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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド後篇 その08

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 キップル渓谷(?)


 眷属たちが人知れず無双を繰り広げる、隔離された亜空間にて。
 転送されてきたキメラ種たちを倒し続けてきたが、その状況にも変化が起きている。

 ナックルが訴えてきたように、転送への抵抗が強まったせいで来る数が減っていた。
 情報を糧に成長はしているようだが、眷属たちからすれば誤差の範囲である。

 だが、ここに来て特殊な個体──人型キメラ種の登場だ。
 武術モドキを身に着け、知恵を練るようになったのを眷属たちは受け入れた。


《──その結果がこれか。真面目に戦っている人たちが見たら、絶対に泣くだろうな》


 おそらく、ナックルが周囲にバレないよう必死に転送に成功させたであろう人型。
 数十体は居たであろうそれらは──四足型共々、すべてが死骸に成り果てている。


「そこまでのことだろうか? それよりも、面白いことが分かったぞ」

《そりゃあ命懸けでやっているんだぞ? なのにそんな相手が、並み居る雑魚扱いされている……心が折れるだろ。まあそれはそれとして、面白いことってなんだ?》


 この場に居る眷属は、そのほとんどが外部に出せないからこそ収よ……隔離された。
 そして彼女──死霊術師でもあるネロは、その観点からキメラ種を調べたようだ。


「まず、メルスがネットワークと呼んでいるキメラ種同士の繋がり。微弱ではあるが、どうやら繋がっているようだぞ」

《っ!? マジでヤバいだろ……それ、なんとかできるか?》

「繋がっているのは人型のみだ。そして、送信はできていない。一方的に送られてくる情報を、未だに受信できているだけだ」

《ならいいか……いや、いいのか? それを利用することは可能か?》


 今回の騒動のキメラ種は、『万蝕』という『超越種』の牙を基に生みだされた。
 人型や四足型も、共にその劣化版を口内に差し込んでいる。

 その牙とキメラ種そのものの性質で、構築されているのが彼らのネットワークだ。
 だが、亜空間に干渉できるほどに成長していたとは……なんとも厄介な。

 とはいえ、起きたことは仕方がない。
 ならばそれを利用し、自分の益としてしまう……何もおかしくは無いだろう。


《キメラ種が己を強化するために必要な情報に、ウィルスを盛りたい。一見すれば強化されても、実は裏がある……みたいなものを》

「それは吾の専門外であろう。だが、いわゆるハッキングには興味がある。『超越種』の劣化品とはいえ、それなりに格はある。そのうえメルスのような祈念者用に強化されている……魂魄もそれなりに強化されたはず」

《そりゃあ、充分にされているとは思うぞ。というわけで、ハッキング可能なところまでキメラ種を弄ってくれないか? ウィルスの方はグーがやってくれているし》


 サルワスの近海で、ほぼ単独でキメラ種たちの情報を蒐集しているグー。
 その情報の中には、いかにして情報を送受信しているかというものもある。

 そこから探り続ければ、いずれは誤情報を送ることも可能だろう。
 グーもそれができないかどうか、とっくの昔から調べてくれている。


「──ならばメルス、これらはどうする?」

《……正直ちゃんと処分してほしいけど、どうせ嫌なんだろう? 人前には出さないようにしてくれよ》

「ふふん、分かっているではないか。どうせ母体は祈念者共が使うのだから、これらは吾の研究に使っても良いだろう?」


 そう言って、自身の負の魔力を人型のキメラ種たちに流し込んでいく。
 それらは体内を巡り、やがて虚ろな挙動でキメラ種たちを動かす源となる。

 方法は他にもあるが、今回は己の力と周囲の死骸から発せられるエネルギーで賄っての発動らしいな。


「使役もできるようだ。そちらへの制限はあまり無いようだな」

《グー曰く、結構厳重にプロテクトを掛けてあるとのことだが。まあ、ネロならそんなの無いも同然か》

「……。ふっふっふ、不思議とやる気に満ち溢れてくるな。まだ慣れぬものだ、この想いとやらには」

《? まあ、頑張ってくれよ》


 なんだかアンデッドにする速度が上がったようだが、モチベーションが上がったのか?
 何はともあれ、眷属たちは力を合わせてキメラ種たちの処理に励んている。

 ──さて、そろそろ現実に目を向けよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの街


 いったん休憩ということで、キメラ種たちに包囲されたこの街で絨毯を停止させた。
 だが厳密には急速ではなく、動きながらでは行えない救援をやっているだけ。

 俺にだけ休むよう言って、彼女は街周辺のキメラ種たちを屠るために駆けている。
 やはり、本人がどう嘆こうと『勇者』としての資質は十二分にあった。


「──まあ、そんなわけで少し時間が空いたみたいだからね。この姿のままで悪いんだけど、お邪魔させてもらったよ」

『……そうか。好きにしろ、その分の対価は貰うがな』

「素材は貰っているし、手が休まらないだけで心は休まるからね……うん、アレは結構辛かったかもしれない」

『?』


 俺は俺で、ボスが持つ拠点の一つで錬金術に勤しんでいた。
 エクラが働いている間、俺も何かしようというわけだ。

 ポーションも足りないし、やっておいた方がいいだろう。
 ボスが構成員経由で届けてくれた素材を使い、ただひたすら量産していくのだった。


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