上 下
2,074 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド直後 その03

しおりを挟む


 フルライラは空を駆ける。
 すでにこの地に居る必要は無い、己が使命のためにも向かうところは多い。

(奴らで言うところのユニーク種も、脱皮寸前であれば調べねばならんからな。同胞になり得るモノか、使命の対象か……むっ?)

 思考を止めたのには理由がある。
 行きには認識していなかったソレが、存在感を放ちフルライラの注意を引いた。

(禍々しい……いや、そういう邪縛か。ほぼすべての神々が眠る中、このようなことをする者がアヤツらの中には居るのか。なんとも哀れなことよ)
『──何の用だ、雛ど──ッ!?』

「魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”」

 ソレは体から魔力の霧を放出する。
 非攻撃性の代物であるとすぐに把握したフルライラだが、改めて認識したソレから、看過できない気配を掴む。

『貴様……生霊とどういう繋がりだ』

「生霊?」

『『還魂』のことだ。先ほどのモノよりも、貴様からは濃密な気配を感じられる』

「アイのことか……まあ、間柄を良くは知らないからそこはいいや。関係? ハーレムを前提にお付き合いさせてもらっている」

 そう語ると、左手の薬指を示す。
 そこに嵌められた指輪が輝くと、内部からさらに異なる指輪が現れた。

『その気配……まさか』

「試練だっけ? ああ、やったよ。さっきの話も聞いてたさ。ユニーク種だって、もう何度か倒している」

『……何が言いたい』

「いいや、別に。アイツらに何もしなかったからな、俺も何かをするつもりはないんだ。そう、これはただの当てつけ……二人を威圧したことへの八つ当たりだ」

 指輪が元の場所に戻ると、今度は両手に二振りの剣が出現した。
 そこから放たれる神気の力、ただ者では無いと警戒心を強めるフルライラ。

『目的はなんだ?』

「どうせ試練じゃない以上、力は抑制されているんだろう? それに、派手に動くと上に目を付けられる……この霧が漂っている範囲でだけ、賭け試合をしてくれよ」

『ふむ……こちらの利点はなんだ? 先ほどからアレコレと、貴様に都合の良いことばかり語っているではないか』

「──さっき回収した牙なんだが、実はまだあるみたいだな。そして、これがその一本」

 ソレが差し出したのは、食事の最中に出てきたフルライラの牙。
 気配から本物であると分かり、このまま引けなくなったとも思う。

「だからこれを──返す。代わりに、賭けに応じろ」

『……内容によるな』

「そうだな、まあ模擬戦だ。これ以上は本気になる、ぐらいまで追い込めたら俺の勝ち。そうじゃないならそっちの勝ち。で、勝った方が負けた方に一つ要求する。ちなみに、他の牙の在り処も知ってるぞ」

『ふむ、せっかくだからちょうどいい。その賭けとやらを受けてやろう』

「了承したな──“誓約正規”」

 紡いだ言霊は縛られ、交わされた誓いは絶対遵守のモノと化した。
 雛鳥の隠し芸かと思えば、自力での解除ができないそれに疑念を抱くフルライラ。

『貴様……何者だ』

「奴らと同じく異界の者。ただ、さっきお前が威圧した、二人を寵愛する者でもある」

 これ以上語ることは無い、そう告げるように剣を突きつける。
 フルライラもまた、今の姿でできることを考え──模擬戦を始めるのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 リュシルとマシューが威圧され、直情的になった俺の蛮行。
 外に出てきた『万蝕』に喧嘩を吹っ掛け、現在戦闘中……本当、危ういな。


「ゴー、フ―、スー、グー、シー、ヤン、グラ、セイ、トー、ガー、ホー、クー、チー、二―、リー、ギー、ドゥル──来い」


 だが、相手にとって不足なし。
 武具っ娘たちを呼び寄せると、魂魄の結びつきを強めるように体内へ入ってもらう。

 非実体化の際は能動能力アクティブスキルを使えない。
 しかし、こうして宿ってもらえば最適なタイミングでいつでも使えるし、受動能力パッシブスキルの恩恵にいつでもあやかれる。


『まずは一撃、放ってみろ』

「望むところだ──“魔技直付”」
《魔導解放“喰らい尽く冥獣の暗牙”》
「重ねて──“干渉透過”、“攻撃貫通”」

「夢現流武具術双剣之型──“合重斬”」


 双剣にそれぞれ力を宿し、行ったのは二つで一つの斬撃。
 先に[水月]で攻撃に対する反応すべてを無効化し、[花日]の攻撃を通す。

 システムの裏を突くような斬撃だが、寸分の狂いもなく同じ場所を通すことが必須。
 少なくとも、相手が油断をしていない限りは不可能だろう。

 そして、俺自身の技量。
 現在【傲慢】と【憤怒】と【嫉妬】によって、能力値の底上げが成されている。

 思考は[世界書館]によって整い、理想の斬撃が振るわれた。
 眷属のサポートもあり、剣は『万蝕』を傷つけた──がしかし、即座に再生される。


『……驚いたな。まさか、本当に一撃を受けるとは』

「その割には、ずいぶんと速く治したな」

『傷を付けた褒美に教えてやろう。これまで喰らったすべての生命体、その能力は重複することなく全部が糧となっている。攻撃の完全無効はできずとも、抵抗や耐性が何十、何百と重なればどうなるか……』

「はっ、そりゃあ自信ありげに受けられるわけだ! それなのに、攻撃を受けたから驚いたと? チッ、面倒臭い」


 極限まで攻撃を軽減し、一定ダメージまで落とし込む。
 それを再生系のスキルが超高速で癒せば、理論上では無敵ではないか。

 今回は攻撃そのものへの抵抗は[水月]が突破できたが、[花日]に付与した即死の魔導は無効化されている。

 即死に限り無効化、もしくは大量の即死耐性……または複数の命を持つなど、考えれば切りがない。

 というか、考察したものすべてが答えの可能性が一番高いだろう。
 この世界のすべてを喰らう『万蝕』には、逆に存在しないモノの方が少ないはずだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...