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偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド後篇 その13
しおりを挟むというわけで、リュシルとマシューに保護されながら隠し部屋を探すことになった。
時折キメラ種たちが俺を襲いに来るが、すべて魔法か拳でワンパンされている。
「これが扇誘体質ですか……かなり効果が強いのですね」
「体質だからどうしようもないと思うんだけどな。まあ、魔物を集めたい時なら便利に使えるんだぞ。スキルだから眷属が使うならオフにできるし、リュシルもやってみるか?」
「メルスさんの場合は、体質である以上変えられないわけですが。普段は体質以上に強いからこそ、効果が発揮しないのでしょうか」
「だと思うぞ。まあ、今の縛りプレイ状態だと負けるんだけど……二人に守ってもらっているから、安心だな」
特殊スキルである扇誘体質。
魔物を無意識に惹きつけるようになってしまう効果なのだが、これはたとえスキル化されていなくとも生まれつき持つ者が居る。
もちろん、スキルがあればレベルを上げてさらに効果を発揮可能だ。
しかし、祈念者の場合は保有可能なスキル数に限度があるので、体質だけで満足する。
前に一度語った異能も、このジャンル。
特殊スキルの中には、そういったものが多いようで……調べてもらってるが、スキルの有無が効果を高めるのは間違いないそうだ。
「ところでリュシルさんや、部屋の方は見つかったか?」
「……そうですね。スキルで確認しているのですが、[マップ]の方には映らないようですね。おそらく、かなり原始的な手段で隠しているのでしょう」
「魔法とかを使わないで、物理的に掘ったとかか? キメラ種を作っていたような奴なんだし、穴掘り用のキメラ種を作ったり隠すための個体を作ったりもしたんじゃないか?」
「その可能性もありますね。ただし、スキルに反応しないような仕掛けがあるようですので、そちらも考慮しておいてください」
スキルでマッピングする場合、基本的にはエコーロケーションのように行われる。
なので、反射される分の身力を吸収するような鉱石を使えば無効化できるのだ。
ただしそういう鉱石は高いので、普通はそこまでして隠すようなことはしない。
まあ、錬金術師が相応の財力を持っていたか、鉱山でも持っていたなら別だけど。
「ちなみにメルスさんなら、どのようにして探しますか?」
「んー? そうだな、どうしても分からないなら神眼で視るかな。看破も含んでいるし、それでも分からないなら相応の隠蔽に防御力も備えているってことになる──なら、それ以外を全部壊せば出てくるだろ」
「強引ですね……しかし、最悪の場合はそうしてみるのもありかもしれません」
「創造者、開発者……来ます」
話している間に、体質に引っ張られてきたのかまたキメラ種が集まって来る。
祈念者の負担を減らすためとはいえ、呼び過ぎたのか?
「では、ここは私が──お掃除の時間です」
マシューが前に進み出て、構えるのは……竹でできた箒。
銘もそのまんま[竹箒]、主に清掃用の代物だった。
「女中流護身術──“埃払い”」
箒を構えて、水平に薙ぐよう振るう。
普通なら逆に埃が舞い散りそうな払い。
しかし女中たちが裏で伝道してきたこの技は、どんなホコリも逃さず吹き飛ばす。
箒は持ち手から先の部分まで、白い輝きを放っている。
そう、それは聖なる力──箒のアイテム名は『聖掃[竹箒]』だった。
完全なネタアイテムだが、なぜか使いこなしているマシュー。
助手でありながら、リッカから女中流スキルを学び……リュシルが大切なんだよな。
「女中流護身術──“埃払い”」
この護身術、基本的に使う技は女中の仕事に通ずることに限る。
それを戦闘に応用することで、仕事に使うスキルの恩恵にもあやかれるという仕組み。
マシューの職業は(助手)。
サポートをするという点においては、女中にも繋がる……だからこそ、受け継ぐことができたと前に言っていた。
「なあなあリュシルさんや、マシューのコンセプトっていったい何だったっけ?」
「何でもできる、万能な助手でしたね……あそこまでできるようにとは、考えていませんでしたけども」
「俺も、聖気を使えるだけの竹箒がキメラ種たちを吹き飛ばすことは想定していなかったよ……アレでネタ武器だぞ? メインのアレも使ったら、どうなることやら」
「あまり考えたくはありませんね」
会話中も、リュシルは[傀児の書]を用いて隠し部屋を物理的に探している。
それでもまだ見つからないのは、相手がよほど念入りに隠していたからだろう。
「こういうとき、物語の主人公ならたまたま触れた場所が当たりだったりするんだが……まあ、そんな都合のいい話は無いか」
「……なら、どうしてそんなにペタペタと触れているんですか?」
「フラグってヤツが見たかった。こう、あるわけないよなぁとか言った後に、都合よく起きるんだよ」
「……物語の見過ぎですよ。そんなに世の中が上手く回っているなら、誰だって苦労なんてしません。もし、本当にそんなことが起きるなら──」
リュシルが何かを言いかけたそのとき、どこからともなくガコッという音が鳴り、地響きが始まる。
その震源はここではない、しかし誰かが何かを発見したのは間違いないだろう。
「……もし、本当にそんなことが起きているなら、なんだ?」
「…………。さぁ、急ぎましょう! ええ、話し込んでいる場合ではありません!」
「リュシル……」
「開発者……」
世の中は自分中心に動いているわけじゃない──がしかし、誰かにとっては都合よく巡ることもあるのだろう。
なんとも深いようで浅いことを経験した俺たちは、音が鳴る方へ向かうのだった。
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