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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その12

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 そして、まさに暗殺日和……月の無い夜に事件は起きる。
 焚き火をしてPKたちを待っていた俺たちだが、突然チャルが動く。


「おっ、ようやく来たぞ」

「……えー、やっと?」


 彼女の手を伸ばした先、それは俺の眼前。
 これまた定番というか、闇に紛れる黒塗りの短剣を掴んでいた。

 まあ、雑魚な俺をサクッと屠る、もしくは支援役を潰すというアイデアなのだろう。
 問題はチャルが余裕で防げるほど、対して何も細工をしていなかった点か。


「チャル、武技のエフェクトってあった?」

「ん? そういや、黒く光ってたな。その光で隠してたけど、結構いろんな色で光ってた気もする」

「やってそれだったんだ……とりあえず、魔法を試そう―っと──“焦光スコーチライト”」

『ぎゃぁあああ! 目が、目がぁ~!』


 すでにバレていると分かって、あえてネタに走ったようだ。
 うん、嫌いじゃない……頑張って光魔法を習得した甲斐があったよ。


「チャル、面白そうだから一つだけOK」

「マジで!? じゃあ、炉は──」

「あっ、それは無し。それ以外なら好きにしていいからさ」

「へー。なら、アレにしようか──『SSC(仮)』起動!」


 彼女がソレを起動した瞬間、すべてが始まり──終わったのだろう。
 推定形なのは、今の俺に事象を把握する術が無かったからだ。

 用いられた歯車『SplitSecondchronograph(仮)』。
 炉以外の機関は未完成なので『(仮)』なのだが……まあ、短期間であれば使うことができる。

 その効果はシンプルに──時間操作。
 主観的な時間と世界の時間を操り、自身に都合がいいよう加速や減速が可能となる。


「ふぅ、終わったぜ」

「おー、お疲れ様。それで、使ってみた感覚はどうだった?」

「全然つまらない。向こうは何もできないのに一方的に攻撃して……最低限、相手も同じことができる相手じゃないと」

「ふむふむ、性能に関しては問題ないみたいだね……まあ、ここら辺は眷属たちと詰めていった方がいいか。しかしまあ、ずいぶんと遠くから攻撃してきたよね。お陰で相手を視認できなかったよ」


 まあ、焚き火をしていたから目立つところに来れなかった、というのもあるのか。
 そりゃそうか、なんせ──火柱が轟々と、天まで伸びているもんな。


「キメラ種を釣るためにこうして燃やしていたけど……もういないのかな?」

「私のセンサーにはもう反応がないな。そもそも不毛の地なんだし、もっといいところがあるじゃないか」

「都市の方は僕たちでやるわけにはいかないよね。チャルがデスペナにしたから、しばらくはPKたちも暴れられないはずだし、とりあえずは放置でいいか。うーん、バレないなら砂漠を狩り尽くしてもいいんだけど……」

「まあ、無理だよな。仕方ねぇ、またあの渓谷で待ってるよ」


 さすがに九区画分も狩り尽くせば、祈念者たちも怪しむだろうし。
 最低限、転移アイテムで渓谷に運ぶぐらいが精いっぱいだろう。

 なので彼女には、再びあちらでの待機をお願いすることになるだろう。
 ナックルが強化個体を持ち込んでくれるだろうし、飽きはしないはずだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの街


 空間魔法を使えないので、暇潰しで書いておいたスクロールで帰ってきた。
 魔本みたいに繰り返し使えない物も、だいぶ作っている……なかなか使わないけどな。


「まあ、十二分に使いこなしたいなら、魔力操作系の能力が必須なんだけど……そもそもそれに長けた魔法使いって、自前の魔法があるから不要なんだよね。あんまり意味が無いというか、特定の魔法以外不人気だよなー」


 転移魔法、回復魔法、結界魔法……そうした習得しがたい魔法ほど、価値ある物としてそれなりに売れている。

 今の俺のように、レアな魔法を習得できない人々が多いからだ。
 そうなると、スクロールそのものも、その製作者にも価値が生まれる。

 うちだとリュシルがそれに該当するが、彼女は魔本も創れるのでスクロールの製作者以上に狙われるだろうな。


「スクロールでも熟練度稼ぎはできるし、レベリングには使えるけど……魔力操作以外が磨けないからなー」


 普通に使えば魔力操作以外にも、詠唱系のスキルなども同時に磨ける。
 しかしスクロールの場合、魔力操作と発動した魔法の属性しか磨くことができない。

 意識することが多いが、複数のスキルを育てたいなら詠唱するのが一番だ。
 何より、普通に魔法を発動することを目指した方が魔法スキルも得やすいからな。


「祈念者はメインスキルの枠に制限があるから、調整が必須だけど。僕の体は好きなだけスキルを盛れるし、やれることは何でもやらないとね」


 なんてことを呟くのは、自由民が運び込まれている神殿内部。
 誰にも見つからないよう隠れながら、周囲の様子を窺っている。


「熟練度稼ぎにちょうどいいし、ヒーラープレイで助けてあげようっと」


 嗚呼、地味だけどもこれこそが偽善!
 割としっかりとした偽善をやるということで、若干ながら俺のモチベーションが上がっているようだ。

 回復魔法は使えないが、回復魔術ならばある程度心得ている。
 それでも熟練度は稼げるし……魔力が続く限り、やっていこう。


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