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偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド直後 その03
しおりを挟むフルライラは空を駆ける。
すでにこの地に居る必要は無い、己が使命のためにも向かうところは多い。
(奴らで言うところのユニーク種も、脱皮寸前であれば調べねばならんからな。同胞になり得るモノか、使命の対象か……むっ?)
思考を止めたのには理由がある。
行きには認識していなかったソレが、存在感を放ちフルライラの注意を引いた。
(禍々しい……いや、そういう邪縛か。ほぼすべての神々が眠る中、このようなことをする者がアヤツらの中には居るのか。なんとも哀れなことよ)
『──何の用だ、雛ど──ッ!?』
「魔導解放──“世界欺く夢幻の霧”」
ソレは体から魔力の霧を放出する。
非攻撃性の代物であるとすぐに把握したフルライラだが、改めて認識したソレから、看過できない気配を掴む。
『貴様……生霊とどういう繋がりだ』
「生霊?」
『『還魂』のことだ。先ほどのモノよりも、貴様からは濃密な気配を感じられる』
「アイのことか……まあ、間柄を良くは知らないからそこはいいや。関係? ハーレムを前提にお付き合いさせてもらっている」
そう語ると、左手の薬指を示す。
そこに嵌められた指輪が輝くと、内部からさらに異なる指輪が現れた。
『その気配……まさか』
「試練だっけ? ああ、やったよ。さっきの話も聞いてたさ。ユニーク種だって、もう何度か倒している」
『……何が言いたい』
「いいや、別に。アイツらに何もしなかったからな、俺も何かをするつもりはないんだ。そう、これはただの当てつけ……二人を威圧したことへの八つ当たりだ」
指輪が元の場所に戻ると、今度は両手に二振りの剣が出現した。
そこから放たれる神気の力、ただ者では無いと警戒心を強めるフルライラ。
『目的はなんだ?』
「どうせ試練じゃない以上、力は抑制されているんだろう? それに、派手に動くと上に目を付けられる……この霧が漂っている範囲でだけ、賭け試合をしてくれよ」
『ふむ……こちらの利点はなんだ? 先ほどからアレコレと、貴様に都合の良いことばかり語っているではないか』
「──さっき回収した牙なんだが、実はまだあるみたいだな。そして、これがその一本」
ソレが差し出したのは、食事の最中に出てきたフルライラの牙。
気配から本物であると分かり、このまま引けなくなったとも思う。
「だからこれを──返す。代わりに、賭けに応じろ」
『……内容によるな』
「そうだな、まあ模擬戦だ。これ以上は本気になる、ぐらいまで追い込めたら俺の勝ち。そうじゃないならそっちの勝ち。で、勝った方が負けた方に一つ要求する。ちなみに、他の牙の在り処も知ってるぞ」
『ふむ、せっかくだからちょうどいい。その賭けとやらを受けてやろう』
「了承したな──“誓約正規”」
紡いだ言霊は縛られ、交わされた誓いは絶対遵守のモノと化した。
雛鳥の隠し芸かと思えば、自力での解除ができないそれに疑念を抱くフルライラ。
『貴様……何者だ』
「奴らと同じく異界の者。ただ、さっきお前が威圧した、二人を寵愛する者でもある」
これ以上語ることは無い、そう告げるように剣を突きつける。
フルライラもまた、今の姿でできることを考え──模擬戦を始めるのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
リュシルとマシューが威圧され、直情的になった俺の蛮行。
外に出てきた『万蝕』に喧嘩を吹っ掛け、現在戦闘中……本当、危ういな。
「ゴー、フ―、スー、グー、シー、ヤン、グラ、セイ、トー、ガー、ホー、クー、チー、二―、リー、ギー、ドゥル──来い」
だが、相手にとって不足なし。
武具っ娘たちを呼び寄せると、魂魄の結びつきを強めるように体内へ入ってもらう。
非実体化の際は能動能力を使えない。
しかし、こうして宿ってもらえば最適なタイミングでいつでも使えるし、受動能力の恩恵にいつでもあやかれる。
『まずは一撃、放ってみろ』
「望むところだ──“魔技直付”」
《魔導解放“喰らい尽く冥獣の暗牙”》
「重ねて──“干渉透過”、“攻撃貫通”」
「夢現流武具術双剣之型──“合重斬”」
双剣にそれぞれ力を宿し、行ったのは二つで一つの斬撃。
先に[水月]で攻撃に対する反応すべてを無効化し、[花日]の攻撃を通す。
システムの裏を突くような斬撃だが、寸分の狂いもなく同じ場所を通すことが必須。
少なくとも、相手が油断をしていない限りは不可能だろう。
そして、俺自身の技量。
現在【傲慢】と【憤怒】と【嫉妬】によって、能力値の底上げが成されている。
思考は[世界書館]によって整い、理想の斬撃が振るわれた。
眷属のサポートもあり、剣は『万蝕』を傷つけた──がしかし、即座に再生される。
『……驚いたな。まさか、本当に一撃を受けるとは』
「その割には、ずいぶんと速く治したな」
『傷を付けた褒美に教えてやろう。これまで喰らったすべての生命体、その能力は重複することなく全部が糧となっている。攻撃の完全無効はできずとも、抵抗や耐性が何十、何百と重なればどうなるか……』
「はっ、そりゃあ自信ありげに受けられるわけだ! それなのに、攻撃を受けたから驚いたと? チッ、面倒臭い」
極限まで攻撃を軽減し、一定ダメージまで落とし込む。
それを再生系のスキルが超高速で癒せば、理論上では無敵ではないか。
今回は攻撃そのものへの抵抗は[水月]が突破できたが、[花日]に付与した即死の魔導は無効化されている。
即死に限り無効化、もしくは大量の即死耐性……または複数の命を持つなど、考えれば切りがない。
というか、考察したものすべてが答えの可能性が一番高いだろう。
この世界のすべてを喰らう『万蝕』には、逆に存在しないモノの方が少ないはずだ。
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