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偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド中篇 その13
しおりを挟むそれなりにレベルは上がっていた。
しかし、この縛りプレイにあんまり高いレベルは要らない……ほら、少年の見た目なのに強すぎるのもアレだしな。
「というわけで、レベルもポイントとして捧げられるようにしてくださいな」
《せっかく転生や進化を選ばせ、誰の種族にするかで激しい闘争を繰り広げる予定だったのですが……よろしいのですか?》
「それを聞いて、僕がやっぱり無しでなんて言うわけないでしょ。ほら、お願い♪」
《くっ、ころころと表情を変えたって屈したりしないんだから》
相変わらずのアンによる(おそらく)無表情無抑揚での『くっころ』を聞いていると、システムに新しくレベルを捧げる画面が表示される。
正しくはレベルではなく経験値、これならどれだけレベルを下げても等しい変換量だ。
今のレベルはなんと200、正直キメラ狩りを頑張り過ぎた感はする。
それらを一気に……は怖いので、100ぐらい変換に回す。
レベル100もあれば、普通なら進化もできるので問題ないだろう。
「ねぇアン、今さらだけどレベルは貸与と交換とどっちなの?」
《交換ですね。そのため、ポイントはスキル封印とは別枠で。そして少々お高めでのご購入となっております》
「道理で、さっきよりも数字の桁数が跳ね上がっているわけだよ。うん、まあそれでも別にいいんだけどさ」
《なお、スキルの場合、表示されるのはすべてメルス様が熟練度を1でも獲得できたモノのみとさせていただいております。上げては下げてを繰り返し、チートスキルを獲得という流れにはなりませんのでご了承を》
……全然ご了承したくなかったが、泣く泣く諦める。
つまり、少しでも俺に獲得のチャンスが無ければ無理というわけだ。
俺の初期を支えてくれた、超絶チートたる経験値ブーストの{感情}シリーズ。
内包される<美徳>と<大罪>(あと<正義>)のスキルは、本来俺に資格など無い。
なので、彼女の設定通りになれば、俺がそれらのスキルを得る可能性は未来永劫失われるわけだ……貸与の方を確認したが、そちらもそちらでポイントが破格過ぎたよ。
「……ま、まだだ、それでもきっといいスキルがあるはずなんだ。どこかに……どこかに当たりが──あった!」
それを見つけたとき、思い出したのは過去の出来事。
それは才能の差を、凡人と天才はやはり違うのだと目に見えて証明されたとき。
だが、ある意味では布石だったのかもしれない……すべてこのとき、ほんの一時でも悦びを得るための。
「鑑定スキル、ゲットだぜ!」
《……言ってもよろしいでしょうか?》
「えっ? そもそも才能があればとっくに習得していたし、地道に頑張れば熟練度的に習得できたかもしれない……って意見以外なら聞くけど?」
《うぅ……御労しやメルス様。ニィナ様との才能の差だけでなく、努力の差までここまで開きがあるとは……》
まったく以って否定できない言葉に、正直土下座をしたくなる。
二ィナは俺と縛りプレイをしていないときでも、さまざまな努力をしていた。
今は他の幼少の眷属たちと学校に通っているが、そちらでも力を蓄えているだろう。
だが俺といえば、まだまだ研鑽が足りていない……精進しないとな。
ともあれ、久しぶりに鑑定スキルを得ることができた。
普通の奴なら、レベルを100も下げるという代償なんて支払わないだろうけど。
「“鑑定”×100っと……対象が多いから一気にレベルを上げられるな」
一度鑑定したモノを視ても、一定期間は経験値が貰えない鑑定。
だが逆に言えば、違うなら大量に鑑定するだけで育てることができるということ。
キメラ種は大まかに言えば『合成獣』なのだが、内包する因子の違いで異なる存在として表示される。
そして今回のキメラ種は、ワールドワイドに魔物の性質を集めた超ミックスなキメラ。
文字通り、千差万別なキメラ種たちに溢れているわけで……ボーナスタイムである。
なお、俺の現在座標は空の上、鑑定も使うと減る魔力はどんどん増えてしまう。
おまけに一定の格があるキメラ種は、鑑定されたことに気づいている。
「そうしたらこうなるよね……ディー!」
『ピー♪』
「今の僕は一気に弱くなったから、今は君に頼むよ──“光速転下”!」
『ピーーーッ♪』
光魔法“光速転下”。
文字通り光の速さで進むことを目指したオリジナル魔法を、ディーに施す。
ディーもまた、その姿をスズメほどのサイズから俺でも乗れる巨鳥に変える。
乗り心地は……気にしている暇が無いので諦め、身体強化などで耐える準備を行う。
「一気に飛んで──GO!」
『ピーーーッ♪』
あえて地上スレスレを飛ぶディー、その衝撃波はキメラ種を吹き飛ばしていく。
祈念者たちから離れた場所でやっているので、被害は……あっ、最小になってます。
限りなく少ない、だがゼロではない被害者たちに弔いの念を送りながら、彼らからも貰えたであろう経験値に内心ウハウハな俺。
うん、仕方のないことなんだよ。
だからお願いします、このタイミングで新スキル獲得は無しで!
《──スキル:人族殺し、辻斬を獲得しました。ちなみに後者は、ディー様の速度が光速なので体が切り離された者いるからです》
「……Oh!」
『ピー?』
残酷なアナウンスをされ、ディーの上で土下座をしてしまう。
嗚呼、どうしてこういうスキルに限って習得が速いのだろうか。
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