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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド後篇 その16

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 リュシルによる、俺の最適運用法。
 熟考してもらい、彼女が閃いた方法は──


「──スキルは全封印しましょう」

「今まで全否定!?」

「ああいえ、そういうわけではないんです。一般スキルの性能では、重ね掛けしても通用しないと思われます。ですので、より階級の高いスキルを使うのがベストです」


 階級、つまりレアリティの高いスキルは、相応に高い性能を発揮する。
 仮に下位のスキルが防がれても、上位版ならばごり押しで突破することも可能なのだ。

 そう、これこそが才覚の差。
 重ね掛けもたしかに効果を発揮するが、純粋に一点に特化するということならば、絶対的に上位スキルに劣る。

 才覚に恵まれ、無限に成長するニィナとの違いはここにあった。
 ……俺がどれだけ頑張っても、習得に才覚が必要なスキルは習得不可能なのだ。


「……まあ、仕方ないか。それで、どれを使えばいいんだ? 全部を封印するなら、とりあえず使えないスキルは無いだろう」

「では、[内外掌握]を。そして、調べてほしいのは──」


 リュシルが告げたのは、ただ単に調べるだけでは分からないであろうやり方。
 何かしらの考えがあるのだろう、指示に従いスキルをレンタルして即座に起動する。

 なお、これは本来自分の体を操作するためのスキルであって、探知用ではない。
 というかそもそも、俺は探知系のスキルは大して持っていないのだ。

 だが、肉体からの延長で外部への干渉も可能な[内外掌握]スキル。
 擬似的にではあるが、一定の領域内であれば探知の真似事ができるのだ。

 そんなスキルを使うと、まず自分の周囲に膜のようなものが展開された。
 その範囲内ならば、血流操作でもベクトル操作でも何でもできるようになる。

 あとはその膜を広げ、干渉したい場所へ延ばすことで内部の存在を把握していく。
 探知とはやり方が違うので、コスパが悪い代わりにいっさいの欺瞞を無効化する。


「……こりゃあ当たりだな。さすがはリュシル、俺じゃあ見つけられなかったよ」

「いえ、資料が無ければ分かりませんでしたので。しかし、そうなるとかなり討伐は難しいですね」

「まあ、情報をやってやるだけでも、祈念者は自分でなんとかするよ。なんといっても、ここには『選ばれし者』が複数人集まっているわけだからな」


 バックアップデータを持つ個体──父体の居場所は分かったが、倒し切るための手段が見つかっていない。

 もちろん、魔導でも超強力なスキルでも使えば滅ぼし尽くすための術が存在する。
 今回はクエスト、それなりにチェックされている以上、警戒は最大限されているはず。

 有象無象の処理の偽装は、リオンが誤魔化してくれた。
 しかし、さすがに母体や父体を倒せば、バレること間違いなし。

 せめてどちらかだけでも・・・・・・・・、倒してもらわないと……俺たちは動けないだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 シャッゴン大空洞 山人の隠れ里


 現在、アリィと『選ばれし者』の一人である『賢者』候補がキメラ種と戦う地。
 意識を向けて飛ばしてみれば、人型のキメラ種も参戦して激闘が繰り広げられている。


《ハロハロー、こちらメルス。アリィ隊員、アリス隊員。応答願う》

「はいはーい、こちらアリィ。もうそろそろ終わりそうでーす」
「こちらアリス。けど、結構強いわね。純粋な身体能力だけなら、かなり高いわ」


 だいぶ余裕そうなので、アリィたちに声というか念話を届けた。
 実際、後ろで観ているだけで直接戦闘などはしていないみたいだし。

 こちらでも人型のキメラ種は猛威を振るおうとしていたのだろうが、人型も四足型も関係なく倒されている。


《人型になっても、四足型の膂力とかはそのままだしな。そっちはどういう風に処理していたんだ?》

「アリィたちが“役割の担い手コート”を使って、あの子が魔法を使える人形を出して……えっと、アリス……パス!」
「しょうがないわね。端的に説明するわ」


 アリスが教えてくれた話によると、途中から現れた人型に“役無き者たちナンバーズ”の方はかなり潰されたらしい。

 だが、“役割の担い手”たちは普通に勝っていたし、スオーロの人形が補助をすれば無傷で倒すこともできたようで。


「結局のところ、大した苦戦も無く今に至るわけよ。どう、ご想像通りにできた?」

《充分な功績だ。あとでご褒美を……と言いたいところだが、最後に一つ頼む。アイツを俺の居る場所、昏き冷洞まで運んできてくれないか?》

「理由はなんとなく分かるから、言わなくていいわよ」
「えっ、どんな理由?」
「後で教えるわよ」

《アリィのために簡単に言えば、今、世界が彼を必要としている! だな。ついでに言えば、スオーロが居なくなれば、襲ってくるキメラ種の数も減る。まあ、心情的にアレだから言わないでいたが、もういいだろう》


 キメラ種は主に祈念者を促すため、大陸中に派遣されていた。
 特に多かったのは祈念者の多い場所、もしくは『選ばれし者』たちが居る場所だ。

 なのでスオーロの居るここも、周囲に比べて多めに派遣されていた。
 その原因が居なくなれば、キメラ種の数も激減するだろう。

 酷な話ではある。
 だが、それでも行かねばならない。
 それこそが、少年に運営神共が与えた運命のようなモノなのだから。


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