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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その10

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 とまあ、ここで祈念者がやらかしたがために、ワールドクエストが起きたわけだ。
 文字通り『何でも自由な世界AllFreeOnline』なので、一人がやらかせば全員に影響が行き届く。

 要するに、一人はみんなのために……という銃士的なアレである。
 責任はみんなで背負えよ、ただし上手くいくとは限らないといった感じの。


《時間経過でどんどん強い個体が発生しているわけなんだが……ゲーム的には、どういう設定なんだ?》

「ここの奥の個体が、全キメラ種の情報を共有しているらしい。つまり、ネットワークのサーバーとして機能して、各個体が得た糧を他の個体も何らかの形で得られるようにしている……みたいな感じだ」

《レベルまで上がっているのは? 情報だけじゃ、強くはなれないはずだろ》

「直接地脈やら龍脈から奪っているとかなんとか……だからクエスト失敗の暁には、かなりヤバいことになるそうだ」


 ワールドクエストとは、本当に世界規模に影響を及ぼす内容となっている。
 今回の場合、失敗すれば大陸中のリソースが奪われて生命体が一気に枯渇するだろう。

 地脈や龍脈は自然を育み、魔物を育てる。
 同時に人もまたその流れを街に組み込み、大規模な結界などを構築することで外敵からの脅威に備えていた。

 恒久的に結界を維持することは、それなりに難易度の高いこと。
 そのため術式化した結界魔法を、地脈や龍脈のエネルギーで運用する場合が多い。

 ──それが失われたとき、押し寄せてくる魔物たちに対処ができるかは不明だ。


《ナックル、単刀直入に訊くが……祈念者だけでクエストクリアは可能か?》

「できる。だが、絶対に犠牲が出る。お前の言う『選ばれし者』が集まれば、すぐにでもボス戦ができるはずだが……無理だろう?」

《だろうな。一人、眷属を派遣している場所があるがかなり酷い。見た限り、こっちの五倍ぐらいの数を独りでやらされているぞ》

「……それでも対処できている辺り、お前の眷属も凄まじいな」


 派遣しているアリィは、眷属の中でも特に格上殺しジャイアントキリングに特化している。
 相手が強くても関係なく、能力さえ発動すれば封殺可能だ。

 アリィ、そしてアリスが居れば最悪の状況になることは無いだろう。
 そして、他の『選ばれし者』の状況も同時に把握している。

 形はどうあれ、全員が全員キメラ種との戦いに貢献していた。
 それは眷属になったお嬢さんも同様……今は歌を超広範囲に届けているだろう。


「結局は理想論なわけだ。どうにかやってはいるが、ボスのキメラ種が想像以上に厄介で苦戦している」

《俺も始まりの街の東でやっているが、もう耐えられなくなっていたぞ。早すぎる展開は何が原因なんだ?》

「……何人かのランカーが、すでに敗北している。本来倒せるレベルのキメラ種に……妨害をしている連中がいるかもしれない」

《何がしたいんだろうな。破滅主義者にしても、そもそもゲームとして環境が最悪になるかもしれないのに》


 少なくとも、うちで雇っている三人の仕業では無いだろう。
 今回、彼らは自由にさせたのだ……今さら働かせるなんてことはしない。


《活躍していれば、邪魔だってことで排除に動くかもしれないな》

「……やってくれるか?」

《谷で待っている眷属、一騎当千で他が暇そうなんだよ。暴れて困らない相手のようだから、誘き寄せられるか試してみよう》

「感謝する」


 というわけで、待機している眷属に参加してくれるかを確認。
 ノリノリで了承してくれたので、一人を決めてもらって後で移動することを約束した。


《で、ランカーが死んだから、防衛できなくてキメラ種が強化されたのか?》

「それもある。占領されたという報告の後から、一段階強く感じた。おそらく、地脈や龍脈が奴らの手中に収まったからだろう。ついでに言うと、食った祈念者から強力なスキルでも解析したのかもしれない」

《捕食で能力をパクる感じの能力か……あの牙、たぶん特殊な効果がありそうだしな》

「だいたいそんな感じだとは思う。キメラ種でも、これまで食った相手の力を取り込むという話は聞いたことが無いからな」


 ちょうど【暴食】にも、同じような能力があるのでそう言える。
 キメラ種一体ごとに生やしている牙……あれらには、相応の力が宿っていた。

 ボス個体でもある始まりのキメラともなれば、より質の高い物のはずだ。
 グーの解析の結果もある……ソイツに関しては、本気で警戒しないとな。


《これからの方針はどうする? このままだとジリ貧だろ》

「なんとかして食い止めるつもりだが、いつまで持つのやら。誰も居なくなれば、充分に力を蓄えるはずだしな……さすがにお前の所の奴らを、ここに送るわけにはいかない」

《それは同感だ。まあ、ボス個体で無ければ転送してくれて構わない。それはアイツらも望んでいることだしな。後で追加分を送っておくから、知り合いにどんどん回してくれ》

「助かる」


 ナックルとの話を終えた俺は、再び意識を始まりの街へ戻す。
 俺自身はそのままにしても、他の奴らをもう少し積極的に動かすべきだろうか。

 ……まあ、考えていても仕方がない。
 今はただ、戦い続けて行こうじゃないか。


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