》

「それもそうなんだけど、伝わってくるだろう? お嬢さんが何を言いたいのか」

《……だからですよ》


 最後の曲、それは感謝の歌だった。
 自分を支えてくれた人たちへ伝えたい、そう心に響く曲が彼女の口から紡がれていく。

 そしてその歌は、特定の者たちへさらに深い意味を与えていた。
 その一人であるペルソナは、その想いを受け取り涙を流している。


「まっ、お嬢さんなりのサプライズだな。あとで会いに行ってやろうぜ」

《はい……そうですね》


 彼女が伝えたかったモノ、それは間違いなく届いたのだろう。
 俺にも伝わってくるその曲を、最後の最後まで満喫するのだった。


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