2,041 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド中篇 その10
しおりを挟むE1 始まりの草原
そんなわけで、縛りに若干の変更を加えて再び街を出る。
今なおキメラ種たちが跋扈する地だが、祈念者たちが必死に戦って道を開いている。
「それじゃあさっそく──[ディー]!」
『♪』
「何か乗りやすい形になってくれるかな? あと、速い感じで」
『ウォンッ♪』
スライムの姿から狼の姿になったディー。
その背中に跨ると、付与魔法で俺とディーに強化系の魔法を使っておく。
スキルの方もてんこ盛り。
体幹などの身体系スキル、俺個人だけでなくディーごと隠せる隠蔽系スキルを起動。
あとは模倣と再現のスキルを使って、まだ得ていない騎乗スキルを真似る。
実際に持っているスキルだし、無くても使えるようにやり方は学んでいた。
なお、騎乗スキルの獲得方法は、ずっと何かに乗っていること。
派生する乗り物が制限されたスキルは、特定の何かに乗り続ければいいらしい。
「あとはこれだね──『業錬黒死』!」
『ウォフ?』
「これはキメラ種によく効く毒なんだよ。一滴上げるから、ディーも牙や爪から流し込めるようにしておいてね」
『ウォンッ♪』
書物に記された数少ない錬金毒。
リュシルの持つ本の中に載っていたので、面白半分で復活させてしまった。
そんな毒を一滴、ディーに垂らす。
すると体をブルリと震わせ、だんだん体の色を黒く染め上げていく。
この毒の特徴は、何から何まですべてを黒く──邪に汚してしまう点。
皮膚、血液、そして魔力……負の力で染め上げられたそれに、正常な活動は不可能。
アンデッドなどにはもちろんのこと、最初から黒い個体──つまり邪気を帯びた魔物などにも大した効果はない。
だがそれはない魔物、そして人族──特に聖人などには絶大な効果を発揮する。
なので異名は『聖人殺し』、聖気を蝕む邪気以上に扱えない奴は確実に一人だと死ぬ。
「まあ、ディーはありとあらゆる因子が入っているから大丈夫。僕が倒した邪小鬼も、それ以外のいろんな邪気を使える魔物の力も使えるもんねー」
『ウォーン♪』
ディーが狼の声帯で咆えると、黒くなっていた体はすぐに元の半透明な色へ。
代わりに牙の部分だけが、先ほどの黒さを圧縮したような濃密な色になっている。
爪の方にやらないのは、地面を介して広がらないようにという配慮だろう。
そういうことができる偉い子は、頭を撫でておくのが一番だ。
『ウォフ♪』
「よーし、さっそくキメラ種で実験だ!」
『ウォンッ♪』
奥に行くにつれて、掃討する祈念者が居なくなり目撃数が増えるキメラ種。
草原からやや樹木が生い茂っていた辺りへ来たところで、それなりの数を発見。
ディーに攻撃を指示すると、強化された狼の機動性でキメラ種へ近づき──噛みつく。
その途端、毒は牙を介してキメラ種を蝕み始める。
初めの内は特に変化は無かったが、しばらくすると黒いシミが体に出来始めた。
普通の毒ならすぐに解毒されるが……なかなか消えず、むしろ増えていく。
倒れ込み、何もできなくなるとそのまま体が黒に染め上げられるまでに僅か数十秒。
キメラ種は錬金毒という天敵によって、抗うこともできず亡くなった。
「さて、本題はこれから。キメラ君たち、お仲間が死んじゃったよー」
すぐさま彼らは、黒くなったキメラを食べ始める──そこに毒への忌避感などなく、ただある獲物を食べるという本能だけが宿っている。
そう、本来なら強力な毒でも死体を喰らうことで、耐性を少しずつ獲得できただろう。
しかし、これは錬金毒……人の業の深さはそんな自然淘汰の理すらも超越する。
「普通の暗殺の毒なら、使った後は分からないように証拠隠滅ーってなるけど。これを生み出した人は色んな意味で頭がおかしいよ」
『ウォフ?』
「バレなきゃセーフ、つまり場に居る奴が全員死ねば問題なし……ってね。黒は広がる、人の悪意のように」
疫病のように蔓延するわけでも、邪気が悪さをしてアンデッドになるわけでもない。
ただ、黒が文字通り蝕んだ個体をすべて呑み込んだ時──物理的に証拠が隠滅する。
端的に言ってしまえば、周囲を巻き呑んで消えるのだ。
肉体が邪気に還元され、周囲の者を諸共に巻き込んで。
今回はキメラ種たちが食い合うので、最後の最期まではその現象は起きないだろう。
しかし、最期の一匹になれば起きるはず、そしてその情報はどこにも届かない。
『ウォフ?』
「えっ、どうしてそんな便利な物が使われなくなったかって? それはね、これを使っても経験値が貰えないからだよ。それなら普通に暗殺した方がいいって、暗殺者からも見捨てられちゃったんだよ」
『ウォ、ウォフ!』
「うんうん、そんなこと言ってないよね。少し言いたかっただけ。これは人の負の遺産、だからヘルメスお姉さんにも教えないでおいたんだ……持っているのが分かったら、今みたいな扱いじゃすまないだろうし」
ちゃんとギルドに居たことから、行いのすべてが悪行とされているわけではないはず。
だが、錬金毒は基本的に所持を明らかにすれば犯罪となる。
種類によっては死刑、祈念者の場合はしばらく牢獄のお世話になるほどだ。
……さすがに俺も、そこまで鬼畜では無いからな。
ディーに跨りながら、そんなことを思いつつ目的地へ向かう。
騎乗スキルも先ほど得たし、もっと加速して行こうか!
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる