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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド後篇 その11

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 呼び出したのが誰なのか、それを知る前に倒れた以上、俺はその該当者を知らない。
 ただまあ、当選者が仕事に就いていたら、誰かが代わりに行ってくれると助かる。

 気絶した以上、俺に彼女たちへとやかく言う資格は失われたようなもの。
 せめて願おう、彼女たちの行いが……世界に災いを導かんことを。


《──ならばその【希望】、叶えてみせようではないか!》

《……まさか》


 気絶した俺ではあるが、物語のように今回は意識がブラックアウトしたわけではない。
 そもそも擬似的な虚脱感なので、動けなくなっているだけなのだ。

 要するに、偽りの痛みに魂が反応し、その影響が体にまで届いているだけ。
 精神面は至って問題なし、思考も平常通りなので主思考を切り替えれば良かった。

 さて、そんな俺の思考領域の中で、声を届ける何者か。
 該当する眷属の声は無く……しかし、その声からは妙に惹きつけられる感覚があった。

 何より先ほどの発言、うちの武具っ娘って自分の担当するモノを大切にするからな。


《ならば答えよう! 貴様は相応の働きを示した! 俺こそが、<美徳>最後の武具っ娘である『ホー』だ!》

《……えー》

《なっ、えーとはなんだえーとは!? 言っていいことが悪いことがあるぞ!?》

《いやまあ、うん……あっ、ほら! 今は外で何が起きたかが聞きたいんだが?》


 内心思っていることはひた隠しにして、現実……というかAFO世界内で起きていることを確認する。

 おそらく、【希望】の武具っ娘たるホーとは別に、誰かがあの場所に現れたはず。
 そして、その誰かが呼ばれたついでにホーも武具状態で来たのだろう。


《ああ、誰が呼ばれたかだな。うむ、たしかに俺が答えを告げるのも簡単だ。しかし、あえて言おう──己が目で確かめよ!》

《……ああ、やっぱりお前も俺の眷属だな》

《? 何を異なことを。当然だろう、意志ある者が抱く象徴たる【希望】の具現化。そして、貴様──メルスの願いに応える者。それこそが俺を構成する概念だ》


 ……その説明でどうして某王様が脳裏に浮かぶような口調になるのかはともかく、彼女(断定)も俺のノリに合う形で生まれた。

 仮にイメージ通りの人物だったなら、もっと雑に扱われるか計算したうえで無下に扱われるだろうに……いやまあどっちも同じな気もするが、それとは違う答えのようだし。


《でも、今の俺ってもう体が死んでいるような状態なんだが?》

《安心しろ。俺の力は新たな段階を迎えている。貴様の体程度、容易く操れる》

《おおっ、頼りになるな!》

《俺の主たる貴様が、世界の理程度で縛られるな──“千変装身”!》


 ホーが能力名を告げると、突然目の前に金色の球体が姿を現す。
 そしてそれは、ゆっくりと俺に近づき──身に纏う羽衣となった。


《使え! 俺を身に纏う間、肉体の枷から解き放たれる。つまり、この場に留まる必要性が失せるのだ》

《嗚呼、やっぱりお前は俺の眷属だよ。他の誰でも、モチーフのキャラに近しいヤツでもない。俺の眷属ホー、これからも支えてくれると嬉しい》

《……。疾く行け。言っておくが、俺は俺でしかない。そして、これから貴様が俺に縋る限り、このようなことは起きぬと確約してやろうではないか》

《…………ホー様って呼んでいいか?》


 なんか王様って言うのと発音が似ている、とか思っている間に意識が浮上していく。
 あとで必ず受肉させよう、そう考えを決めて元に戻っていくのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 意識が戻って最初に行うのは、いったい誰が召喚されたのかを確認すること。
 最悪の場合、洞窟が倒壊していてもおかしくは無いからだ。

 幸いにも空から光は差し込んでおらず、今なお喧騒が遠くから聞こえてくる。
 つまりまだ暴走はしていない……そう安堵し、溜め息を吐いて──あることに気づく。


「……膝枕?」

「ご迷惑でしたか? でも、マシューがぜひやった方がメルスさん……じゃなくてノゾムさんが喜ぶと言って聞かなくて。やっぱり、私がやるよりもマシューがやった方が……」

「もちろん最高だよ。ありがとう、リュシルお姉ちゃん」

「おねっ!? ……こ、こほんっ、あんまり無茶をしちゃいけませんよ。もう、めっ!」


 リュシルの何かにヒットしたようで、急に対応が普段の三割り増しぐらい優しくなる。
 いったいどうしたのやらと考えていると、メイド服姿の少女が一人現れた。


「ご説明しましょう。開発者ディベロッパーはショタコンなのです」

「なるほど……有無を言わさない単純明快な説明、ありがとう」

「ショ、ショタコンじゃありません! こ、これは……えっと、そう! メルスさんの子供としての姿が──」

「なんたる墓穴でしょう。創造者クリエイター、ご感想をお願いします」


 自身の助手に誘導されにされまくった結果がこれとは……なんとも反応に困る。
 まあ、俺も気持ちは分からんでもないからな……フォローしておこうか。


「僕もいつか、リュシルちゃんといっしょにお話ししたいかな?」

「~~~~ッ!?」

「あ、リュシルお姉ちゃん!?」

「これはこれは、さすがは創造者。開発者にクリティカルヒットですね」


 マシューが何か言っているが、リュシルを止めるのが先決だ。
 早まらないで、そっちにはボスが居るんだから……照れ隠しで殺さないで!?


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