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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その08

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 始まりの街


 なんというか、超一流の技を見た後に素人の下手なモノを見ているというか……それに似た気分である。

 改めて意識を向けたフィールドでは、稚拙ながらもどうにかキメラ種たちへ対抗する祈念者たちの姿が映った。

 彼らはスキルや職業を上位のものに進化させられていない者が多く、それゆえに単純なことをやっているのだ……派手なことをできないのが不服なのか、そういう表情だ。

 まあ、俺とディーでやった大量吸収もそんな表情をさせてしまう理由かもしれない。
 魔法もそれなりに目立つけど……同じことばかりじゃ飽きるしな。


「ディー、おいで」

『♪』

「よしよし。結構頑張ったみたいだね、新しい因子はさすがに無いけど、いろんな種族を解放しているじゃないか」

『♪』


 ありとあらゆる種に通ずるユニーク種。
 その可能性は無限大なのだが、その代償として模倣する形状の一つひとつに経験値や素材、因子などを必要としている。

 主に位階で必要量は決まるのだが、ディーはとりあえずすべての形状を開放済み。
 俺のスキルで因子は提供したので、なりたい姿に直接なることはできる。

 だが、それ以外が足りないので、これまで変身できていなかった。
 しかしキメラ種は多くの魔物の素材が得られるので……うん、ボーナスタイムだな。


「動物系が一番多いかな……人型よりは、キメラとして組み込みやすいんもんね。うん、それじゃあディー。いつも通り、好きなように進化していいからね」

『♪』


 俺の集めたほぼすべての因子だが、それでも網羅しているわけじゃない。
 何よりユニーク種など、オンリーワンな種族に関してはいっさい手が付いてないし。


「ん? 組み込まれている魔物の位階が少し上がっているね。となると、また難易度が上がっているのかも……そろそろ祈念者だけだと耐えられなくなるかな?」


 シュリュとミシェルの無双を見て、これまたやる気を誘発された俺。
 人に流されやすい……と適当な大義名分を以って戦場へ向かう決心をする。


「常時起動に『不可侵ノ密偵ハイドエンド・シーク』をセット。追加で『遊歩ノ靴フリーウォーク』にして、自分自身で……そうだ、“過程演算シミュレート”を使おう」


 そして、魔術だけでなく他のモノも使う準備を始めていく。
 手には武器を、脳裏では詠唱を……足に精気力を注いで防壁の上から跳躍する。


「『初心の武丸』──『剣』」


 ギーの超劣化版、ただし一つだけ受け継いでいる不壊の性質。
 要するに全チュートリアル武具の合体版であるそれは、形状を剣へと変化させる。

 祈念者の大半が握ったことのあろう武骨で単純な片手剣、俺もまたその感触を懐かしみながら、宙を蹴りキメラ種へ襲い掛かった。


「始まりはこれだ──“切斬スラッシュ”」
《怪力、剛筋、身体強化、体幹、握力強化、身力操作、指力強化、豪力、呼吸、電導体、魔力体・雷、行動予測、暗躍、加虐、集中、並列行動、身力制御、切断強化、気配遮断、強者殺、悪逆非道、報復──“限界突破”》


 大量のスキルを同時に使う、祈念者ではほぼありえない自由民に近しい戦い方。
 ガンガン身力が減っていく中、姿を察知されないままキメラ種へと接近。

 握り締めたその剣を、四足歩行をしている獣型のキメラ種……その首へ一振り。
 初歩中の初歩である“切斬”も、複数のスキルで補正を受ければ──この通り。

 大きさで言えばダンプカーほどだったキメラ種は、あっさり首を落とされ地に伏せる。
 あっけない終わりだなぁと思いつつ、宙から地面に降り立った反動で再び跳躍した。


「お次はこれ──“怪電波イリーパルス”」


 魔力体として使ったことからも分かるが、度重なる“万色魔力”の行使によって雷魔法の習得を果たしている。

 電気を迸らせ、周囲に発生させる不協和音に似た電波。
 キメラ種たちも、まだ音波に対する耐性はあまり持っておらず……苦しみだす。

 この魔法の本質は、意識がそちらへ向いてしまうことによる知覚の妨害。
 一匹の首を落とした以上、他のキメラ種もそれに気づくだろう。

 だがその前に、その邪魔をしたうえで一気に畳みかける。
 そのための“遊歩ノ靴”、自由に宙を蹴りだし立体機動でキメラ種の下へ向かう。


「『斧』──“振打スイング”」


 棒状の武器によく使われる武技を、剣から形を変えた斧で発動する。
 打撃系の武技だが……まあ、使い方を変えれば普通に裁断ぐらい簡単だ。

 また一つ、キメラ種の首が落ちる。
 しかし“怪電波”の効果は持続しており、それに気づく個体はいない……もう少しぐらいならできそうだな。


「『槌』──“振叩スマッシュ”」


 高めに距離を取って、そこから放つのは強烈な打撃。
 首を落とすことはできない……が、その一撃は頭ごと首を打ち砕いた。


「うん、もうバレるな……あんまりレア過ぎる武器に頼らず戦うっていうのも、たまにはいいかもしれないな」


 キメラ種の高い適応性が、だんだんと電波による干渉を防ぎつつある。
 引き継ぎが行われる以上、何度も通用はしないだろう……切り替えるべきだ。

 そんなわけで、俺もまったく異なる戦い方で挑む。
 眷属にも手数だけは多いと評判なので、たまにはやってみようと思います。


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