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偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド前篇 その13
しおりを挟む自由民の怪我はそこまでひどくはない。
ボスが責任を以って統制しているし、祈念者たちが体を張って守っているからだ。
それでも怪我人をゼロにするのは、時間を追うごとに厳しくなっているようで……。
まあ、それでも都市内部での被害がまったくないのだから、素晴らしい成果だろう。
「回復量が──以上の方はこちらへ、状態異常の回復ができる方はこちらへ。部位欠損の回復ができる方はこちらへお願いします!」
神官の一人が回復系の能力の使い手に、担当してほしい場所を伝えていた。
効率よく負傷者を治すためにも、最低限のコストで治していく必要があるからな。
俺もまた、神官に自分のできることを伝えて参加する予定だ。
回復魔法の取得の条件、その一つに他者への総回復量なんてものがあるからな。
「はい! 使えるのは基礎属性すべての回復魔法です。魔力の自然回復は速いので、指示された属性の魔法で治します」
「……それなら君はこっちだ。あまり多くのポーションは用意できていないから、回復したらまた使ってもらう形になるよ」
「大丈夫です!」
属性ごとに“〇治癒”という魔法が存在していて、一定レベルになれば使える。
それぞれ差異のある効果と共に、対象の負傷を癒すことが可能だ。
火なら止血、水なら沈痛、風なら……といろいろとサポート付きである。
状況に合わせてそれらを選べるのは、属性無視でスキルを得られる祈念者の利点だ。
そういうわけで、神官に案内されたのは比較的ダメージの少ない人たちが集まる場所。
……まあ、見た目が子供なので、あまり血が出ていない場所を選んでくれたのかもな。
「──使えるのは全属性だね。じゃあ、指定した属性で治癒をお願いするよ」
「分かりました」
小難しいことは言われず、ただ負傷者に合わせて魔法を使わされるだけ。
回復魔法スキルで使える魔法より、その燃費は悪い……が、そこは大して問題ない。
これまでの経験で得た制御系のスキル、わざわざ真面目に詠唱をすることでコストを極限まで抑えているからだ。
それでも連発すれば魔力が尽きて、そうなればいったん休憩を与えられる。
呼吸と冥想のスキル、そして『無吸』の型で回復を早めに終わらせて改めて参加。
「……本当に大丈夫なのかい?」
「はい。自己申告通り、回復速度には自信がありますので」
「これなら……よし。君、血は──」
「大丈夫です!」
血がどうとか考えていては、偽善なんてできないだろう。
血魔法や血の流出を強要する魔剣も使っているのだから、とっくに慣れている。
その言葉が本当だと分かったのか、神官はすぐに別の場所へ俺を案内した。
そこでは苦し気に呻く祈念者たち……死に戻りをすると時間が勿体ないからな。
残って痛みに耐えることを選んだ彼らを、祈念者も自由民も関係なく癒している。
再び戦場に駆りだし、戦わせる……考えてみると残酷な気もするけど。
「まっ、それは自分たちで望んでいることだしね。さーて、それじゃあ頑張ろうか」
祈念者相手ならば、多少強引な治し方でも問題ない。
これまでは沈痛の水による治癒が多かったが、即効性の高い火を多く使うことに。
半分意識を失いながらも、焼灼止血に近いやり方で治されて悲鳴を上げる祈念者たち。
慣れない祈念者は顔色が真っ青だが、自由民たちは淡々と彼らを治していく。
……正直、祈念者に対しては治すというよりも『直す』といった感じが酷い。
ある程度動けるようになれば、自分でなんとかできるからな、祈念者って。
「えっとどうしますか、もう限界って顔をしていますけど?」
「……やるんだ」
「分かりました。■■■──“闇治癒”」
闇の回復魔法、その効果は痛覚の鈍化。
本来生じるはずの違和感に気づかせることなく、再び戦うための魔法……神官たちは、その間に痛みを伴う回復魔法を使う。
麻酔のような使われ方をされている俺の魔法だが、実力が伴なわないので仕方がない。
回復魔法の習得も、まだまだできていないのだ……今の俺に回復の補正は無いからな。
「あっ、回復魔術を忘れてたな……」
「君、それはどういったものなんだい?」
「えっと、それはですね……」
つい漏れていた言葉を聞かれていたので、そのまま話をしてみる。
すでに魔術デバイスは自由民たちにも知られているので、それを見せてみた。
「この装置があれば、誰でも回復魔法に似たことができます──『癒療』」
「これは……! すまないが、いっしょに来てもらえるか?」
「分かりました」
この後の展開はお察しの通り。
魔術をもう一度使わされ、その仕組みを解析され……細胞活性化が行われていると判明して、貸与を持ち掛けられた。
「──つまり、その装置は君専用だから貸すこともできないと?」
「とある祈念者のお祭りで売っていたんですけど、そう説明を受けました。実際、鑑定屋さんにもそう言われています」
「……分かりました。では、その魔術を生かしたお手伝いをしてもらいたい。もちろん、お礼はさせてもらう……どうかね?」
「分かりました。僕にできることでしたら、何でもやらせていただきます!」
そんなこんなで、俺は少々ハードなお仕事も受けることになる。
俺は回復魔法習得に励めるし……うん、正直に言えば損が無いからな。
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