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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド中篇 その03

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 スポンサー契約(仮)を交わしました。
 常日頃、偽善者の必須アイテムとも言える契約書は持ち歩いていたので、それはすぐに行われている。

 俺は求められる物を用意ていきょうし、彼女は求められた物を用意れんきんする。
 契約書へ互いにサインを交わし、記された契約は絶対のものとなった。

 ……ちなみに破った場合、もう一方の了承が無ければ酷い目に遭う。
 無理な注文をした場合、それはした側の問題になるのでそういうやり方は無し。

 あくまでもフェアに、関係も対等な方がいいだろう。
 眷属のように力を必要としないのだから、明確な上下関係は必要ないのだ。


「──うん、これで契約は成立だね」

「はい、これ」

「……いきなりなんだね。しかもこれ、かなりレア度の高い素材ばっかり」

「無理か?」


 いきなり渡されたメモに記された、入手困難な素材の名前。
 契約して早々、破棄させたいという裏が見え見えだが……まあ、問題ない。


「[アイテムボックス]っと。えーっと、たしかこの辺りに……有った、これが錬金用の素材を纏めた『収納袋』だよ。とりあえず、今はそれで我慢してね」

「っ……なんで」

「こんなこともあろうかと、って言うヤツかな? いちおうどんな物でも作れるから、素材は常日頃持ち歩いているんだ。ふふんっ、これくらいは無茶にはならないよ?」

「…………」


 契約に従い、素材提供一回につき依頼一回の権利が与えられる。
 逆もまた然り、俺が頼んだ分だけ彼女も素材を要求可能だ。

 違反しない限り、その貸し借りは延々と増え続ける……いずれ、返してもらうことになるだろうな。


「ねぇお姉さん、一つ訊きたいことがあるんだけど……いいかな?」

「何か?」

「キメラ種はお姉さんを狙っていた。僕もこうして素材を持っていたけど……もしかしてお姉さんは、キメラ種がとことん狙いたくなるようなナニカを持っているのかな?」

「…………」


 無言な辺りが、ビンゴだと教えてくれる。
 さすがに隠すのは無理だと察したのか、彼女もまた[アイテムボックス]からある物を取りだした。


「っ……そ、れは。お姉さん、それがどういう物なのか分かってる?」

「調べようとしたけど、さっぱり。むしろ、これが何なのか分かるの?」

「うん。それそのものは知らなかったし、それの持ち主が誰なのかも分からない……けどね、僕はその持ち主と同格の存在と会っているから。正体にも心当たりがあるんだ」


 ソレは小さな犬歯だった。
 はっきり言ってしまえば、『野犬ドッグ』が簡単にドロップしてしまいそうな品。

 しかし、その見た目とは裏腹に内包されたエネルギーが尋常ではない。
 だがそれ以上に、俺が気にしていることがあった。

 知っていた、類似した力の波長を。
 生と死を司り、生物の範疇を超越した──彼女を思い出すぐらいには。


「『超越種スペリオルシリーズ』、世界でも数体しか存在しない最強の生命体。お姉さんの持っているその牙は、中でも『万蝕』って呼ばれる個体の物だと思うんだ」

「……『万蝕』」

「キメラ種すべての個体に生えたあの牙。あれはその模造品、簡易版だね。で、だからこそお姉さんの持っている本物が欲しい。推測だけど、このクエストのボスはそれと同じ物で作られているからね」

「っ……同じ物!!」


 ああうん、そこが一番気になるのね。
 目をキラキラとさせて、何を言いたいのかがよく分かってしまう。


「お姉さん、それだけは無理だから。契約にも書いたけど、あくまで僕が提供するのはお姉さんでも集められる物だけ。その手間暇を省いて、錬金術に専念できるようにするのが契約内容だったよね?」

「うっ……」

「そんなに落ち込まなくても。たぶん、このクエストで貢献したら、その分だけ貰えるんじゃないかな?」

「っ! その手があったか!」


 一喜一憂、この四字熟語がピッタリだ。
 サンプルは多い方がイイ、それはどんな研究でも同じことだろう。

 さすがに本体から回収するのは、俺とて命懸けになってしまうので断った。
 しかし、このクエスト……母体ならば、間違いなく持っているだろう。


「というわけで、お姉さん。これからのことについて話し合おう。やることすべてに口出しするつもりは無いけど、そこに足りないものがあるならスポンサーとしてそれを補うお仕事があるからね」

「……まず、クエストへの貢献が必須。回復ポーションだけでは、足りないか」

「うん、そうなんじゃないかな? でも、お姉さんは攻撃アイテムも作れたよね?」

「可能だが……まだまだ改良が足りない」


 前に『量産型[発破六十死ちゃん]』というアイテムを買ったのだが、それもまた彼女が錬金術で生み出した爆弾アイテム。

 量産型、という言葉から分かるように誰でも使える安全(?)な爆弾だ。
 彼女用により強力な爆弾もあるらしいが、それでもキメラ種には通用しないようで。


「うーん、爆弾は僕もあんまり凄いのは作ったことが無いから……錬金とか関係なしに、化学兵器ならあるんだけど。目を輝かせないでね、これは固有魔法が必須なヤツだから」

「残念」

「となると、レシピの改良が一番だね。何が問題だったのか、一から洗い直してみよう。素材的な問題と知識的問題は僕が埋めるし、お姉さんならできるよ」

「……やってみよう」


 そんなこんなで、俺たちは強力な爆弾を作るべく頭を捻る。
 こういう状況でも無かったら、間違いなく逮捕されていたかもしれない。


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