2,067 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド後篇 その16
しおりを挟むリュシルによる、俺の最適運用法。
熟考してもらい、彼女が閃いた方法は──
「──スキルは全封印しましょう」
「今まで全否定!?」
「ああいえ、そういうわけではないんです。一般スキルの性能では、重ね掛けしても通用しないと思われます。ですので、より階級の高いスキルを使うのがベストです」
階級、つまりレアリティの高いスキルは、相応に高い性能を発揮する。
仮に下位のスキルが防がれても、上位版ならばごり押しで突破することも可能なのだ。
そう、これこそが才覚の差。
重ね掛けもたしかに効果を発揮するが、純粋に一点に特化するということならば、絶対的に上位スキルに劣る。
才覚に恵まれ、無限に成長するニィナとの違いはここにあった。
……俺がどれだけ頑張っても、習得に才覚が必要なスキルは習得不可能なのだ。
「……まあ、仕方ないか。それで、どれを使えばいいんだ? 全部を封印するなら、とりあえず使えないスキルは無いだろう」
「では、[内外掌握]を。そして、調べてほしいのは──」
リュシルが告げたのは、ただ単に調べるだけでは分からないであろうやり方。
何かしらの考えがあるのだろう、指示に従いスキルをレンタルして即座に起動する。
なお、これは本来自分の体を操作するためのスキルであって、探知用ではない。
というかそもそも、俺は探知系のスキルは大して持っていないのだ。
だが、肉体からの延長で外部への干渉も可能な[内外掌握]スキル。
擬似的にではあるが、一定の領域内であれば探知の真似事ができるのだ。
そんなスキルを使うと、まず自分の周囲に膜のようなものが展開された。
その範囲内ならば、血流操作でもベクトル操作でも何でもできるようになる。
あとはその膜を広げ、干渉したい場所へ延ばすことで内部の存在を把握していく。
探知とはやり方が違うので、コスパが悪い代わりにいっさいの欺瞞を無効化する。
「……こりゃあ当たりだな。さすがはリュシル、俺じゃあ見つけられなかったよ」
「いえ、資料が無ければ分かりませんでしたので。しかし、そうなるとかなり討伐は難しいですね」
「まあ、情報をやってやるだけでも、祈念者は自分でなんとかするよ。なんといっても、ここには『選ばれし者』が複数人集まっているわけだからな」
バックアップデータを持つ個体──父体の居場所は分かったが、倒し切るための手段が見つかっていない。
もちろん、魔導でも超強力なスキルでも使えば滅ぼし尽くすための術が存在する。
今回はクエスト、それなりにチェックされている以上、警戒は最大限されているはず。
有象無象の処理の偽装は、リオンが誤魔化してくれた。
しかし、さすがに母体や父体を倒せば、バレること間違いなし。
せめてどちらかだけでも、倒してもらわないと……俺たちは動けないだろうな。
◆ □ ◆ □ ◆
シャッゴン大空洞 山人の隠れ里
現在、アリィと『選ばれし者』の一人である『賢者』候補がキメラ種と戦う地。
意識を向けて飛ばしてみれば、人型のキメラ種も参戦して激闘が繰り広げられている。
《ハロハロー、こちらメルス。アリィ隊員、アリス隊員。応答願う》
「はいはーい、こちらアリィ。もうそろそろ終わりそうでーす」
「こちらアリス。けど、結構強いわね。純粋な身体能力だけなら、かなり高いわ」
だいぶ余裕そうなので、アリィたちに声というか念話を届けた。
実際、後ろで観ているだけで直接戦闘などはしていないみたいだし。
こちらでも人型のキメラ種は猛威を振るおうとしていたのだろうが、人型も四足型も関係なく倒されている。
《人型になっても、四足型の膂力とかはそのままだしな。そっちはどういう風に処理していたんだ?》
「アリィたちが“役割の担い手”を使って、あの子が魔法を使える人形を出して……えっと、アリス……パス!」
「しょうがないわね。端的に説明するわ」
アリスが教えてくれた話によると、途中から現れた人型に“役無き者たち”の方はかなり潰されたらしい。
だが、“役割の担い手”たちは普通に勝っていたし、スオーロの人形が補助をすれば無傷で倒すこともできたようで。
「結局のところ、大した苦戦も無く今に至るわけよ。どう、ご想像通りにできた?」
《充分な功績だ。あとでご褒美を……と言いたいところだが、最後に一つ頼む。アイツを俺の居る場所、昏き冷洞まで運んできてくれないか?》
「理由はなんとなく分かるから、言わなくていいわよ」
「えっ、どんな理由?」
「後で教えるわよ」
《アリィのために簡単に言えば、今、世界が彼を必要としている! だな。ついでに言えば、スオーロが居なくなれば、襲ってくるキメラ種の数も減る。まあ、心情的にアレだから言わないでいたが、もういいだろう》
キメラ種は主に祈念者を促すため、大陸中に派遣されていた。
特に多かったのは祈念者の多い場所、もしくは『選ばれし者』たちが居る場所だ。
なのでスオーロの居るここも、周囲に比べて多めに派遣されていた。
その原因が居なくなれば、キメラ種の数も激減するだろう。
酷な話ではある。
だが、それでも行かねばならない。
それこそが、少年に運営神共が与えた運命のようなモノなのだから。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる