2,035 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド中篇 その04
しおりを挟む「「完成!」」
俺たちは共に、錬金釜から生みだされたアイテムを見て歓喜の声を上げる。
貴重な素材、高度な術式、膨大な魔力を基に思いっきりやってみた。
その結果、釜の中には小さな箱のような物が一つ。
だがそれは、本来生みだせるはずの無い代物……生産神の加護も知らないアイテム。
「お姉さんの職業は凄いね。絶対に失敗が無くなる能力、いくら何でもチートすぎるよ」
「失敗物はそうすることで、処理を簡易化させている。だから逆に、アイテムとして形を与えると悪影響になることもある……こんな風に」
「……なんだろう、凄い電子レンジでチンしたゲル状のバナナみたい」
ヘルメギストスの職業は【錬禁術師】。
極級の職業な【錬禁術師】の能力は、既存概念に囚われない錬金を行えるというもの。
彼女の見せてくれたモザイク必須なアイテムは、錬金の配合や手順を間違えれば失敗するという法則から外れて、新たに生みだされたナニカ。
一度作ればそれはレシピ化が可能となり、誰でも作れるようになるんだとか。
……ただし、それを作る過程をまったく同じにしないとただの失敗物になるらしい。
爆弾もまた、そうして既存の作り方ではできない超危険な方法で生み出した。
これで他の錬金術師もまた、キメラ種への抵抗策を一つ得たわけだ。
「お姉さんの能力はアレだね、先駆者みたいなものだね。誰もがみんな理解できるってわけじゃないけど、その道を辿る人が追いかけることができるように、整備してくれている感じかな?」
「……考えたことが無かった」
「えー、ちゃんと考えた方がイイよー。だってこのレシピだって、簡易化した物を作る予定なんでしょ? 物は使う人次第って言うけど、そもそもその物自体が無ければ、そんな話すらできないんだから」
麻薬を作っていたヘルメギストスだが、命名通り彼女の用途は鎮静である。
それを悪意ある人々が使うから、副作用としての快楽を求めてしまう。
もちろん、生みだした人にいっさいの責任が無いとは言わない。
俺のように、偽善で作って物を広めて、ロクな結果を生まないこともあるだろう。
それでも人は、歩みを止めないのだ。
ならばせめて、覚えていてほしい──本来そのアイテムが、どういった願いを基に生みだされたのかを。
「……まっ、僕の場合は偽善だから、そこら辺は曖昧な方がいいんだけど」
「?」
「ううん、こっちの話だから気にしないで。それよりも、これの性能をテストしておいた方がいいかもね」
小型の爆弾なので、投擲しても使える。
また、予め登録した魔力波長を送ると爆発する……なんてことも可能だ。
こちらもまた、既存の爆弾と言う概念に囚われない自由性を秘めている。
範囲指定、敵味方識別など……魔物由来の素材を交えて強引に成し得ていた。
「というわけで転移しようか。お姉さん、ここに転移陣は?」
「奥に一つ。行き先はここから少し離れた別の洞窟」
「そっか。お姉さんがアレを持って動けば、勝手に付いてきてくれるだろうし……実際に使ってみよう!」
「……陣の起動に時間が掛かる。チャージが必要だが、ついさっき使ったばかり」
錬金術師のヘルメギストスは、空間魔法などを持っていないようで。
代わりに魔法陣を、自然魔力の充填で使えるようにしているらしい。
「なら、僕がやるよ。お姉さんがダメなら、別にいいんだけど」
「そんなことはない。なら、来て」
緊急用の脱出口なのか、これまた何度か仕掛けを解除して向かう部屋の奥。
隠さないのは、どうせ解除されるからとでも思っているのだろうか。
まあ、経験を積んだお陰で罠解除スキルも得られたので、前以上に簡単だろうけど。
……発見スキルはまだ無いから、このままだと『解除(物理)』しかできないがな。
◆ □ ◆ □ ◆
罠に魔力を充填していると、いくつかスキルを得られ……ればよかったのだが。
有用な物であれば、魔力操作の派生から魔力放出や魔力圧縮なども得られただろう。
だがしかし、俺は凡なる才能の持ち主。
先ほどは何故か一発だったが、普段はスキル習得にかかる時間が尋常ではない。
「…………罠だから。解除して、利用するところまでが僕の才能の範疇に入っている、とかだったらヤだなぁ」
「どうかしたか?」
「ああうん、僕ってあんまりいいところが無いなぁって自己嫌悪に陥っているだけ」
「……?」
まあともあれ、魔力をチャージしたことで無事に魔法陣は作動。
言われていた通り、転移した先もまた洞窟の中だった。
そこから外に出れば、入った洞窟から少し離れた場所……あくまで逃走用だな。
一方通行なので、帰りはまた同じ道を辿ることになるらしい。
「うわー、さっそく反応があったよ。やっぱりお姉さんのそれ、キメラ種にとって恰好の餌なんだね」
「集めるにはちょうどいいか」
「そうだね。北から街へ来る数を減らすこともできるし……じゃあ、お姉さんは爆弾の準備をお願いするね」
「了解だ」
俺もまた、魔術と魔法を駆使して爆弾使用のための時間を稼ぐ。
それなりに威力は高いからな……張り切って頑張らないと。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる