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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド中篇 その07

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 シンフォ高山 ヘルメギストスの研究室


「……もう一回やる必要、あったの?」

「…………」

「いや、いいんだけどね。まさか、複数の方法で入れるようになっているなんて」


 再び洞窟を経由して、彼女の研究室へ戻ってきたのだが……それは一度目に入った洞窟ではなく、また別の洞窟。

 そこにもまた、最初の洞窟とは異なる仕掛けで鍵が掛けられていた。
 そしてその先に転移陣があり、それを用いることでこの部屋へ戻ってきたわけだ。


「……なんで?」

「ああ、転移陣が使えなくなっていたってことかな? 意図して破壊されていたけど、それなら再接続をすればいいだけだし。無から再構築するのは無理でも、一度ここで見ていたからね」

「天才か?」

「ううん、それは別の人。僕はただ、愚直に繰り返すだけだよ……ところでお姉さん、何しているのかな?」


 完全記憶や瞬間記憶のスキルは使えないものの、人は努力で記憶力を高められる。
 脳への身体強化、そして技術的な記憶術を行うことで必死に陣を覚えていた。

 それをこれまでの生産や魔法の研鑽で得た知識を使い、復元したまでのこと。
 お陰でその前の罠解除も含め、スキルを得ることができたよ。

 さて、そうして入ってきた研究室では、ヘルメギストスが何かを行っていた。
 そこにはキメラ種から得たであろう大量の素材、そして成分解析の魔法陣。


「対キメラ用魔法薬の生成」

「そんな物できるのかな……ううん、できないわけじゃないか。対スライムの魔法薬も、特定の魔物に効く魔法薬もあるもんね」

「そう。ただ、あれらはその種族に合わせた弱体化を行っているからこそ通用する。でもキメラ種は、それぞれの個体ごとに有している性質が異なる場合がある。だから、これと言った性質を特定しなければならない」

「なるほど……それでこれなんだね」


 彼女なりに調べてくれているのだろう。
 スライムであれば核の露呈、そうして種族の優位性を引き剥がすことで人々は戦いを優位にしてきた。

 キメラ種もまた、そうして何らかの性質を失えば優位に戦えるだろう。
 ただし、その性質を持っていない……あるいは剥奪に失敗すれば意味が無い。

 だからこそしっかりと調べて、効果のある魔法薬を生み出そうとしている。
 何よりそれを、簡単かつ安価で得られるように工夫を凝らしていた。


「けど、だからって……それはダメだよ」

「なぜ、一番効率的」

「──その牙はだからダメなんだよ。調べようとしたら、尋常じゃないほどに時間が掛かるでしょ。お姉さんがいつそれを見つけたのかは知らないけど、一度はもう試したんだよね? もうやっていそうだもん」


 何も言わないのが何よりの証拠。
 まあ、俺だって調べることにリスクが無ければやっていそうだし。

 だが、格の差があり過ぎる以上、いかに極級職と言えども難易度は高い。
 なんせ相手は『超越種』の一部、切り離されていようとも、その力は健在だ。


「だから別の方法を選ぼうよ」

「?」

「その牙とキメラ種の牙を比較して、その差異を見つける。本物じゃない部分から、共通部分を探すんだよ」

「同一ではなく?」


 彼女の言う通り、同一点を探せば後に活かせるかもしれない。
 しかし、必要としているのは今……そう長くは持たないだろうし。


「考えてみて。模倣できなかったから、劣化して補っているんだよ。お姉さんが完璧を、錬金術の力を発揮したいのは分かるよ。だけど、そうじゃない部分だからこそ、今は必要とされているんだ」

「……けど」

「そうだ、ならこうしよう。これが僕からの初めての依頼。対クエスト限定キメラ種の、劣性因子を破壊できる魔法薬の生成! 嫌でも何でも、それを作ってね。もちろん、その後でなら好きにやってくれていいから」

「……………………分かった」


 だいぶ熟考したようだが、渋々といった表情で了承するヘルメギストス。
 彼女なりのプライドもあるだろうが、今回は折れてもらうことにした。

 嫌がられるかもしれないが、さすがに歓声に時間が掛かるだろうし。
 ヘルモードのゲームを、あえて縛りプレイで挑むような面倒臭い作業だろうからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ネイロ王国


 眷属を派遣し、守らせていた王国。
 しかしこの国は始まりの街から比較的近い国ということもあって、それなりの数の祈念者たちが集まっていた。

 そのため、初期はあえて手を出さずとも処理出来ていたたので傍観を選択。
 ピンチになるのを待っていたようだが……そろそろ出番らしい。


《──というわけで、頼むぞ二人とも》

「いいの、やっていいのごしゅじんさま!」
「グラ、僕たちの行動は引いてはご主人様の行動として取られるんだよ。もっと慎重にやらないと」

《気にしなくていい。やりたい放題とまではいかないが、二人の意思を尊重してくれ。無茶はしなくていい、自分たちが確実に勝利するために全力を尽くせ》

「分かりました」
「やったー、食べ放題だー!」


 セイとグラ、二人の武具っ娘たちは迅速に行動を開始する。
 グラは糧を求めて戦場へ、セイは援護射撃のために防壁へ向かった。

 ──さて、見せてもらおう二人の戦いを。


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