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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド中篇 その04

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「「完成!」」


 俺たちは共に、錬金釜から生みだされたアイテムを見て歓喜の声を上げる。
 貴重な素材、高度な術式、膨大な魔力を基に思いっきりやってみた。

 その結果、釜の中には小さな箱のような物が一つ。
 だがそれは、本来生みだせるはずの無い代物……生産神の加護も知らないアイテム。


「お姉さんの職業は凄いね。絶対に失敗が無くなる能力、いくら何でもチートすぎるよ」

「失敗物はそうすることで、処理を簡易化させている。だから逆に、アイテムとして形を与えると悪影響になることもある……こんな風に」

「……なんだろう、凄い電子レンジでチンしたゲル状のバナナみたい」


 ヘルメギストスの職業は【錬禁術師】。
 極級の職業な【錬禁術師】の能力は、既存概念に囚われない錬金を行えるというもの。

 彼女の見せてくれたモザイク必須なアイテムは、錬金の配合や手順を間違えれば失敗するという法則から外れて、新たに生みだされたナニカ。

 一度作ればそれはレシピ化が可能となり、誰でも作れるようになるんだとか。
 ……ただし、それを作る過程をまったく同じにしないとただの失敗物になるらしい。

 爆弾もまた、そうして既存の作り方ではできない超危険な方法で生み出した。
 これで他の錬金術師もまた、キメラ種への抵抗策を一つ得たわけだ。


「お姉さんの能力はアレだね、先駆者みたいなものだね。誰もがみんな理解できるってわけじゃないけど、その道を辿る人が追いかけることができるように、整備してくれている感じかな?」

「……考えたことが無かった」

「えー、ちゃんと考えた方がイイよー。だってこのレシピだって、簡易化した物を作る予定なんでしょ? 物は使う人次第って言うけど、そもそもその物自体が無ければ、そんな話すらできないんだから」


 イタイのイタイのとんでけーくんを作っていたヘルメギストスだが、命名通り彼女の用途は鎮静である。
 それを悪意ある人々が使うから、副作用としての快楽を求めてしまう。

 もちろん、生みだした人にいっさいの責任が無いとは言わない。
 俺のように、偽善で作って物を広めて、ロクな結果を生まないこともあるだろう。

 それでも人は、歩みを止めないのだ。
 ならばせめて、覚えていてほしい──本来そのアイテムが、どういった願いを基に生みだされたのかを。


「……まっ、僕の場合は偽善だから、そこら辺は曖昧な方がいいんだけど」

「?」

「ううん、こっちの話だから気にしないで。それよりも、これの性能をテストしておいた方がいいかもね」


 小型の爆弾なので、投擲しても使える。
 また、予め登録した魔力波長を送ると爆発する……なんてことも可能だ。

 こちらもまた、既存の爆弾と言う概念に囚われない自由性を秘めている。
 範囲指定、敵味方識別など……魔物由来の素材を交えて強引に成し得ていた。


「というわけで転移しようか。お姉さん、ここに転移陣は?」

「奥に一つ。行き先はここから少し離れた別の洞窟」

「そっか。お姉さんがアレを持って動けば、勝手に付いてきてくれるだろうし……実際に使ってみよう!」

「……陣の起動に時間が掛かる。チャージが必要だが、ついさっき使ったばかり」


 錬金術師のヘルメギストスは、空間魔法などを持っていないようで。
 代わりに魔法陣を、自然魔力の充填で使えるようにしているらしい。


「なら、僕がやるよ。お姉さんがダメなら、別にいいんだけど」

「そんなことはない。なら、来て」


 緊急用の脱出口なのか、これまた何度か仕掛けを解除して向かう部屋の奥。
 隠さないのは、どうせ解除されるからとでも思っているのだろうか。

 まあ、経験を積んだお陰で罠解除スキルも得られたので、前以上に簡単だろうけど。
 ……発見スキルはまだ無いから、このままだと『解除(物理)』しかできないがな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 罠に魔力を充填していると、いくつかスキルを得られ……ればよかったのだが。
 有用な物であれば、魔力操作の派生から魔力放出や魔力圧縮なども得られただろう。

 だがしかし、俺は凡なる才能の持ち主。
 先ほどは何故か一発だったが、普段はスキル習得にかかる時間が尋常ではない。


「…………罠だから。解除して、利用するところまでが僕の才能の範疇に入っている、とかだったらヤだなぁ」

「どうかしたか?」

「ああうん、僕ってあんまりいいところが無いなぁって自己嫌悪に陥っているだけ」

「……?」


 まあともあれ、魔力をチャージしたことで無事に魔法陣は作動。
 言われていた通り、転移した先もまた洞窟の中だった。

 そこから外に出れば、入った洞窟から少し離れた場所……あくまで逃走用だな。
 一方通行なので、帰りはまた同じ道を辿ることになるらしい。


「うわー、さっそく反応があったよ。やっぱりお姉さんのそれ、キメラ種にとって恰好の餌なんだね」

「集めるにはちょうどいいか」

「そうだね。北から街へ来る数を減らすこともできるし……じゃあ、お姉さんは爆弾の準備をお願いするね」

「了解だ」


 俺もまた、魔術と魔法を駆使して爆弾使用のための時間を稼ぐ。
 それなりに威力は高いからな……張り切って頑張らないと。


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