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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その20

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 武芸や魔技、現代知識の話で眷属と盛り上がることはよくあった。
 しかし、生産だけは……料理を除いてほぼ話すことが無かったのだ。

 だがようやく、それを語り合うことができる相手を見つけた。
 ……少々のめり込み具合が異常だけど、それくらいじゃないと話が合わない。

 弟子である『月の乙女』の生産班は、まだまだお勉強が必要である。
 そんなわけで、たっぷり情報交換をしたのが現状だ。


「……あっ、不味いな」

「どうかしたか?」

「話し込んでいる間もポーションは作っていたからいいんだけど、時間の方は気にしておくのを忘れちゃってたよ」

「なんのこ──っ!?」


 この部屋、というか生産ギルドの個室は密閉で外に情報が漏れない仕様になっている。
 だが現在、彼女は外から聞こえてきた爆音に驚きを示した。


「ギルドにも影響が出るほどの攻撃を、受けたってことだよね」

「……どういうこと?」

「もう来たんだね、キメラ種が。序盤はそれなりに持つはずだったんだけど、今日ってまだ一日目だよね。あっ、そうだお姉さん。魔道具を使った方がいいかも」

『……分かってる』


 俺の主意識はここにあるが、副意識は常に眷属たちを見守っている……ちょっとそこ、ストーカーとか言わないでください。

 まあ、そうして飛ばした意識の一つが、ギルドの外の光景を把握していた。
 どうやら、北側からの攻めに耐えられる結界の一部に綻びが生まれたらしい。


「キメラ種が結界破りの能力を持っていたみたいだね。完全崩壊はしていないみたいなんだけど、それでも何体か侵入して暴れているみたいだ。で、ここが狙われている」

『……どうして。北なら冒険ギルドの方が速いはず』

「答えだけ言えば素材。キメラ種は取り込んだ相手の情報をもとに進化できる。たしかに冒険ギルド、それに商人ギルドもレアな物があるだろうけど……」

『数ならここが一番、か』


 そう、普段使いする以上それなりの数がここには集められている。
 そもそも、知性があるなら戦力が集まる冒険ギルドよりこちらを選ぶだろう。

 だからこそ、ここは攻められた。
 防衛をしているようだが、個室の機能が失われる程度には苦戦しているわけだ。


「それじゃあお姉さん、僕は行くけど……お姉さんはどうする?」

『行こう。キメラ種の素材は、それなりに価値がある』

「うん、そう言ってくれると思った。じゃあさっそく、やろうか──“兆雷撃ギガボルト”!」


 上に手をかざし、魔法を発動。
 短時間しか発動できない代わりに、高威力が見込める雷魔法だ。

 もちろん、それを使った意味はある。
 轟音が上空で轟くと、突如として天井が崩壊した……そこからは、キメラ種たちが降り注いできた。


「お姉さんの持っている素材って、結構貴重じゃない?」

『…………』

「それも狙いの一つなんだと思う。他の場所のキメラ種は、空間にも干渉できる……これが何を意味するかは、分かるよね? 生産職は戦うことが仕事じゃない、あんまり派手には動けないよ」

『……結界は張っておこう』


 そう言って彼女は、縛り中は俺もよく使う結界構築の魔道具を展開する。
 彼女オリジナルのそれは、広範囲かつ高硬度を発揮する結界だった。


『『無敵バリア君』は必要とする魔石の純度が問題だが、ちょうど今魔石の方から来てくれた。剥ぎ取りはできる?』

「むて……う、うん、大丈夫だよ」


 何体かキメラ種を解体している内に、スキルの方も獲得。
 規制コードはすでに解除していたので、今さらだが……利便性に間違いはない。

 あえて生産神の加護は使わず、記憶していた知識だけで解体を行う。
 完璧な成果とはいかないが、それなりに上手くできたと思えた。

 何体かのキメラ種から先んじて核を抉り取り、結界の支柱として使用。
 瞬く間に生産ギルドを覆うように、結界が発動して防壁となる。


「この後はどうするの?」

『狙いが言う通りならば、ここに居るのは悪手。ここを離れる……後は好きにして』

「うん、分かった」

『……なぜ隣に来る』


 好きにしろと言われて、別の場所に行くと言うのはテンプレではあるまい。
 何より、その貴重な素材とやらで行う錬金にも興味があるからな。


「まだお姉さんに教えてもらえてないこと、教えたいことがたくさんあるから。自己責任ということで、付いてっちゃダメ?」

『……どうぞご自由に』

「ありがとう! しばらくの間、お世話になりますヘルメスお姉さん!」


 すでにポーションは納品済み。
 個室を出てロビーまで戻ると、キメラ対処に追われるギルド員に推察を説明。

 狙われている場所がちょうどアイテムの格納室ということもあり、それは理解される。
 ついでに彼女のため、いくつかのアイテムが譲渡されていた。


「囮を買って出るなんて……お姉さんって、好い人なんだね」

『貴重な素材を奪われるわけにはいかない。本気で抗うなら、自由民は邪魔。ノゾムも居ない方がいい』

「だから、自己責任ってことでね。さっきの魔法みたいに──僕なりの戦い方を見せるから、少し考えてよ」


 結界を抜けた直後、それなりの数のキメラ種が彼女を標的にする。
 俺はバッと前に進み出ると、某フルメタルな錬金術師のように手を地面に着けた。


「それじゃあ行くよ──『高速錬械』!」
《身体強化、魔眼、握力強化、身力操作、体幹、体勢、脱力、並列思考、高速思考、細胞活性、駈足、平衡、俊足、豪力、健脚、行動予測、精密操作──上級錬金+土魔法》


 普段は【統属魔法】と超級錬金スキルを使う運用だが、土魔法と上級錬金で代用。
 補助として複数のスキルを発動して行うのは、地面に干渉しての錬金術起動。

 刻む陣は物質変換、形状変化、材質強化、存在定着など……複数の術を同時に地面経由で発動して武器を構築する。


「錬金術師兼リュキア流獣剣術見習い。ノゾム、押して参る!」


 剣の素材は身力を通しやすい真銀、そして融合させやすい芯銅による合金。
 それなりに魔力を喰うが、この後魔法は使わないので問題ない。


「リュキア流獣剣術“開牙カイガ”──“鷲蜀シュウトウ”!」


 斬撃が飛び、次々とキメラ種へと命中。
 追加効果で拘束が発生し、斬撃を喰らったキメラ種たちは地面に縫い付けられていく。

 もちろん、すぐに逃げ出すだろう。
 そうなる前に、使い終えた剣を投擲して別の剣を地面から引き抜く。


「──“斬爪ザンソウ”、“破牙ハカ”、“連尾レンビ”!」
「──“隼鹿シュンカ”、“虎狼コロウ”、“蛇推ジャスイ”!」


 次々と放つ獣剣術の型。
 それに合わせて直接キメラ種たちに接近。
 斬撃だけでなく、刺突も交えてどんどん辺りのキメラ種を斬っていった。

 ある程度処理をし終えた後、残された剣はあと一振り。
 周囲にキメラ種の影は無いが、遠くから近づく気配を発見。


「お姉さん、この後の予定は?」

『……隠れ家へ向かう。ここの北にある。結界の綻びに来ないよう、誘導するにはちょうどいい』

「あくまで隠れ家の一つ、って感じがするけど。うん、なら都合がいいかも。お姉さん、ちゃんとついてきてね」

『何を……っ!?』

「リュキア流獣剣術──“渡取ワタリドリ”!」


 空間を割き、距離を殺す斬撃。
 遥か先に居たキメラ種ごと空間を飛ばし、彼女の向かうべき場所へ続く道を斬り開く。


『……異常』

「あはは。と、とにかく、これなら道中を気にしなくていいから。いっしょに行こうよ」

『……分かった』


 そうして彼女の手を引っ張り、俺たちは北のフィールドへと転移する。
 キメラ種たちを振り払い、彼女の隠れ家へと向かうのだった。


  □   ◆   □   ◆   □


 思えば俺は、彼女と共に居ることを感覚的に必要だと察していたのだろう。
 キメラ種が空間越しに希少なアイテムを感じ取る、そう俺は言った。

 それはつまり、俺もまた彼女が持つナニカに価値があると分かっていたのだ。
 ……だがナニカの正体が、いったい何なのかは未だ分からないまま。


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