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偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド前篇 その15
しおりを挟むユウからの相談、それは首長竜に似たキメラ種が確認されたというものだった。
「──確定した情報じゃないんだけど、結構の数の目撃情報が届いているんだ」
なぜ俺がそれを気にするのか……それは、ある意味、俺が用意した魔物だからだ。
正確には魔族が用意したのだが、アンデッドにして暴走させたりしていた。
なのでその肉片が飛び散り、キメラ種が食べたという可能性も捨てきれない。
解体持ちが飛散させていたら、あとで還元されることなく残ってしまうからな。
《首長竜と言えば水生だろ? なら、そこを重点的に探せば出てくるんじゃ……》
「ううん、たしかに湖の中で見たって話もあるんだけど。それ以上に、陸で見たって話の方が多いんだ」
《……わけが分からなくなってきたな。つまりアレか? 首長竜みたいに目立つヤツが、堂々と陸で泳いでいるってか?》
「泳いでいるかは分からないけど……たぶんそう。だから師匠、どうすればいいか考えてほしいんだ」
ユウは知らないだろうが、罪悪感からどうにかする気ではいる。
しかし、いかにも見つけやすそうな首長竜が見つからないのはおかしいな。
隠蔽系のスキルがあるにしたって、さすがに一人ぐらいは気づくはず。
さらに言えば、大人数で同時に看破でもすればすぐに見破れるだろうに。
つまり、単純にスキルで隠れているわけでは無いということ。
あくまでも、首長竜になれる性質を得た、変化系のキメラ種ということなのだろう。
《──とまあ、そんな推理だな。常時その姿じゃないから、分からない……もしくは条件が満たされないと変化できないとかそういうところだろ。しかしまあ、速く討伐しないと厄介だろうな》
「えっ? 人を集めて、確実に倒した方がいいんじゃないの?」
《キメラ種ってさ、マザーの個体に得た能力の情報を送信しているんだ。で、それが有用なら以降発生する個体に初期能力として定着する。首長竜というか、強力な魔物になれる能力なんて厄介そのものだろ》
「た、確かに……」
最前線で戦うナックルが得た情報を、そのままユウに伝える。
もう[掲示板]に挙がっているかもしれないが、確認する暇もないからな。
《というわけで、ユウはそれをサクッと討伐しておいてくれ。こういうときの【傲慢】だからな。制御もできるんだろう?》
「アルカと練習したから、できるにはできるけど……うぅ、師匠は見ないでよ?」
《ん? ああ、弟子がそう言うならそうしておこう。じゃあ、俺は別の場所を見に行くからな》
「うん……師匠のバカ」
丸聞こえだったのだが、『侵化』の悪影響が酷いのか……と俺なりに察してやる。
俺の場合、【傲慢】で『侵化』をするとハイテンションになるしな……仕方が無いか。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの街 神殿
ユウの所で少し長引いたので、魔力は回復しきったようだ。
だいぶ前にクラーレが教えてくれた、魔力回復特化スキルの活魔も習得していた。
たぶん、その影響で加速的に回復が終了したのだろう。
新たにスキルを得られたのは、大変喜ばしいことだ……つい笑みが零れ出てしまう。
「……あまり無茶はしてはいけないよ」
「えっ? あ、あっと……もう魔力は充分に回復しましたので、またやらせていただいてもいいですか?」
「…………本当に大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です!」
ここまで疑われると侵害なのだが、どうせ表情がどうとかそういうことなのだろう。
眷属の美的センスを受け継いだメルと違って、ノゾムはほぼ成長過程の俺だしな。
純粋な笑みも、そこまで言われれば引き攣りを起こし、余計に悪化させてしまう。
……無表情スキルとか演技スキルを、早めに得ておいた方がイイかもしれないな。
「そうだ、回復魔法を試してみようかな? 一回だけ……■■■■■──“持続回復”」
回復属性の魔力を体内に浸み込ませ、継続的に回復を行うこの魔法。
特段意味は無いのだが、僅かながらに他の回復魔法を使うと熟練度上げ中補正が入る。
理屈的には、体内に回復属性の魔力があるから他の回復魔法も気持ち程度に性能が向上しているかららしい……気にしたことが無いので分からんが、やるだけやってみよう。
「まあ、魔術の場合は全部純属性に変換してから使うから関係ないんだけど」
魔術は(属性)魔法を持たざる者たちが生みだしたもの……ということに、この世界ではなっている。
現に祈念者が活動するこの大陸では、機人族ぐらいしか魔術の使い手は居ない。
細々と継承はされているだろうが……この辺は、アルカにでも聞いてみるとしよう。
「けど、回復魔法も取ったからあんまりここに居続ける理由はないかな? 最悪、祈念者は死に戻りを選べば全快するんだし」
死に戻りとはアバターの再構築……というよりも、初期の設計図を基に一から作り直しているのだ。
再構築と何が違うかと言えば、リサイクルできないならゼロから作る点。
代わりに時間という対価を支払うが、どんな死に方でも必ず万全の状態で蘇生可能。
はっきり言ってしまえば、蘇生時間が変わるだけでどんな死に方をしても祈念者は絶対に戻ってくるのだ。
ならは俺が魔術で癒さずとも、彼らがこれ以上イベントに参加できなくなるだけで、特段誰も困るわけでは無い。
──うん、もう面倒だから出ようか。
偽善者が人のことを思いやって、自分の求めるやり方を歪める方がおかしい。
そう考え、この後俺は最低限の仕事を済ませて神殿を後にするのだった。
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