上 下
2,079 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド直後 その08

しおりを挟む


 眷属たちは挙って、俺の介護をすると名乗り出た……がしかし、それは先の話。
 今はまだやるべきことがある、そう誤魔化して各方面に顔見せを行っていく。


「──とまあ、こんな感じです。それぞれの場所はどうなりましたか?」

『こちらは例の狐の少女が凄かったよ。彼女が居なかったら、何隻かはやられていたかもしれないね』
『こっちは特に何もねぇが、親分の眷属を名乗る奴も現れなかったな』
「こちらもだ。どうなっている?」


 魔道具越しに語る、三つの街の裏の顔。
 一人は正直に感想を言っているが、残りの二人は少々もやもやした気分のようで……こればかりは仕方がない。


「参加はしていましたのでご安心を。サルワスの方だけは、祈念者の数が少なかったために仕方なくですが、ほとんどの場所では顔を見せずに処理を行わせていました。まあ、御神への対策だと思ってくれれば」


 厳命し、本当にピンチにならない限りは自由民の安全優先だと伝えていたのだ。
 だからだろう、祈念者が大活躍した始まりの街や帝国では姿を出してない。

 大まかに、俺が邪縛をされるぐらいに警戒されていることは伝えてある。
 だからこそ、表舞台で派手にやらかすことは難しいことも。 


『それなら、彼女が活躍したのも不味かったのかな?』

「いいや、祈念者の数が少なければその分監視の目も少ないので。だからこそ、派手に魔法を使っても大して気にされていません。対策をいくつか講じてあります」

『それができねぇから、こっちだとコソコソしてたのか?』

「まあ、そんな感じです。ボスの方も、そういうことで納得いただけましたか?」


 映像越しにコクリと頷く姿を確認し、とりあえず一安心する。
 彼らからの信用と信頼を勝ち得るのは、今後のためにも重要なことだしな。

 自由民の安全を、俺たち祈念者はずっと守れるわけではない。
 共に生きる彼らだからこそ、[クエスト]以上に困っている人々に手を差し出せる。


「──ふぅ、これでまず一件っと。よし、次に行こう」

「もう少し休んでもいいのでは?」


 魔道具での会議中、離れた場所で俺を観ていたアイがそう言ってくれた。
 だが、俺は首を横に振り、魔力を固めて作り上げた義手を動かす。


「眷属たちが頑張ってくれたんだし、最後の仕事だよ。どれだけ頑張ってくれたのか、それを彼らの視点から理解することも重要なことだろう」

「ですが……」

「俺のこれは自業自得だし、それ自体が連絡しないことには繋がらない。むしろ、こういうことは速い方がいいだろう?」


 まだまだ繫ぐべき相手はたくさんいる。
 それだけ眷属たちも、各地でキメラ種相手に奮闘してくれていた。

 その事実があるだけで、俺はまだまだ働けそうである。
 なんてことを思いながら、再び映像越しに会話を行うのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの街


 それからの俺は、まだまだ残る眷属派遣先との連絡を済ませていく。
 某国のギルド長や貴族、果ては隠れ里の長などその先はさまざま。

 被害状況などを聞いたうえで、死蔵していた大量のポーションを提供。
 眷属が中継して届けて、その地での好感度的なものを稼いでもらう予定です。

 なんてことをしている間に、祈念者たちもまた何かを催していた様子。
 決戦の地『昏き冷窟』から帰還した彼らを迎え入れたのは、祭りのような賑やかさだ。


「──という話をナックルから聞いたしな。今回は全員、楽しんできなさいな」

《…………》

「いやいやほら、お祭りだぞ? なぜに介護優先なんですん!?」


 俺もまた、祭りを楽しむべくやって来たのだが……眷属たちが離してくれない。
 正確には俺しか居ないのだが、両腕に掛けられた特殊な拘束が解除されないのだ。

 呪福のスペシャリストたるリーによるオリジナルの邪縛で、彼女たちが許可した動きしか取ることができないという拘束具。

 自然に振る舞うこともできず、眷属を頼らなければいけないという……なんというか、ほんのりヤンデレ感のする代物。


《どう、メルス。このあたしが考えた、やんでれぱわー全開の拘束は!》

「厳しすぎなくて安心している部分もあるんだが、同時にこりゃ手厳しいと思う部分もあるな。なんというか、恥ずかしいんだが?」

《もう、そんなの我慢だよ我慢。あたしたちのやんでれぱわーを舐めちゃいけません》

「……ヤンが言うんなら、仕方ないな」


 うちの眷属のヤンデレ担当、【嫉妬】の魔武具ヤンが言うのだから間違いなかろう。
 彼女が仲介してくれなければ、もっと悲惨なことになっていたかもしれない。


「それじゃあ、確認な。俺は基本的にこの場から動かないで、誰かの視覚を拝借していっしょに楽しむ感じで行くと。で、何か欲しい物があったらそのタイミングで交渉、買ってきてもらって直接受け取ると」

《なんか、解析班がそんな感じに纏めていたけど……大丈夫?》

「裏がありそうだが、まあいいと思う。どうしてもダメなことなら、俺だってノーと言える系の日本人でありたい。それじゃあ、各自行動を始めてくれ」

《ラジャー!》


 ヤンを筆頭に行動を開始する眷属たち。
 俺は副思考を眷属たちに飛ばし、それぞれの視覚から各地を眺めていく。

 ……見ていない、俺は何も見ていない。
 だから止めてくれよ、絶対に俺の居場所を言わないでくれよ!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...