上 下
2,027 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その16

しおりを挟む


 始まりの街


 街の内部にキメラ種は侵入してこない。
 それは祈念者と自由民たちが力を合わせて防衛しているからでもあるが、単純に構築された結界の恩恵でもある。

 一定の大きさを誇る街だと、そうした防衛システムが用意されていた。
 祈念者たちもクエストを重ねて、どうにかその設営を成し遂げたのだ。

 効果は一定以下の位階であれば拒絶、それ以上なら嫌悪。
 そうでなくとも結界の防御力が、時間稼ぎになるという代物。


「まあ、キメラ種には大して効果ないけど」


 彼らは命じられた内容通りに動いている。
 そのため自分が嫌がろうと、そこに壊すべき物があれば何としても突破を目指す。

 まあ、そんなわけで結界であろうと絶対に安全ではない。
 だからこそ自由民も前に出て、戦おうとしているのだ。


「……さて、いったいどうしようかな? 戦うのは前にやったし、むしろ僕よりもディーの方が活躍するから行ってもあんまり意味が無いというか。うん、行かなくてもいいか」


 何かやることは無いかな……と辺りを見渡すと、物凄い勢いで走る祈念者を発見。
 目的地は神殿、出発地点はおそらく……生産ギルドだろうか。


「ポーションが足りないのかな? 戦場の方に向かう人もいたし……よーし、やることが決まったぞ」


 そんなこんなで向かうのは当然、生産ギルドだった。
 中では場所を問わず調合や錬金が行われ、ポーションをどんどん生みだしている。

 それらはだいたい下位ポーション、初心者が使う気休め程度の物。
 普段ならそれでもいいだろうが、今相手にしているキメラ種では意味が無い。

 それが分かっているのだろう、それらはすべて鍋にぶち込まれて錬金されていた。
 出来上がるのは中位ポーション、即席なので効果は低いが下位ポーションより使える。

 そのまま上位を……となると思ったが、残念ながら上位は素材もかなり要るので、ただ互換を利用した錬金では無理だった。

 何より、上位ポーションともなれば、戦いのお供として有用になる。
 わざわざ雑に作らず、個室で担当者が丹精込めて作り上げていることだろう。


「さてと、僕も頑張ろうっと」


 受付で話を通し、下位ポーション作りに参加させてもらう。
 スキル的には中級錬金があるのだが、だからと言ってすぐには他を任されない。

 個室使用者を超えるほど、圧倒的な技術を見せなければ成り上がりは無理だ。
 そして今回、俺は別にそういったことを望みはしない……面倒だしな。


「まあ、適当に作ればいいか」


 下位ポーションの作り方は簡単。
 魔力の籠もった水の中に、薬草を調合した秘薬と呼ばれる代物を入れ、さらに魔力を注いで混ぜるだけ。

 基礎はこれだけだが、魔力の籠め方やら混ぜ方によって個性が出る。
 完全に模倣したいのであれば、レシピをその人から教わる必要があるわけだ。

 俺の場合、応用はせず完全に基礎だけを守りポーションを生成していく。
 工夫を凝らした失敗より、平凡でも使うことのできるポーションを目指す。


「どうせ称号の効果で、全部B以上の品質になるからね。面倒だし、一気にやろうっと」


 錬金釜(大)を用意して、その中で錬金を始める。
 一気にやればその分難易度も上がるが、品質が保証されているため気にしない。

 完成した下位ポーションの品質はB+。
 称号補正でBを出したうえで、大量生産の補正を受けてもう一段階上になったようだ。

 できたポーションを、そのまま互換錬成と呼ばれる錬金術で加工。
 これまた適当に、錬金釜に刻んだ術式が補助をして完成──品質はB+。


「獲得するまでが大変な称号だから、それ以降は全部がスムーズだよね……。よし、これで中位ポーションも完成だ」


 受付にダース単位でポーションを出すと、驚きながらもすぐに鑑定を始め……さらに驚いた様子。

 まあ、適当かつ即席で作った物がそれなりにいい品質になっているからだな。
 普段ならさして必要とされなくとも、こういった緊急時であれば価値も出てくる。


「あ、あの……少しよろしいでしょうか?」

「ん? 何か用?」

「はい。貴方様の腕ならば、おそらく上位やそれ以上のポーションも可能なはず」

「中級錬金の範疇ならね。あっ、でも素材の方が……」


 目立つつもりは無かった……というようなことは思っていない。
 面倒ではあるが、それなりに嫌だったというのが一番の理由だ。

 向けられる視線。
 それは俺が子供の見た目だからというわけではなく、何も工夫をしていないと思われるやり方で叩き出す品質の程よい高さに。

 何か不正をしているのではないか、こんな状況でも思う者は思う。
 自由民はそうではないが、命懸けという概念から最も程遠い祈念者はそんな目だった。


「こちらでご用意したします。なのでよろしければ、相部屋という形でお願いできないでしょうか?」

「……元の人は、大丈夫なの?」

「問題ございません。すでに、許可を得ております。ただ、部屋を仕切りで分けることを条件とさせていただきました」

「うん、それなら大丈夫だね」


 その後は言われた部屋に向かい、分けられた仕切りの空いている方へ向かうだけだ。
 素材に関しては、同時に渡された魔道具で連絡すれば用意してもらえるらしい。

 そうじゃなくても、個室にある生産ギルドで溜め込んだ素材を取りだせる魔道具で、大抵の物は出せるんだとか。

 至れり尽くせりとはこのことか。
 まあ、スキルの習得にも使えそうだし、ある程度は頑張ってみようか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...