上 下
2,015 / 2,518
偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド前篇 その04

しおりを挟む


 コールザード王国 付近


 先ほどまで意識を向けていたスリース王国のさらに北、極寒とも言えるような吹雪が荒れているこの地。

 ほんの少しだけ祈念者が居るものの、この地を襲うキメラ種のレベルは高い。
 来ることのできる祈念者と比べても、質では負けるが数では圧倒している。

 かつてはスリース王国の公爵云々で揉めた国ではあるが、国民に罪はない。
 将来有望な子供も見つけているのだ、道半ばで諦めさせるわけにはいかなかった。


《──そういうわけだから、頼むぞ》

「……さ、寒すぎますわ。こ、こんな調子で本当に勝てますの!?」

《おお、好いノリツッコミだ。安心しろ、俺もリー一人で勝てるとは思ってないから。だからそこは二人なんだろ? ギー、リーの分まで頑張ってくれ》

「バッチこい」


 担当するのは二人、(デ)バフ特化のリーと何でも模倣なリー。
 こっそり祈念者たちを支援しながら、完全防衛を達成してもらうべく待機させていた。

 これまで見てきた地帯よりも、少々発生に時間が掛かっていた。
 まあ、スリース王国よりも強い寒さへの耐性が無いと、来れないもんな。

 キメラ種たちの場合、もともと耐性の無い種も居ただろうし……発生地点的にも、結構苦労したのかもしれない。

 スリース王国と被らせないためか、両者の中間地点からは魔物は発生していなかった。
 そのため、スリース王国の場合は少しマシな南から……こちらは極寒の北から来る。

 祈念者たちも、相応の準備をしなければいけないので数が少ない。
 だが、キメラ種は……時間と糧さえ用意されれば、充分に戦えるようになる。


「それでは、施しますわ──“身力欺瞞パワーチャフ”、“耐寒エンチャントレジ付与スト・コールド”」


 リーが付与したのは、放つ存在感を抑える魔法と寒さへの耐性を付与する魔法。
 通常の効果より、彼女が発動する支援魔法の効果は高い。

 神器の武具っ娘であるリーは、その身で神気を生成することができる。
 ある意味、支援に特化した彼女はその力を魔法に施すことで、効果を強化できるのだ。

 ……俺は知らなかったが、本来神は自分に関わることにしか神気を使えないらしい。
 俺が何にでも神気を供給できたのは、何を担うのか決めていなかったからなんだとか。


 閑話休題ようちょうさ


 神の力でブーストされた支援魔法の効果は凄まじく、誰も二人に気づかない。
 なので、何食わぬ顔で祈念者たちの近くを通ってキメラ種の下へ向かった。


「リー、合わせて──『追いかけ貫けグングニル』」

「分かりましたわ──“強撃溜込アサルトチャージ”!」


 ギーは分裂スキルで自分を増やし、形状を槍に変化させる。
 必中の性質を宿した槍は、確実に魔物たちの下へ向かう。

 リーの魔法で威力は強化され、風の壁を突き抜けていく。


「──『降り注げゲイ・ボルグ』」

「ああもう、対象を急に増やさないでよ──“命中補正ポイントヒット”、“操力指導《ガイドライン》”!」


 槍はその形状を変え、弾け、キメラ種の魔物たちに降り注いでいく。
 必中の性質は失われたが、そこはリーが補うことでクリア。

 当たれば即死の槍が降り注ぎ、その数が一気に減っていく。
 祈念者たちの知覚範囲よりもさらに奥、誰にも知られない殲滅戦が始まった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 W1 迷いの森


 始まりの街から西側、入り組んだ森の中で一人の少女が立っている。
 これまでの眷属と違い、彼女はまだいっさいの戦闘行為をしていなかった。


「……暇ね」

《まあ、だからこそ派遣云々も全然話していなかったわけだし。そっちで交渉してくれて助かったよ》

「自己判断で動くことにしたけど、なかなか上手いわね。地形も利用して、侵攻をどうにか抑え込んでいる」


 ここは現地人である森人──月詠森人ルナエルフたちが強く、彼ら自身でどうにかなっている。
 祈念者の中でも、いわゆるエルフスキーな人種も集まっているので防衛は可能だ。

 あくまでも、初期段階ではだが。
 今後どうなるのか、それによっては彼女が動くことになるだろう。


《けど、そう長くは持たないだろうな。戦うことはできるだろうが、いっさい侵入させないのは……難しい。キメラ種は食えば食うほど成長するから、絶対に限界が訪れる》

「そうなる前に、なんとかしたいわね」

《同感だ。だから、ヤバくなると感じたら対処をお願いしたい。頭の固いお偉い様はともかく、話の通じそうなヤツがいただろう?》

「……彼もメルスに目を付けられて大変ね。分かったわ、彼に話を通しておく」


 この森でもっとも速く月詠森人へ進化したイアンという森人、彼ならば彼女の手助けをすることができるはずだ。

 自分たちだけでどうにかなると思っているお偉い様は、死んでも困らない祈念者を働かせればイイというところで思考が停止している……彼らでも防ぎ切れないことはある。

 先ほども言ったが、どうにかなるのは初期段階までの話。
 個体によっては無限に成長できるキメラ種たちに、その理屈は通じない。


《頼んだぞ、ティル──【獣剣聖姫】様》

「急に何よ……ええ、獣聖剣に誓って守り抜いてみせるわ」


 腰に下げた聖なる剣は、カタカタと呼応するように震えている。
 ……が、威力が尋常ではないので、使われるのはだいぶ後になるだろうな。

 使うにしても、間違いなく終盤。
 極限まで力を蓄えれば、今回の特殊なキメラ種たちは使うに値する実力を示してしまうわけだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...