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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その16

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 始まりの街


 街の内部にキメラ種は侵入してこない。
 それは祈念者と自由民たちが力を合わせて防衛しているからでもあるが、単純に構築された結界の恩恵でもある。

 一定の大きさを誇る街だと、そうした防衛システムが用意されていた。
 祈念者たちもクエストを重ねて、どうにかその設営を成し遂げたのだ。

 効果は一定以下の位階であれば拒絶、それ以上なら嫌悪。
 そうでなくとも結界の防御力が、時間稼ぎになるという代物。


「まあ、キメラ種には大して効果ないけど」


 彼らは命じられた内容通りに動いている。
 そのため自分が嫌がろうと、そこに壊すべき物があれば何としても突破を目指す。

 まあ、そんなわけで結界であろうと絶対に安全ではない。
 だからこそ自由民も前に出て、戦おうとしているのだ。


「……さて、いったいどうしようかな? 戦うのは前にやったし、むしろ僕よりもディーの方が活躍するから行ってもあんまり意味が無いというか。うん、行かなくてもいいか」


 何かやることは無いかな……と辺りを見渡すと、物凄い勢いで走る祈念者を発見。
 目的地は神殿、出発地点はおそらく……生産ギルドだろうか。


「ポーションが足りないのかな? 戦場の方に向かう人もいたし……よーし、やることが決まったぞ」


 そんなこんなで向かうのは当然、生産ギルドだった。
 中では場所を問わず調合や錬金が行われ、ポーションをどんどん生みだしている。

 それらはだいたい下位ポーション、初心者が使う気休め程度の物。
 普段ならそれでもいいだろうが、今相手にしているキメラ種では意味が無い。

 それが分かっているのだろう、それらはすべて鍋にぶち込まれて錬金されていた。
 出来上がるのは中位ポーション、即席なので効果は低いが下位ポーションより使える。

 そのまま上位を……となると思ったが、残念ながら上位は素材もかなり要るので、ただ互換を利用した錬金では無理だった。

 何より、上位ポーションともなれば、戦いのお供として有用になる。
 わざわざ雑に作らず、個室で担当者が丹精込めて作り上げていることだろう。


「さてと、僕も頑張ろうっと」


 受付で話を通し、下位ポーション作りに参加させてもらう。
 スキル的には中級錬金があるのだが、だからと言ってすぐには他を任されない。

 個室使用者を超えるほど、圧倒的な技術を見せなければ成り上がりは無理だ。
 そして今回、俺は別にそういったことを望みはしない……面倒だしな。


「まあ、適当に作ればいいか」


 下位ポーションの作り方は簡単。
 魔力の籠もった水の中に、薬草を調合した秘薬と呼ばれる代物を入れ、さらに魔力を注いで混ぜるだけ。

 基礎はこれだけだが、魔力の籠め方やら混ぜ方によって個性が出る。
 完全に模倣したいのであれば、レシピをその人から教わる必要があるわけだ。

 俺の場合、応用はせず完全に基礎だけを守りポーションを生成していく。
 工夫を凝らした失敗より、平凡でも使うことのできるポーションを目指す。


「どうせ称号の効果で、全部B以上の品質になるからね。面倒だし、一気にやろうっと」


 錬金釜(大)を用意して、その中で錬金を始める。
 一気にやればその分難易度も上がるが、品質が保証されているため気にしない。

 完成した下位ポーションの品質はB+。
 称号補正でBを出したうえで、大量生産の補正を受けてもう一段階上になったようだ。

 できたポーションを、そのまま互換錬成と呼ばれる錬金術で加工。
 これまた適当に、錬金釜に刻んだ術式が補助をして完成──品質はB+。


「獲得するまでが大変な称号だから、それ以降は全部がスムーズだよね……。よし、これで中位ポーションも完成だ」


 受付にダース単位でポーションを出すと、驚きながらもすぐに鑑定を始め……さらに驚いた様子。

 まあ、適当かつ即席で作った物がそれなりにいい品質になっているからだな。
 普段ならさして必要とされなくとも、こういった緊急時であれば価値も出てくる。


「あ、あの……少しよろしいでしょうか?」

「ん? 何か用?」

「はい。貴方様の腕ならば、おそらく上位やそれ以上のポーションも可能なはず」

「中級錬金の範疇ならね。あっ、でも素材の方が……」


 目立つつもりは無かった……というようなことは思っていない。
 面倒ではあるが、それなりに嫌だったというのが一番の理由だ。

 向けられる視線。
 それは俺が子供の見た目だからというわけではなく、何も工夫をしていないと思われるやり方で叩き出す品質の程よい高さに。

 何か不正をしているのではないか、こんな状況でも思う者は思う。
 自由民はそうではないが、命懸けという概念から最も程遠い祈念者はそんな目だった。


「こちらでご用意したします。なのでよろしければ、相部屋という形でお願いできないでしょうか?」

「……元の人は、大丈夫なの?」

「問題ございません。すでに、許可を得ております。ただ、部屋を仕切りで分けることを条件とさせていただきました」

「うん、それなら大丈夫だね」


 その後は言われた部屋に向かい、分けられた仕切りの空いている方へ向かうだけだ。
 素材に関しては、同時に渡された魔道具で連絡すれば用意してもらえるらしい。

 そうじゃなくても、個室にある生産ギルドで溜め込んだ素材を取りだせる魔道具で、大抵の物は出せるんだとか。

 至れり尽くせりとはこのことか。
 まあ、スキルの習得にも使えそうだし、ある程度は頑張ってみようか。


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