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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド後篇 その18

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 俺は暴れに暴れまくっているが、それは決して『選ばれし者』たちには気づかれない。
 アニメや漫画言うなら、画面端にも映らない場所で戦っているからだ。

 もっと分かりやすく言うと、彼らはボス戦用フィールドで戦闘中。
 対する俺やその他祈念者は、モブ用の通常フィールドでの戦闘である。

 別に結界で囲いがあるわけじゃないが、無意識的に差別化が図られていた。
 まあ、支援担当のお嬢さんは、どちらにも声が届く場所で歌っているけども。

 ……なんて考えていると、キメラ種の攻撃が当たりそうになった。
 とっさに躱し、すぐに首を落としたが──マシューが『1』と書かれた看板を上げる。


「なるほど、一定数になったら退場されるわけだね。なら、すぐに戻さないと」


 原因は“地人天卑ディスパイス・オブ・ミー”の効果参照値であるレベルが、かなり上がっているから。
 自分の上がった能力値はともかく、相手の下げられる能力値が減っていた。

 そのため、それなりの動きを見せたキメラ種に、スキルをほぼ持たない俺は苦戦を強いられかけたわけだ。


「今あるのは制限付きの【嫉妬】、戦闘中に得た暗器術。あとはポイントで買ったアレだけだし……レベルを下げて、もう一個買ってもいいよね?」


 どうせレベルを下げないと、状況はなんら変化を生まない。
 縛りプレイ用のUIを表示し、一気にレベルを奉納──得たポイントでスキルを購入。


「──“並速思考”」


 高速思考、並列思考の複合スキル。
 祈念者であれば、役立つスキルをギュッと二つに纏めた便利なモノという認識だろう。

 だがまあ、スキル枠がほぼ無限な自由民にとっては、さして複合する意味の無いもの。
 しかし、俺の場合スキルは進化や複合させてもそのまま残る……多くても困らない。

 二つを同時に使い続けて、擬似的に熟練度自体は上がっていた。
 それでも習得条件は満たせていなかったので、もういっそのことポイント一括払いだ。


「感覚的には、二つを起動するよりはこっちの方がスムーズで楽なんだけどな……代わりに最大処理能力が落ちる分、あえて別々に使う人も居るって話だっけ?」


 一周目(終焉の島前)、俺はそのどちらを選ぶでもなく{多重存在}を取っていたので、深くは考えたことなど無かったけど。

 二周目(終焉の島中)も、眷属たちがいつの間にか<千思万考>と内包された並速思考スキルをくれたので、便利だなぁという程度にしか考えなかったし。


「まあとにかく、頭をフル回転させればもう少しマトモに戦えるってことで!」


 限界突破スキルの力で、能力値補正の制限が外れて無双中の俺氏。
 有り余っていた敏捷値を、並速思考スキルの処理能力を信じて部分的に解放。

 その瞬間、世界がゆっくりと……なんていうほどではないが、それなりの速度になる。
 経験から相手の動きを予測、懐に潜り込んで──首を切り落とす。


「よし、首切スキルゲット! 意図的に狙い続けて良かったー」


 新しく増えたスキルを見た後は、特に狙いなど付けずに殺しまくる。
 普段のノゾム君じゃ、なかなかやれないことだからな。

 だが今はリュシルとマシューが居る、どれだけ危険なことをしても最終的になんとかしてくれる……俺が異様なほどにクズっぽいのだが、まあ事実なのでそこは諦める。

 他にも獣殺しや斬撃強化といったスキルも獲得し、もうホクホク顔が止まらない。
 そんなモブ的な満足感に浸っていると、周囲のキメラ種が一瞬で屠られる。

 行ったのはリュシル、魔力を軽く練って弾丸として射出しただけ。
 だが、今の彼女のレベルは尋常ではないので──塵も残さずに消滅するのだ。


「──もう時間?」

「はい、アレを見ていただければ」

「…………うわぁ」


 リュシルに言われ、向けた先で行われているのはまさに英雄譚。
 六色の光が力を合わせ、巨悪に挑むという誰もが憧れる冒険の一幕。

 赤と白が前衛、緑と黒が中衛、黄と青が後衛として戦っている。
 普段、協力などしていない……だというのに、息の合った連携を見せていた。

 白が切り裂き赤が焼き、緑が翻弄して黒が嵌め、青が歌い黄が支える。
 子供レベルの認識だが、しかしそれほどまでに超常的とも言えよう。


「…………」

「メルスさんが何を考えているのか、なんとなく分かりますよ。でも、私やマシューが助けてもらったのは、彼らではなくメルスさんですので。そこ、忘れちゃダメですよ」

「リュシル……」

「はい。開発者ディベロッパーだけでなく、私にも救いをもたらし性的な仕事を依頼するのは、他でもない創造者だけかと」

「マシュー……」


 途中で上がったモチベーションも、最後の最後で急降下。
 けどまあ、俺らしいと言えば俺らしいのもまた事実……気持ちを改め、立ち上がる。


「うーん、よし! 二人とも、最後の一仕事に付き合ってもらうよ!」

「はい!」
「ご命令とあらば」

「ありがとう! というわけで、しばらくは戦況を見てないとね。はい、これお菓子と飲み物。マシューは給仕をしてくれる?」

「えっ、あの……」
「畏まりました」


 いや、ほら彼らがエピローグまでやってくれないと進めないわけで。
 お手製ではあるが、ちゃんと眷属の合格を貰っている。

 何よりモブの行動では、大局などさして動きはしない。
 今は座して待つべき、物理的にも運営神共の綴る物語的にもな。


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