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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド直後 その04

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 人族と魔物、どちらの方が多くのスキルを使いこなすのか──正解は前者だ。
 スキルとは言わば技術免許、扱うだけのお頭があってこそ真に効果を発揮する。

 だが、能力の多様性だけを問えば──間違いなく魔物の方が優れているだろう。
 ありとあらゆる環境に適応し、生存してきた彼らには性質というレベルで力が宿る。

 本題に入ろう。
 多種多様な魔物の性質を、一つの個体に集めれば最強なのでは? そんな子供じみた考えが生みだした産物こそ──キメラ種だ。

 そしてそんな考えは、人ならざる者──神の中でも提案された。
 八百万の存在を喰らい、己が糧とし、理を蝕む一匹の獣──それこそが『万蝕』。

 噛み合わないものを噛み合わせ、繋がらないものを繋げ、ありえないものをありえるものとする──それもまた、生物の在り様なのだから。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 要するに、この世に存在するすべての存在の力を使えるのが『万蝕』だ。
 おまけに、世界に一匹しか居なかった希少種をも喰らい、特殊な力を蓄えている。

 さすがにそちらは理由もあって使わないだろうが、それでも何千何万もの魔物たちが保有するスキルが、俺の道を阻む。


「魔導解放──“降り注ぐ混沌の流星”!」


 試しにさまざまな状態異常を載せた隕石を降らせるが、顔色一つ変えずに弾いている。
 搦手はおそらく不可能、というかそれに特化していなければ難しいはず。

 俺の能力は基本的に、バカでも使えるような単純明快なモノになっている。
 嵌め技などは存在しない……というか、俺が理解して使えはしないのだ。


『どうした、その程度か? ならばこちらから──』

「いやいや、まだありますよっと。ヤン──“絶対切断”」

『ッ!?』


 声を掛けると、二振りの剣に緑色のオーラが纏わりつく。
 それを即座に振るうと、『万蝕』は何かに気づいたようで回避を行う。

 巨体に似合わぬ回避の結果、毛が数本切り落とされる。
 だが、『万蝕』からすれば先ほど以上に驚きの展開のようで……。


『その力……まさか。分かたれ、加工されているようだが分かるぞ。あのお方のものか』

「あの神様の恩恵で、俺の理想の体現だ。いいよな、そんな便利な体──【嫉妬】しちゃうじゃないか」

『当代の【嫉妬】はここに……っ』

「だから欲しくなるだろ、【強欲】にさ──“万能吸収”、“存在蒐集”」


 毛を吸収して取り込み、概念ごと情報の保管を行う。
 連続で悪いが、グーを筆頭に眷属たちが解析を始めてくれた。

 やはり直前まで獣毛にまで、攻撃の軽減や抵抗、ダメージ減少を施していたようだ。
 他にも各種耐性や無効化、さらには魔物特有の撥魔性や毛自体の再生まで備えていた。

 つまり、人族よりも攻撃への対抗手段が多く備わっているということ。
 だからこそ、俺はヤン経由で『絶対』の切断で強制的に断ち切ったのだ。

 非常に便利ではあるが、それなりに代償があるので多用はできない。
 他の<大罪>スキル同様、連発していればそれをすぐに支払わねばならなくなる。


「チー、矢の展開──“桜雪吹矢”」

『【嫉妬】と【強欲】はまだいい。だが、それは……【救恤】だと?』

「いずれは話を聞きたいと思うが、今はどうでもいいな。セイ、グラ──“聖魔共合”」


 聖と魔、相反するエネルギー。
 武具っ娘たち自身の相性はいいのだが、運用するそれらのエネルギー的に反発が起きてしまう場合がある。

 そこで使うのがこの能力。
 そもそも聖武具と魔武具を同時に使うために、イメージした合体能力を他のすべてにも適応するよう使った。


「あとは……フー、“因果改変”を。ホーは“奔放横恣”。そして──“代替行為”」


 運命を捻じ曲げ、概念に捕らわれないための能力。
 平時は合わせづらいこの能力たちも、今ならば併用が可能だ。

 そこに重ねて使う[代替行為]。
 旧{他力本願}が組み込まれているこのスキルは、俺の想像する動きを極限まで再現してくれる……肉体への影響をいっさい顧みず。

 だが、相手が『超越種』である以上、どのような代償も支払う価値がある。
 望むままに、剣を構え──体を切り落とすイメージを籠めて効果を発動。


『ッ──いつの間に!』

「『払える物は支払おう』、『どんな物にも対価が必要だ』」

『何を言って……』

「ただの宣言だ。『切れぬなら腕を』、『斬れぬなら足を』、『伐れぬなら両方を捧げよう』。『今ここに、剣の頂を』」


 また、自身の服装を礼服に切り替える。
 ここまで来たら、もう何をしても平気な気がしてきた……うん、自棄になってます。

 長時間【傲慢】と【憤怒】と【強欲】が発動しているので、『侵化』とはいえさすがに影響がじわじわと出ている。

 例えるとそう、安全運転を心がけているくせにアクセルをベタ踏みしているようなものだろうか。

 ──手段を問わず、あらゆる方法で賭けの勝利を得ようとしていた。


「剣の頂、高みへ至りし聖剣姫。禁忌の鎖の軛を解き放ち、其の身を今一度現界させん。生まれ出づるあまねく剣士、其に並び立つ者無き剣技を今ここへ──“獣剣魂魄ソウルリンクス”」


 ティル師匠の魂魄の一部を借り、その身で【獣剣聖姫】の力を体現。
 使う剣は神器、借りる能力は最強、そして担い手も一時的に至高の達人。

 ここまでくれば、失敗しないだろう。
 念には念の保険を施し、再び『万蝕』への攻撃をイメージした。


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