上 下
2,077 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド直後 その06

しおりを挟む


 人間びっくり箱というか、まあとにかく驚かされた後……『万蝕フルライラ』は当然『還魂アイ』に詰め寄り何度も問答を繰り返す。

 彼らは同じ『超越種スペリオルシリーズ』ではあるが、直接の結びつきがあるわけでない。
 だが、永い時の中で知り合う仲でもあるので……まあ、気になるのだろう。

 ちなみに古来より試練は何度か行われてきたらしいが、真の達成者はごく僅か。
 さらに言うと、アイの試練だけに限れば誰も達成したことが無かったようで。

 ……そりゃあ、死なないと最後にクリアできないのに挑みたくは無いだろう。
 得られるモノは、『超越譚』と挑んだ相手からの好感度だけ──俺はそれが一番だが。


『話はよく分かった。つまり、貴様は使命を全うしたのだな?』

「はい、そうですね。人々の魂を掬い、救う使命だけではありません。生者にとっての幸せとは、死者にとっての幸せとはを知りました……もう迷うことはありません」

『そうか……ならばもう知らん。貴様の好きなように生きるが良い』

「そうさせてもらいますね。それを教えてくれた人と共に」


 なんだか満足そうな表情を浮かべるアイにほっこりしていると、器用に俺だけへ殺気のようなものを放つ『万蝕』。


『……くれぐれも、こいつを不幸にするようなことをするなよ。さもなくば──』

「さ、さもなくば?」

『人ならざる者と判断し、私直々に制裁を加えてやろう。生まれてきたことを後悔させ、こいつの担当する輪廻に送ることなく永劫の終わりを味わわせてやる』

「……分かりました」


 俺としても、アイに辛い思いなんて経験してほしくない。
 どれだけ【傲慢】でも【強欲】でも、そうあろうと決めている。

 それが俺の……眷属を欲した者としての最大限の行いだろう。


『決して、他の女にうつつを抜かすなよ』

「……あははは」

『なんだ、その乾いた笑いは。おい、顔を合わせろ』

「ふふっ、それはもう無理な話ですよ。だってメルス君は──」


 この後、アイが俺の周りに関する話をした結果──長いお説教が始まるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 なんというか、アイもそうだが『万蝕』もまた人間味に溢れている。
 俺が知っているもう一柱の『超越種』──『宙艦ミラ・ケートス』はそうでもなかったのだがな。

 姿が動物なんだから、ライオン的なハーレムも認めてくれると思ったら……まさかの一夫一妻制を主張してきた。

 とはいえ、ゴリゴリに押してくるのではなくアイのというか同種である『超越種』の幸せを単に願っているぽかったので、なんとも言いづらい罪悪感が湧いてきたものだ。

 幸い、そこはアイ自身の主張もあって最終的には折れた。
 ……なお、その際のアイの惚気暴露のせいもあって、現在俺は地に伏しています。


「──決して悪い方では無いのですよ?」

『それは理解している。おそらく、天秤もそう指し示すだろう』

「私もメルス君と共に過ごし、改めて思いました。とっても可愛いんですよ」

『……それは、どうだろうか』


 うん、容姿的にも性格的にも可愛い部分などまったく無いと思うんだが。
 しかし、この主張はアイのもの、俺が手を出していい領分ではない。

 なので聞き役に徹する……というか、触れたくないので口出しはしないでおく。
 まあ、彼女にとっての俺がどんなものなのか、知りたいと思ったのは同じなのだ。

 だがここで、アイは俺の方をチラリと見た後、結界を張ってしまった。
 さすがは『超越種』の張った代物、あらゆる感覚がその内部を認識できずにいる。


「えー、ここでお預けー……まあいいか」


 非常に気になることではあるが、本当に俺が知りたいと言えば教えてくれるだろう。
 恥ずかしいので尋ねることは無いだろうけども、この予想はおそらく外れない。


「とりあえず、戦闘中に集めた情報の整理でもしておこうか。みんな、頼む」


 戦闘終了後、眷属たちは一時解散したものの監視体制はそのままだった。
 なので念話で連絡せずとも、こちらの状態は把握しているだろう。

 俺は『万智の魔本』を取りだすと、解析された『万蝕』の情報を調べていく。
 あくまで身体スペックや可能なことなど、戦闘に関わる要素のみを抽出してある。

 それによると、どうやらあの大型の獣の姿もまた、本体とは異なるらしい。
 そして、いくつか予測される本体の情報も載っていたりと、スラスラ読める内容だ。


「俺用に読みやすくしてくれてあるみたいだな……いつもすまないな」


 そう言いながらも読み進めていく。
 俺が飽きないように、分かりやすく気になりそうなワードを入れてあるんだよな。

 そのためサクサク読んでしまい、気づけば集まっている情報は全部読み終えてしまう。 他に何かすることは無いかと考え……何も浮かばず、適当にやり始める。


「にしてもアイ、長いな…………そうだな、アレでもやりますか」


 そうして取りだすのはいくつかの素材。
 今の俺は縛りを解除しているので、そちらの方面でも優れた成果を出せる。

 せっかくだし、ノリのままにアイテムを製作してみようではないか。
 特に意味なんてない、ただなんとなくその方がいいと思ったからだ!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。 乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。 そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。 最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。 “既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう” そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい… 何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。 よろしくお願いいたします。

激レア種族に転生してみた(笑)

小桃
ファンタジー
平凡な女子高生【下御陵 美里】が異世界へ転生する事になった。  せっかく転生するなら勇者?聖女?大賢者?いやいや職種よりも激レア種族を選んでみたいよね!楽しい異世界転生ライフを楽しむぞ〜 【異世界転生 幼女編】  異世界転生を果たしたアリス.フェリシア 。 「えっと…転生先は森!?」  女神のうっかりミスで、家とか家族的な者に囲まれて裕福な生活を送るなんていうテンプレート的な物なんか全く無かった……  生まれたばかり身一つで森に放置……アリスはそんな過酷な状況で転生生活を開始する事になったのだった……アリスは無事に生き残れるのか?

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍発売中です 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

私の推しメンは噛ませ犬◆こっち向いてよヒロイン様!◆

ナユタ
恋愛
十歳の誕生日のプレゼントでショッキングな前世を知り、 パニックを起こして寝込んだ田舎貴族の娘ルシア・リンクス。 一度は今世の幸せを享受しようと割りきったものの、前世の記憶が甦ったことである心残りが発生する。 それはここがドハマりした乙女ゲームの世界であり、 究極不人気、どのルートでも死にエンド不可避だった、 自身の狂おしい推し(悪役噛ませ犬)が実在するという事実だった。 ヒロインに愛されないと彼は死ぬ。タイムリミットは学園生活の三年間!? これはゲームに全く噛まないはずのモブ令嬢が推しメンを幸せにする為の奮闘記。 ★のマークのお話は推しメン視点でお送りします。

処理中です...