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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド中篇 その05

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 爆弾実証実験のため、俺とヘルメギストスはシンフォ高山でキメラ種を集めていた。
 彼女は爆弾の準備のため隠れ、俺は──


「ああああああああ! ちっくしょぉお!」


 もう、可能な限り走るためのスキルを起動して全速力。
 そして扇誘体質スキルでキメラ種を招き、指定ポイントへ急ぐ。

 声を上げるのは酸素の無駄遣いだが、その分だけ強化バフがスキルの補正で入る。
 ついでに魔力で声を強化しているので、時折硬直状態に入ってくれるのが助かった。

 そうこうしていると、[ウィスパー]機能経由で連絡が入る。
 準備ができたとのことなので、指定座標へキメラ種を可能な限り集めていく。


「頼むぞ──“扇誘体質”全開!」


 パッシブ状態からアクティブ状態へ切り替えると、集まるキメラ種の数が増大する。
 具体的に言うと、よりレベルの高い個体も己の理性が耐えられなくなってやって来た。


「や、ヤバい──『守らナイト君』!」


 お察しの通り、ヘルメギストス謹製の結界構築魔道具(お一人様用)。
 名前のごとく、使用者を外敵から一定時間だけ完璧に守ってくれるらしい。

 ……そんな結界が、物凄い勢いで破壊されようとしている。
 そうして結界が崩壊しようとしているその瞬間──


【伏せて!】


 届いた[ウィスパー]に従い、すぐさま地面に倒れ込む。
 念のため、耳を塞いだうえで口を開けておくなどの対策もしておく。

 キメラ種が致命的な一撃を叩き込もうとしたそのとき──爆弾は作動した。
 地面にセットされていたそれを、遠隔操作でヘルメギストスが発動。

 周り一帯を一キロに及ぶまで、灼熱の炎が半円状に広がっていく。
 とっさに逃亡を図るキメラ種もいたが、気づかぬ個体諸共に呑み込まれていった。


「ぎゃぁああ! 目が、目がぁ~!」


 一方の俺は、爆弾の性能を見ようと開いていた目をやられていた。
 慌てて“光量調整ライトモデュレーション”で入って来る量を減らしたが、それでもかなり痛みを感じる。

 あまりに強力だったのだろう、これ以上は受けたくないとばかりに盲目耐性を獲得。
 目が見えなくなる、それなら光でも闇でもどちらでも対応可能な耐性スキルだった。

 爆発による影響がだんだん薄れると、回復系のスキルが全力で目を癒していく。
 明瞭になっていく視界は、やがて爆弾の成果を俺の瞳に映し出す。


「……これは」

【どう?】

「たぶん、やり過ぎかな……じゃないや、殺り過ぎだと思うよ」


 古来より、人は爆弾に魅せられてきた。
 ノーベルなダイナマイト然り、ジャパンで猛威を振るったアレ然り。

 魔法の存在しない世界において、一方的かつ広範囲を蹂躙できるまさに魔法のアイテムとして……そしてそれは、ファンタジー世界においてもその名を轟かせることになる。

 爆弾が作動した結果、俺の周囲を守っていた結界以外がすべて蒸発。
 その部分を刳り貫き、綺麗な半円が爆発とは逆向きに形成されている。

 キメラ種の死骸などもいっさい残らず、灰すら残らず消え去った。
 しいて言うなら、その高熱の影響で地面がガラスになっているぐらいか。


「……これ、ボスも倒せちゃうんじゃないかな? 試してみる?」

【無効化持ちには通じないはず。それに、コストが掛かり過ぎる】

「そうだね……今ある分じゃ、もう用意できないもんね」


 ……こっそり<複製魔法>を解禁して増やしたのは、内緒にしておこう。
 平時の魔力量ならともかく、まさかの魔導一発分ぐらいは必要だったしな。


「よーし、フレンドリーファイアもちゃんと防止できていたし、これなら僕一人でも試せそうだね」

【近くにキメラは?】

「……居ないみたいだね。さっきのが、やっぱり殺り過ぎだったみたい。一回、お姉さんの秘密基地に戻ろうよ」

【工房】


 なんてやり取りをしながらも、俺たちはキメラ種を警戒しながら元の洞窟を目指す。
 ……ある意味まったりできているが、そう長くは持たないかもな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ??? 擬似キップル渓谷


 眷属たちが猛威を振るい、キメラ種たちを屠り続ける擬似空間。
 内部での影響は外部に漏れないため、どれだけ破壊活動を続けても問題ない。

 とはいえ、そんな空間を運営神にもバレないように維持するのは一苦労だ。
 リオンやGMたちに少し手伝ってもらっているが、それでも隠すのは大変らしい。


《レン、報告の方を頼む》

「主様。キメラ種の取り込み数は現在、万を超えました。そのため、維持に掛かる費用に関しては問題ありませんが……外部からの輸送数を減らした方が良いかと進言します」

《まったく以ってその通りなんだが、需要と供給がな……ほら、まだ足りないって言うのもあるが、結構苦戦しているみたいなんだ》


 万のキメラ種を利用して、それらを還元。
 得たポイントを使って維持を行う、空間型の迷宮……それが現在、眷属たちが戦い続ける舞台の正体。

 だがその維持はともかく、外部から与えられるキメラ種の数がどんどん増えていた。
 それは俺がナックルに、そうするよう指示したからでもある。

 けど、元を正せばそれもまた、眷属たちがキメラ種の増加を求めたから。
 こういう問題もなんとかしないと、後が大変になる……どうしたものか。


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