2,069 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド後篇 その18
しおりを挟む俺は暴れに暴れまくっているが、それは決して『選ばれし者』たちには気づかれない。
アニメや漫画言うなら、画面端にも映らない場所で戦っているからだ。
もっと分かりやすく言うと、彼らはボス戦用フィールドで戦闘中。
対する俺やその他祈念者は、モブ用の通常フィールドでの戦闘である。
別に結界で囲いがあるわけじゃないが、無意識的に差別化が図られていた。
まあ、支援担当のお嬢さんは、どちらにも声が届く場所で歌っているけども。
……なんて考えていると、キメラ種の攻撃が当たりそうになった。
とっさに躱し、すぐに首を落としたが──マシューが『1』と書かれた看板を上げる。
「なるほど、一定数になったら退場されるわけだね。なら、すぐに戻さないと」
原因は“地人天卑”の効果参照値であるレベルが、かなり上がっているから。
自分の上がった能力値はともかく、相手の下げられる能力値が減っていた。
そのため、それなりの動きを見せたキメラ種に、スキルをほぼ持たない俺は苦戦を強いられかけたわけだ。
「今あるのは制限付きの【嫉妬】、戦闘中に得た暗器術。あとはポイントで買ったアレだけだし……レベルを下げて、もう一個買ってもいいよね?」
どうせレベルを下げないと、状況はなんら変化を生まない。
縛りプレイ用のUIを表示し、一気にレベルを奉納──得たポイントでスキルを購入。
「──“並速思考”」
高速思考、並列思考の複合スキル。
祈念者であれば、役立つスキルをギュッと二つに纏めた便利なモノという認識だろう。
だがまあ、スキル枠がほぼ無限な自由民にとっては、さして複合する意味の無いもの。
しかし、俺の場合スキルは進化や複合させてもそのまま残る……多くても困らない。
二つを同時に使い続けて、擬似的に熟練度自体は上がっていた。
それでも習得条件は満たせていなかったので、もういっそのことポイント一括払いだ。
「感覚的には、二つを起動するよりはこっちの方がスムーズで楽なんだけどな……代わりに最大処理能力が落ちる分、あえて別々に使う人も居るって話だっけ?」
一周目(終焉の島前)、俺はそのどちらを選ぶでもなく{多重存在}を取っていたので、深くは考えたことなど無かったけど。
二周目(終焉の島中)も、眷属たちがいつの間にか<千思万考>と内包された並速思考スキルをくれたので、便利だなぁという程度にしか考えなかったし。
「まあとにかく、頭をフル回転させればもう少しマトモに戦えるってことで!」
限界突破スキルの力で、能力値補正の制限が外れて無双中の俺氏。
有り余っていた敏捷値を、並速思考スキルの処理能力を信じて部分的に解放。
その瞬間、世界がゆっくりと……なんていうほどではないが、それなりの速度になる。
経験から相手の動きを予測、懐に潜り込んで──首を切り落とす。
「よし、首切スキルゲット! 意図的に狙い続けて良かったー」
新しく増えたスキルを見た後は、特に狙いなど付けずに殺しまくる。
普段のノゾム君じゃ、なかなかやれないことだからな。
だが今はリュシルとマシューが居る、どれだけ危険なことをしても最終的になんとかしてくれる……俺が異様なほどにクズっぽいのだが、まあ事実なのでそこは諦める。
他にも獣殺しや斬撃強化といったスキルも獲得し、もうホクホク顔が止まらない。
そんなモブ的な満足感に浸っていると、周囲のキメラ種が一瞬で屠られる。
行ったのはリュシル、魔力を軽く練って弾丸として射出しただけ。
だが、今の彼女のレベルは尋常ではないので──塵も残さずに消滅するのだ。
「──もう時間?」
「はい、アレを見ていただければ」
「…………うわぁ」
リュシルに言われ、向けた先で行われているのはまさに英雄譚。
六色の光が力を合わせ、巨悪に挑むという誰もが憧れる冒険の一幕。
赤と白が前衛、緑と黒が中衛、黄と青が後衛として戦っている。
普段、協力などしていない……だというのに、息の合った連携を見せていた。
白が切り裂き赤が焼き、緑が翻弄して黒が嵌め、青が歌い黄が支える。
子供レベルの認識だが、しかしそれほどまでに超常的とも言えよう。
「…………」
「メルスさんが何を考えているのか、なんとなく分かりますよ。でも、私やマシューが助けてもらったのは、彼らではなくメルスさんですので。そこ、忘れちゃダメですよ」
「リュシル……」
「はい。開発者だけでなく、私にも救いをもたらし性的な仕事を依頼するのは、他でもない創造者だけかと」
「マシュー……」
途中で上がったモチベーションも、最後の最後で急降下。
けどまあ、俺らしいと言えば俺らしいのもまた事実……気持ちを改め、立ち上がる。
「うーん、よし! 二人とも、最後の一仕事に付き合ってもらうよ!」
「はい!」
「ご命令とあらば」
「ありがとう! というわけで、しばらくは戦況を見てないとね。はい、これお菓子と飲み物。マシューは給仕をしてくれる?」
「えっ、あの……」
「畏まりました」
いや、ほら彼らがエピローグまでやってくれないと進めないわけで。
お手製ではあるが、ちゃんと眷属の合格を貰っている。
何よりモブの行動では、大局などさして動きはしない。
今は座して待つべき、物理的にも運営神共の綴る物語的にもな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる