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偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド後篇 その06
しおりを挟む三人寄れば文殊の知恵。
まあ要するに、いろんな意見があれば問題は解決できるということわざだ。
だが、まったく同じ考え方を持つ奴が何人いたところで大して意味など無い。
そもそも把握している情報が同じなのだから、奇抜なアイデアなど出ないだろう。
「結局、ここに来ちゃったな……まあ、あそこにいるとずっと狙われちゃうもんね」
そんなわけで、現在は帝国首都に居る。
安全な場所で答えを見つけるためだった。
街の中をふらふら彷徨っているのだが、戦闘職・非戦闘職問わず祈念者が多い。
祈念者の中でも実力者が集う場所なので、この非常時でも集まっていられるのだろう。
初心者を救いたい、とかそういう心が無い奴は、強くなるためにここに居るだろう。
現実時間を[時計]機能で調べたところ、今は休日昼の時間帯。
学生たちも[ログイン]しやすい時間帯なので、なんとなく納得がいった。
……大人の方々はまあ、ワールドクエストが出た時点で有休でも取っていると思おう。
うん、仮病とかサボりとか、平日まで行ったらどうするのかなんて気にしないぞ。
「さて、こういうときに便利な情報の伝手が在ればいいんだけど……ナックルからはもう聞いたし、誰かいないか──」
「あっ……」
偶然見つけたのは、黒いコートと二振りの剣がトレードマークのパクリ野郎。
最近は時々妖精の翅を付けて、幻影を生み出すアイテムで楽しんでいるとのこと。
「──『魔壁』」
「うおっ! ……おい、なんで邪魔する」
「そういうのはいいから。それより、知ってること全部教えてよ」
「クソ上司が……今回は休暇扱いでいいって話だったろう」
正確には、自由にしていいと命じていたのだが、まあ同じような意味合いだろう。
ただし、それは暗躍させることが難しいからであり……必要なら話は別だ。
「で、何が聞きたいんだよ。ったく、ショタだったりロリだったり、何でもありかよ」
「うーん、ペナルティはあとで与えるのが確定になったからいいとして。そうだね、ここの状況が聞きたいかな?」
「……藪蛇だったか」
舌打ちをするこの男──リヴェルだが、聞かれたことにはしっかりと答える。
なので俺も彼を信用して、こうして情報を教えてもらっているのだ。
「お察しの通りだが、最初は『英雄』様が好き勝手やって倒してた。で、だんだんヤバくなってきたところで、『勇者』様の女の方が来てこの膠着状態に陥ったわけだ」
「ふーん、誰か活躍している人は?」
「……そういや、自由民連中は全然顔を出してねぇな。特に皇帝様は何もしてないし、唯一分かってるのはあのヤクザ組だな。戦闘よりも支援重視だが、キメラも倒せているから内側を気にしなくていいって認識だ」
「そっか、いいヤクザさんなんだね」
間違いなく、オジキ率いる『一家』の面々だろう。
彼らの働きもあって、無事に国民たちは安全に隠れられているわけだ。
戦場での活躍よりも、罪なき人々を守ろうとする辺りが実にオジキと彼ららしい。
戦場の方に出ていれば、祈念者の大半の功績よりもいい結果を出せるだろうに。
だが、気になるのはそこではなく皇帝。
そりゃあいろんな理由で二度も帝城へ潜り込んだけども、それなりに時間も経過しているので傷は癒えたはず。
なのに動きを見せていないのには、何か理由があるのだろうか。
……たとえば、祈念者だけを戦わせるよう指示されている、なんてな。
「これが俺の知っている情報の全部だ。もう充分か?」
「うん、ありがとう。とりあえずそうだね、ある程度聞きたいことは分かったよ」
ディーをしばらく呼べない以上、遠出をするのは難しい。
ここで何をしているのかは知らないが、しばらくは放っておいてやろう。
「それで、これからどうするんだ?」
「特に決めてないけど、まあここからは出ていくつもりだよ。その後のことは考えてないけど……そのうちなんとかなるよ」
「巻き込まないならそれでいいが……まあいいや、何かあったら連絡しろよ」
「はいはい、分かりましたよーっと」
そんなわけで、俺は帝国を去る。
それを止める者は誰も居なかった。
◆ □ ◆ □ ◆
止める者は誰も居なかった……がしかし、共に来る者は一人居たらしい。
「えっと、どうしてここに?」
「……ってください」
「えっ? 今、なんて──」
「わ、私を、昏き冷洞まで連れて行っ……ぷぎゃっ!」
なぜか俺を追いかけてきたエクラは、意を決して頼みごとをしてきた。
一歩前に進もうとしたのか、脚を出した瞬間に転ぶのは物理法則が壊れたと思ったが。
だが、それと同じくらいそうなるだろうなと予測していたので、体を支えられた。
恥ずかしい姿を(外見年齢が)幼い子供に見られたせいか、顔を赤らめる彼女。
「洞窟まで行きたいの?」
「そこに今回のクエストのボスが居るとの情報を、ヴィントさん……凄い祈念者の方から聞きましたので」
「ふーん、そうなんだ……」
どういう魂胆があるのかは不明だが、問題解決には彼女が居た方がいいだろう。
やることも無くなって暇だったのもまた事実……もうひと踏ん張り、してみますか。
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