2,031 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド前篇 その20
しおりを挟む武芸や魔技、現代知識の話で眷属と盛り上がることはよくあった。
しかし、生産だけは……料理を除いてほぼ話すことが無かったのだ。
だがようやく、それを語り合うことができる相手を見つけた。
……少々のめり込み具合が異常だけど、それくらいじゃないと話が合わない。
弟子である『月の乙女』の生産班は、まだまだお勉強が必要である。
そんなわけで、たっぷり情報交換をしたのが現状だ。
「……あっ、不味いな」
「どうかしたか?」
「話し込んでいる間もポーションは作っていたからいいんだけど、時間の方は気にしておくのを忘れちゃってたよ」
「なんのこ──っ!?」
この部屋、というか生産ギルドの個室は密閉で外に情報が漏れない仕様になっている。
だが現在、彼女は外から聞こえてきた爆音に驚きを示した。
「ギルドにも影響が出るほどの攻撃を、受けたってことだよね」
「……どういうこと?」
「もう来たんだね、キメラ種が。序盤はそれなりに持つはずだったんだけど、今日ってまだ一日目だよね。あっ、そうだお姉さん。魔道具を使った方がいいかも」
『……分かってる』
俺の主意識はここにあるが、副意識は常に眷属たちを見守っている……ちょっとそこ、ストーカーとか言わないでください。
まあ、そうして飛ばした意識の一つが、ギルドの外の光景を把握していた。
どうやら、北側からの攻めに耐えられる結界の一部に綻びが生まれたらしい。
「キメラ種が結界破りの能力を持っていたみたいだね。完全崩壊はしていないみたいなんだけど、それでも何体か侵入して暴れているみたいだ。で、ここが狙われている」
『……どうして。北なら冒険ギルドの方が速いはず』
「答えだけ言えば素材。キメラ種は取り込んだ相手の情報を素に進化できる。たしかに冒険ギルド、それに商人ギルドもレアな物があるだろうけど……」
『数ならここが一番、か』
そう、普段使いする以上それなりの数がここには集められている。
そもそも、知性があるなら戦力が集まる冒険ギルドよりこちらを選ぶだろう。
だからこそ、ここは攻められた。
防衛をしているようだが、個室の機能が失われる程度には苦戦しているわけだ。
「それじゃあお姉さん、僕は行くけど……お姉さんはどうする?」
『行こう。キメラ種の素材は、それなりに価値がある』
「うん、そう言ってくれると思った。じゃあさっそく、やろうか──“兆雷撃”!」
上に手を翳し、魔法を発動。
短時間しか発動できない代わりに、高威力が見込める雷魔法だ。
もちろん、それを使った意味はある。
轟音が上空で轟くと、突如として天井が崩壊した……そこからは、キメラ種たちが降り注いできた。
「お姉さんの持っている素材って、結構貴重じゃない?」
『…………』
「それも狙いの一つなんだと思う。他の場所のキメラ種は、空間にも干渉できる……これが何を意味するかは、分かるよね? 生産職は戦うことが仕事じゃない、あんまり派手には動けないよ」
『……結界は張っておこう』
そう言って彼女は、縛り中は俺もよく使う結界構築の魔道具を展開する。
彼女オリジナルのそれは、広範囲かつ高硬度を発揮する結界だった。
『『無敵バリア君』は必要とする魔石の純度が問題だが、ちょうど今魔石の方から来てくれた。剥ぎ取りはできる?』
「むて……う、うん、大丈夫だよ」
何体かキメラ種を解体している内に、スキルの方も獲得。
規制コードはすでに解除していたので、今さらだが……利便性に間違いはない。
あえて生産神の加護は使わず、記憶していた知識だけで解体を行う。
完璧な成果とはいかないが、それなりに上手くできたと思えた。
何体かのキメラ種から先んじて核を抉り取り、結界の支柱として使用。
瞬く間に生産ギルドを覆うように、結界が発動して防壁となる。
「この後はどうするの?」
『狙いが言う通りならば、ここに居るのは悪手。ここを離れる……後は好きにして』
「うん、分かった」
『……なぜ隣に来る』
好きにしろと言われて、別の場所に行くと言うのはテンプレではあるまい。
何より、その貴重な素材とやらで行う錬金にも興味があるからな。
「まだお姉さんに教えてもらえてないこと、教えたいことがたくさんあるから。自己責任ということで、付いてっちゃダメ?」
『……どうぞご自由に』
「ありがとう! しばらくの間、お世話になりますヘルメスお姉さん!」
すでにポーションは納品済み。
個室を出てロビーまで戻ると、キメラ対処に追われるギルド員に推察を説明。
狙われている場所がちょうどアイテムの格納室ということもあり、それは理解される。
ついでに彼女のため、いくつかのアイテムが譲渡されていた。
「囮を買って出るなんて……お姉さんって、好い人なんだね」
『貴重な素材を奪われるわけにはいかない。本気で抗うなら、自由民は邪魔。ノゾムも居ない方がいい』
「だから、自己責任ってことでね。さっきの魔法みたいに──僕なりの戦い方を見せるから、少し考えてよ」
結界を抜けた直後、それなりの数のキメラ種が彼女を標的にする。
俺はバッと前に進み出ると、某フルメタルな錬金術師のように手を地面に着けた。
「それじゃあ行くよ──『高速錬械』!」
《身体強化、魔眼、握力強化、身力操作、体幹、体勢、脱力、並列思考、高速思考、細胞活性、駈足、平衡、俊足、豪力、健脚、行動予測、精密操作──上級錬金+土魔法》
普段は【統属魔法】と超級錬金スキルを使う運用だが、土魔法と上級錬金で代用。
補助として複数のスキルを発動して行うのは、地面に干渉しての錬金術起動。
刻む陣は物質変換、形状変化、材質強化、存在定着など……複数の術を同時に地面経由で発動して武器を構築する。
「錬金術師兼リュキア流獣剣術見習い。ノゾム、押して参る!」
剣の素材は身力を通しやすい真銀、そして融合させやすい芯銅による合金。
それなりに魔力を喰うが、この後魔法は使わないので問題ない。
「リュキア流獣剣術“開牙”──“鷲蜀”!」
斬撃が飛び、次々とキメラ種へと命中。
追加効果で拘束が発生し、斬撃を喰らったキメラ種たちは地面に縫い付けられていく。
もちろん、すぐに逃げ出すだろう。
そうなる前に、使い終えた剣を投擲して別の剣を地面から引き抜く。
「──“斬爪”、“破牙”、“連尾”!」
「──“隼鹿”、“虎狼”、“蛇推”!」
次々と放つ獣剣術の型。
それに合わせて直接キメラ種たちに接近。
斬撃だけでなく、刺突も交えてどんどん辺りのキメラ種を斬っていった。
ある程度処理をし終えた後、残された剣はあと一振り。
周囲にキメラ種の影は無いが、遠くから近づく気配を発見。
「お姉さん、この後の予定は?」
『……隠れ家へ向かう。ここの北にある。結界の綻びに来ないよう、誘導するにはちょうどいい』
「あくまで隠れ家の一つ、って感じがするけど。うん、なら都合がいいかも。お姉さん、ちゃんとついてきてね」
『何を……っ!?』
「リュキア流獣剣術──“渡取”!」
空間を割き、距離を殺す斬撃。
遥か先に居たキメラ種ごと空間を飛ばし、彼女の向かうべき場所へ続く道を斬り開く。
『……異常』
「あはは。と、とにかく、これなら道中を気にしなくていいから。いっしょに行こうよ」
『……分かった』
そうして彼女の手を引っ張り、俺たちは北のフィールドへと転移する。
キメラ種たちを振り払い、彼女の隠れ家へと向かうのだった。
□ ◆ □ ◆ □
思えば俺は、彼女と共に居ることを感覚的に必要だと察していたのだろう。
キメラ種が空間越しに希少なアイテムを感じ取る、そう俺は言った。
それはつまり、俺もまた彼女が持つナニカに価値があると分かっていたのだ。
……だがナニカの正体が、いったい何なのかは未だ分からないまま。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる