2,023 / 2,519
偽善者と混乱の牙 三十二月目
偽善者と大規模レイド前篇 その12
しおりを挟むそして、まさに暗殺日和……月の無い夜に事件は起きる。
焚き火をしてPKたちを待っていた俺たちだが、突然チャルが動く。
「おっ、ようやく来たぞ」
「……えー、やっと?」
彼女の手を伸ばした先、それは俺の眼前。
これまた定番というか、闇に紛れる黒塗りの短剣を掴んでいた。
まあ、雑魚な俺をサクッと屠る、もしくは支援役を潰すというアイデアなのだろう。
問題はチャルが余裕で防げるほど、対して何も細工をしていなかった点か。
「チャル、武技のエフェクトってあった?」
「ん? そういや、黒く光ってたな。その光で隠してたけど、結構いろんな色で光ってた気もする」
「やってそれだったんだ……とりあえず、魔法を試そう―っと──“焦光”」
『ぎゃぁあああ! 目が、目がぁ~!』
すでにバレていると分かって、あえてネタに走ったようだ。
うん、嫌いじゃない……頑張って光魔法を習得した甲斐があったよ。
「チャル、面白そうだから一つだけOK」
「マジで!? じゃあ、炉は──」
「あっ、それは無し。それ以外なら好きにしていいからさ」
「へー。なら、アレにしようか──『SSC(仮)』起動!」
彼女がソレを起動した瞬間、すべてが始まり──終わったのだろう。
推定形なのは、今の俺に事象を把握する術が無かったからだ。
用いられた歯車『SSC(仮)』。
炉以外の機関は未完成なので『(仮)』なのだが……まあ、短期間であれば使うことができる。
その効果はシンプルに──時間操作。
主観的な時間と世界の時間を操り、自身に都合がいいよう加速や減速が可能となる。
「ふぅ、終わったぜ」
「おー、お疲れ様。それで、使ってみた感覚はどうだった?」
「全然つまらない。向こうは何もできないのに一方的に攻撃して……最低限、相手も同じことができる相手じゃないと」
「ふむふむ、性能に関しては問題ないみたいだね……まあ、ここら辺は眷属たちと詰めていった方がいいか。しかしまあ、ずいぶんと遠くから攻撃してきたよね。お陰で相手を視認できなかったよ」
まあ、焚き火をしていたから目立つところに来れなかった、というのもあるのか。
そりゃそうか、なんせ──火柱が轟々と、天まで伸びているもんな。
「キメラ種を釣るためにこうして燃やしていたけど……もういないのかな?」
「私のセンサーにはもう反応がないな。そもそも不毛の地なんだし、もっといいところがあるじゃないか」
「都市の方は僕たちでやるわけにはいかないよね。チャルがデスペナにしたから、しばらくはPKたちも暴れられないはずだし、とりあえずは放置でいいか。うーん、バレないなら砂漠を狩り尽くしてもいいんだけど……」
「まあ、無理だよな。仕方ねぇ、またあの渓谷で待ってるよ」
さすがに九区画分も狩り尽くせば、祈念者たちも怪しむだろうし。
最低限、転移アイテムで渓谷に運ぶぐらいが精いっぱいだろう。
なので彼女には、再びあちらでの待機をお願いすることになるだろう。
ナックルが強化個体を持ち込んでくれるだろうし、飽きはしないはずだ。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの街
空間魔法を使えないので、暇潰しで書いておいたスクロールで帰ってきた。
魔本みたいに繰り返し使えない物も、だいぶ作っている……なかなか使わないけどな。
「まあ、十二分に使いこなしたいなら、魔力操作系の能力が必須なんだけど……そもそもそれに長けた魔法使いって、自前の魔法があるから不要なんだよね。あんまり意味が無いというか、特定の魔法以外不人気だよなー」
転移魔法、回復魔法、結界魔法……そうした習得しがたい魔法ほど、価値ある物としてそれなりに売れている。
今の俺のように、レアな魔法を習得できない人々が多いからだ。
そうなると、スクロールそのものも、その製作者にも価値が生まれる。
うちだとリュシルがそれに該当するが、彼女は魔本も創れるのでスクロールの製作者以上に狙われるだろうな。
「スクロールでも熟練度稼ぎはできるし、レベリングには使えるけど……魔力操作以外が磨けないからなー」
普通に使えば魔力操作以外にも、詠唱系のスキルなども同時に磨ける。
しかしスクロールの場合、魔力操作と発動した魔法の属性しか磨くことができない。
意識することが多いが、複数のスキルを育てたいなら詠唱するのが一番だ。
何より、普通に魔法を発動することを目指した方が魔法スキルも得やすいからな。
「祈念者はメインスキルの枠に制限があるから、調整が必須だけど。僕の体は好きなだけスキルを盛れるし、やれることは何でもやらないとね」
なんてことを呟くのは、自由民が運び込まれている神殿内部。
誰にも見つからないよう隠れながら、周囲の様子を窺っている。
「熟練度稼ぎにちょうどいいし、ヒーラープレイで助けてあげようっと」
嗚呼、地味だけどもこれこそが偽善!
割としっかりとした偽善をやるということで、若干ながら俺のモチベーションが上がっているようだ。
回復魔法は使えないが、回復魔術ならばある程度心得ている。
それでも熟練度は稼げるし……魔力が続く限り、やっていこう。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。
タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる