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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その05

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 始まりの街


 再び意識を戻す……少し長めに別の場所へ意識を向けていたため、この街付近がどう変化しているか気になった。


「……うわぁ」


 だが目にしたのは、あまりにも凄惨な光景だった……キメラ種による蹂躙。
 祈念者たちは成す術もなく、死んでは蘇りまた死んでいく。

 いちおう倒せてはいるが、すぐに死体は回収されて捕食されている。
 そのため他のキメラ種が強化され、より戦いづらくなるという悪循環。

 だが倒さなければ街が危ないのだから、それもどうにかしなければならない。
 すでに泥沼状態、草原が広がる東のフィールドは血の海と化していた。


「このクエスト中はドロップ還元がされないらしいから、こういうことになるのか。まあ肉体を残すには、全員に解体スキルの倫理解除と同じものを当て嵌めないとダメか」


 祈念者は初期設定ならば、倒した魔物を自動で解体してもらえる。
 しかし、代わりにランダムかつ獲得できるアイテムに制限が設けられるのだ。

 そのためより多くのアイテムを得るため、解体スキルを得て自分で何とかするのだが、そうした場合は周囲にもその設定が当て嵌められてしまう。

 要するに血や臓物が飛び出るスプラッターな光景が、否が応でも繰り広げられる。
 今回のクエスト中は、そこまではいかないが死体だけは残る状態になっていた。


「ここに援軍が来るのか知らないけど……さすがに不味いよな」


 なんせ、すでにキメラ種の討伐推奨レベルは50ほど。
 祈念者全体で見ればまだまだ低いものの、やはり初心者には辛い相手だ。

 しかし熟練の祈念者たちは、自分に見合うレベルのキメラ種と戦闘中。
 わざわざ実入りの少ないこのフィールドのキメラ種と戦う理由は、ほとんどない。


「ボスが動けばすぐだろうけど……そうは簡単に行かないだろうしな。仕方ない、少しばかりやりますか」


 向こうも向こうで、別の場所を鎮圧すべく忙しいのだ。
 ならばそれに代わるべく、俺もいい加減に動き出すべきなのだろう。

 やはり、支援だけという細やかな目的は頓挫してしまったか。
 まあでも、眷属たちの活躍を見て少しは働きたいと思っていたところだ。


「さぁ、出番だぞ──ディー」

『♪』


 俺が腕輪に呼び掛けると、そこに嵌められた宝珠が光り輝き何かが飛び出す。
 その正体は魔粘体……の姿をした、この世界で唯一無二の個体。

 ユニーク種『進退流転[ディヴァース]』──それこそが彼の本来の名前であり、俺がソロで戦いに挑むときに力を貸してくれる相棒のような存在だ。


「それじゃあディー、さっそく頼むぞ」

『♪』

「『鋼魔粘体』か……少し重そうだが、まあスキルでどうこうできるレベルだ。そのまま武器になってくれ」

『♪』


 葛餅みたいだった色も、金属のメタリックなカラーへと変化する。
 その名が示す通り進退流転、好きな姿になることができるのがディーの性質だ。

 変化したディーの姿を見た後、さらに変化して武器になってもらう。
 子供でも扱える短めの剣、魔力を通してみると非常にスムーズに通った。

 生きている魔物なので、そもそも伝導率は普通の鋼よりも高い。
 剣でありながら、杖よりも上手く魔法が使えるようになるって……うん、凄いな。


「じゃあ、まずは一発──“回復源泉ヒールスプリング”!」

『♪』


 魔法が発動すると、自由民が待機する門と最前線の間に泉が現れる。
 すぐ近くに居た祈念者が触れると……彼の生命力がゆっくりと回復し始めた。

 それこそが“回復源泉”の効果。
 発動地帯にいる者すべてに、癒しの恩恵をもたらす……回復魔法には劣るが、常駐できる魔法なので扱い易い。


「はい、次──“追風テイルウィンド”!」


 ただ風を後ろから吹かせる魔法だが、攻撃しない分こちらも長持ちする魔法だ。
 他の魔法の速度や飛距離を向上させられるので、支援魔法の一種とも言えよう。


「さらに──“泥人形スワンプマン”」



 先ほどの泉が充分に周囲を濡らしていることを確認後、その泥を触媒に魔法を発動。
 泥濘からズゾゾゾっと人形が起き上がり、キメラ種に向かって捨て身の特攻を行う。

 俺の魔力が続く限り行われるそれらの支援で、祈念者たちが少しずつ取り返していく。
 回復スポット、遠距離攻撃強化、そして自分たち以上に死んでも困らない道具。

 それらを使い潰して、自分たちの糧としていく祈念者たち。
 経験者たちが指揮を執り、一体ずつ可能な限り弱らせていった。

 俺はそれを、ただ門の上からジッと眺めているだけ……魔法の維持と移動停止による自然回復に努めているからな。


「ただまあ、しばらくはこのままだし……少し遊んでくるか、ディー?」

『♪』

「よし、じゃあ気を付けろよ。鑑定は妨害していても、気づくヤツはスキルか何かで気づくかもしれない。そうなったら……最悪、消してしまっていいからな」

『♪』


 物騒なことを聞くと、器用に人の腕を生やしてグッジョブとしていったディー。
 ……こういうところ、いったいどこで学んできているのやら。


「まあ、他の奴らが来るまではここで人暴れしながらディーの調査かな? あのスキルで定着させた情報が、どこまで使えるのか……ついでに他のものもいっしょに調べるか」


 正式な形で従えているのはディーだけなので、調べたいことがかなりある。
 いずれやってもらいたいこともあるし、今日は予行演習だと思ってもらおうか。


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